ぷるーとさん
レビュアー:
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精神病院で行われるロボトミー手術を題材に、人間の尊厳と自由を問う骨太な話。

チーフの父親はインディアンの酋長だった。彼はとても大きかったが、妻にした白人女と、彼を取り巻く様々な白人たちのせいで「小さく」させられてしまった。
チーフ自身も大学を出、第二次世界大戦にも参加するという経歴を持っているが、白人社会のなかでいたぶられ、人間としての尊厳と勇気を剥ぎ取られて、精神病院に送り込まれている。彼は、そこで自己防衛のために何も聞こえなければしゃべれないという聾唖者のふりを続け、他の人々からは掃除をするだけの大きな怪物として、その存在も認められないままに自分の意識の中に張り巡らせる霧の中に潜んでいる。
チーフはこういった悪しき状態を「コンバイン」のせいだと定義づけているが、その「コンバイン」社会は、当時の機械主義一辺倒に走っていたアメリカを象徴している。
そして、すべてを規則で縛りつけて患者を自分たちが管理しやすいように改良してしまうこの作品の舞台となっている精神病院もまた、アメリカ社会を象徴している。
チーフは、コンバインが人間を順応のロボットにするために、電子機械を知らない間に頭の中に埋め込んでしまうという幻想を持っている。それでも反抗する者は、精神病院という人間改造工場に送り込まれ、電気ショックや脳外科手術で人間の叛逆秦をむしりとってまうのだと信じている。(これは、当時実際に行われていたロボトミー手術に対する批判でもある。)
この一種異様な管理体制にある精神病院に、マックマーフィという男が連れて来られた。
彼は、チーフが今まで全く見たことのないような男だった。マックマーフィは、順応ロボットどころか、全く自由奔放に好き勝手なことをしてはばからない。あまりにも彼が自由気ままに動くため、コンバインですら彼を捕まえることが出来なかったのか、とチーフは思う。
マックマーフィは、最初は自由を得たいためだけに婦長に反発する。だが、病院がどんなところかがおぼろげながらも解ってくると、彼も身の安全を考えるようになり、むやみやたらと素手で「コンバイン」に対抗するようなことをするのは自分にとって果たしていいことなのか、と悩むようになる。
だが、患者たちの真の悩み、悲しみを知ったマックマーフィは、改めて婦長と対決する決心をする。
マックマーフィは、ただ単に権威に反抗するだけの暴れ者ではなく、傷つけられた者の悲しみを理解し共感できた。彼はアメリカ社会からの疎外者であり、疎外者だからこそ、かえって、本来のアメリカの理想であった「個人の自由」の守護者だった。
アメリカ社会の疎外者という共通点から、マックマーフィとチーフは出会いの最初から共感しあっている。マックマーフィは、チーフが聾唖者のふりをしていることをいち早く見抜き、彼もまた一人の人間であることを彼自身にもう一度思い出させる。二人がガムのやり取りをしてチーフが始めて話をするくだりは、なかなか感動的なシーンだが、そんなときでも、マックマーフィは少しも気取るところなく、さりげない。本当に自由を尊重する態度というのは、そういったさりげない一言や行動の中にこそあるものなのではないだろうか。
最後には戦いに敗れてしまったマックマーフィを、チーフは殺してしまう。「コンバイン」を埋め込まれ支配者たちのロボットとなり果てたマックマーフィは本当のマックマーフィではない、彼は自由であるべきだ、として。
マックマーフィの死は、決して敗北ではない。マックマーフィは、自由を手に入れたチーフの中に生き続け、病院に残った患者たちの心にもいき続けるのだから。
チーフ自身も大学を出、第二次世界大戦にも参加するという経歴を持っているが、白人社会のなかでいたぶられ、人間としての尊厳と勇気を剥ぎ取られて、精神病院に送り込まれている。彼は、そこで自己防衛のために何も聞こえなければしゃべれないという聾唖者のふりを続け、他の人々からは掃除をするだけの大きな怪物として、その存在も認められないままに自分の意識の中に張り巡らせる霧の中に潜んでいる。
チーフはこういった悪しき状態を「コンバイン」のせいだと定義づけているが、その「コンバイン」社会は、当時の機械主義一辺倒に走っていたアメリカを象徴している。
そして、すべてを規則で縛りつけて患者を自分たちが管理しやすいように改良してしまうこの作品の舞台となっている精神病院もまた、アメリカ社会を象徴している。
チーフは、コンバインが人間を順応のロボットにするために、電子機械を知らない間に頭の中に埋め込んでしまうという幻想を持っている。それでも反抗する者は、精神病院という人間改造工場に送り込まれ、電気ショックや脳外科手術で人間の叛逆秦をむしりとってまうのだと信じている。(これは、当時実際に行われていたロボトミー手術に対する批判でもある。)
この一種異様な管理体制にある精神病院に、マックマーフィという男が連れて来られた。
彼は、チーフが今まで全く見たことのないような男だった。マックマーフィは、順応ロボットどころか、全く自由奔放に好き勝手なことをしてはばからない。あまりにも彼が自由気ままに動くため、コンバインですら彼を捕まえることが出来なかったのか、とチーフは思う。
マックマーフィは、最初は自由を得たいためだけに婦長に反発する。だが、病院がどんなところかがおぼろげながらも解ってくると、彼も身の安全を考えるようになり、むやみやたらと素手で「コンバイン」に対抗するようなことをするのは自分にとって果たしていいことなのか、と悩むようになる。
だが、患者たちの真の悩み、悲しみを知ったマックマーフィは、改めて婦長と対決する決心をする。
マックマーフィは、ただ単に権威に反抗するだけの暴れ者ではなく、傷つけられた者の悲しみを理解し共感できた。彼はアメリカ社会からの疎外者であり、疎外者だからこそ、かえって、本来のアメリカの理想であった「個人の自由」の守護者だった。
アメリカ社会の疎外者という共通点から、マックマーフィとチーフは出会いの最初から共感しあっている。マックマーフィは、チーフが聾唖者のふりをしていることをいち早く見抜き、彼もまた一人の人間であることを彼自身にもう一度思い出させる。二人がガムのやり取りをしてチーフが始めて話をするくだりは、なかなか感動的なシーンだが、そんなときでも、マックマーフィは少しも気取るところなく、さりげない。本当に自由を尊重する態度というのは、そういったさりげない一言や行動の中にこそあるものなのではないだろうか。
最後には戦いに敗れてしまったマックマーフィを、チーフは殺してしまう。「コンバイン」を埋め込まれ支配者たちのロボットとなり果てたマックマーフィは本当のマックマーフィではない、彼は自由であるべきだ、として。
マックマーフィの死は、決して敗北ではない。マックマーフィは、自由を手に入れたチーフの中に生き続け、病院に残った患者たちの心にもいき続けるのだから。
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ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
よろしくお願いします。
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- 出版社:白水社
- ページ数:518
- ISBN:9784560071922
- 発売日:2014年07月08日
- 価格:2160円
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