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Wings to fly
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維新直後の横浜で、マルセルは16歳の少女に恋をした。ふたりのフランス人海軍士官と古美術商一家の心温まる交友記録。
明治8年に日本を訪れた、若きフランス海軍士官の手記である。約1年の滞在期間中、著者デュバールと友人マルセルは日本人の友だちを得た。横浜の古美術商、三谷さん一家である。本書には一般市民と「異人さん」との家族ぐるみのお付き合い、そしてマルセルと三谷家の末娘おはなさんとの初々しく切ない恋の顛末が語られている。

ふたりの青年士官は、艦隊勤務の合間に出かけた横浜弁天通りの古美術店で美しい漆の手箱を見つけた。マルセルは妹にプレゼントしたいと二日間値切り続ける。これは掛け値なしの逸品だからダメ、という頑固な店主を説得してくれたのは、店主の末娘おはなさんだ。
「妹さんは貴婦人なのですね」

これをきっかけに、ふたりは毎日のように三谷氏の店を訪問し、両者の関係はお客から友人へ変わってゆく。夏から秋の夜に、野外や庭で開かれる三味線の音楽会。ヒバチを囲み互いの国の習慣を比べあう冬の夜。三谷姉妹をエスコートした劇場では、あまりにリアルな切腹シーンに仰天し、鎌倉見物では相撲の興行も見る。維新直後の日本の景色、人力車の雇い方や旅館でのおもてなしなど細部まで描写され、時の彼方に消え去った日本が生き生きと蘇る。

三谷一家とフランス青年たちは人柄を認め合っていたから、末娘が過ちを犯すはずがないと父は信じていたのだ。究極の信頼関係である。22歳の青年士官は16歳の乙女に対し確かに紳士だったが、乙女心がわからなすぎた。だから一途なおはなさんは上海まで君を追ってきてしまったのだよ、マルセル君。ただひと言、「私はあなたが好きでした」と言うために。心を告げたら尼になる覚悟で。なんてドラマチックな実話だろうか。ふたりの別れのシーンには、ホロリとせずにはいられない。

著者のデュバールは後に植民地監督本部長を務め、本も何冊か出しているそうだ。別の本の序文に、謹厳な父親の三谷さんと心優しいおはなさんへの愛情が綴られていると、後書きにあった。彼らはたぶん二度と会うことはなかったのだろう。ささやかだが心温まる、日仏国際交流の記録である。

可愛いおはなさんは尼にはならず、別の幸せを見つけたと信じたい。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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