darklyさん
レビュアー:
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ハッピーエンドの裏で少し複雑な気持ちになりました。
週末にかけて出張もあり、最近少し疲れ気味なので軽そうなものをということで世間から数年周回遅れとなっております本書を持っていきました。読み進めていきますと色々な考えが頭をよぎり軽い感じではなかったのが予想外でしたが、作品自体はもちろん良かったです。
一般的には入れ替わりと過去改変SFに若者の恋愛を絡めたファンタジーということになるのでしょう。先日読んだ「過去と和解するための哲学」にもこの作品は「ありえたかもしれない救済」がテーマであるとの記述もあり私はどうしてもそちらの方に考えが引っ張られました。
三葉の住む町、糸守町は過去にも彗星が落下したことがあり、今回も落下するということが起こりますが、この設定がどうしても東北大震災の津波を想起させます。
あの時、私は会社で研修の講師をしており、地震の連絡が入ってテレビを見た時に現実のものとは思えませんでした。頼むからみんな逃げてくれ、過去何回も津波に遭って、その恐ろしさは分かっているのだからその経験を生かしてくれと思ったことは忘れません。
子供の頃日本昔話というアニメがありました。その中で未だに忘れられないのが「みちびき地蔵」。気仙沼の昔話ですが、山の上にみちびき地蔵があり、その地蔵に明日死ぬ人たちの生霊がお参りに来るという。ある日山に住む人がみちびき地蔵に大勢の生霊がお参りしているのを目撃する。その翌日、潮が引き、村人がわかめ採りに夢中になっているところに津波がきて沢山の人が亡くなるという話です。
あの震災の日、私はこの昔話を思い出しました。映像も本もない時代、子孫に向けた教訓やアドバイスを昔話という口承文学として伝えてきたのだろうと思います。しかし、何代も世代が入れ替わる内にその危機感は薄れていくのが人の常でもあるでしょうし、今回の津波はまさに想定外であった側面もあったかもしれません。
この物語では三葉の祖母である一葉は神主であり三葉は巫女です。この家系の人間は彗星落下(自然災害)の前に未来の人間と入れ替わる能力(自分ではコントロールできないが)があり、未来の人の力を借りて過去の被災から救う役割が与えられています。祖母一葉が巫女の時代には彗星は落下せず、しきたりもその意味を一葉は分からずに形式的に継承しているようですが、結局はそのしきたりがあったから救済につながったのであり、過去から伝わっているものには意味があるのだという新海さんの意図が感じられます。もちろん現実にそのような能力の人間がいるわけもなく、前述の昔話のような過去の伝承や記録を教訓として油断しないようにするしか手はないのですが、何かもっと被害が少なくなった未来はあり得なかったのかと考えてしまいます。
このような過去改変の物語では、過去は結局変えられない、あるいは過去は変えることができても主人公たちはハッピーエンドにはなれないというパターンが多いように思います。しかし、この物語は明るく希望に満ちた未来を予感させるハッピーエンドで終わります。それは直接東北大震災で被災された方に向けたものではないかもしれませんが、人々に対して変えられない過去について映画を通じて少しでも「癒し」になればとの新海監督の思いがあるように思います。
マーブルさんから頂いたアドバイスもあり、小説を読んだ後、映画も観ました。噂に違わず素晴らしい映像に圧倒されました。小説も映画も素晴らしいと思います。
一般的には入れ替わりと過去改変SFに若者の恋愛を絡めたファンタジーということになるのでしょう。先日読んだ「過去と和解するための哲学」にもこの作品は「ありえたかもしれない救済」がテーマであるとの記述もあり私はどうしてもそちらの方に考えが引っ張られました。
三葉の住む町、糸守町は過去にも彗星が落下したことがあり、今回も落下するということが起こりますが、この設定がどうしても東北大震災の津波を想起させます。
あの時、私は会社で研修の講師をしており、地震の連絡が入ってテレビを見た時に現実のものとは思えませんでした。頼むからみんな逃げてくれ、過去何回も津波に遭って、その恐ろしさは分かっているのだからその経験を生かしてくれと思ったことは忘れません。
子供の頃日本昔話というアニメがありました。その中で未だに忘れられないのが「みちびき地蔵」。気仙沼の昔話ですが、山の上にみちびき地蔵があり、その地蔵に明日死ぬ人たちの生霊がお参りに来るという。ある日山に住む人がみちびき地蔵に大勢の生霊がお参りしているのを目撃する。その翌日、潮が引き、村人がわかめ採りに夢中になっているところに津波がきて沢山の人が亡くなるという話です。
あの震災の日、私はこの昔話を思い出しました。映像も本もない時代、子孫に向けた教訓やアドバイスを昔話という口承文学として伝えてきたのだろうと思います。しかし、何代も世代が入れ替わる内にその危機感は薄れていくのが人の常でもあるでしょうし、今回の津波はまさに想定外であった側面もあったかもしれません。
この物語では三葉の祖母である一葉は神主であり三葉は巫女です。この家系の人間は彗星落下(自然災害)の前に未来の人間と入れ替わる能力(自分ではコントロールできないが)があり、未来の人の力を借りて過去の被災から救う役割が与えられています。祖母一葉が巫女の時代には彗星は落下せず、しきたりもその意味を一葉は分からずに形式的に継承しているようですが、結局はそのしきたりがあったから救済につながったのであり、過去から伝わっているものには意味があるのだという新海さんの意図が感じられます。もちろん現実にそのような能力の人間がいるわけもなく、前述の昔話のような過去の伝承や記録を教訓として油断しないようにするしか手はないのですが、何かもっと被害が少なくなった未来はあり得なかったのかと考えてしまいます。
このような過去改変の物語では、過去は結局変えられない、あるいは過去は変えることができても主人公たちはハッピーエンドにはなれないというパターンが多いように思います。しかし、この物語は明るく希望に満ちた未来を予感させるハッピーエンドで終わります。それは直接東北大震災で被災された方に向けたものではないかもしれませんが、人々に対して変えられない過去について映画を通じて少しでも「癒し」になればとの新海監督の思いがあるように思います。
マーブルさんから頂いたアドバイスもあり、小説を読んだ後、映画も観ました。噂に違わず素晴らしい映像に圧倒されました。小説も映画も素晴らしいと思います。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:KADOKAWA/メディアファクトリー
- ページ数:262
- ISBN:9784041026229
- 発売日:2016年06月18日
- 価格:605円
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