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Wings to fly
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「詩はただ病める魂の所有者と孤独者との優しい慰めである。」(萩原朔太郎『月に吠える』序文より)
#棚マルオフ の読書会でmichakoさんがご紹介された本を譲り受け、さっそく読んでみた。
この作品、タイトルを見て笑っちゃう人でなければ、どこが面白いのかよくわからないかもしれない。主人公は架空の”□町”(□=詩歌句)に住む萩原朔太郎である。「朔くん」、「白さん」と呼び合うゆるい師弟関係の北原白秋と、懐っこくまとわりつく朔くんを振り切って旅に出る「犀」こと室生犀星と、1巻目はこの三者を中心に回ってゆく。

ストーリーが最終的にどこを目指しているのか茫洋としているが、詩人たちの魂の中身を絵にしたらこうなるという鋭さと、不思議な可笑しさが同居している。なにより、常に生き難さを発散する朔くんのヘタレぶりが可愛いい。
「空気は全く読めないのでおかしな言動をして周囲をぽかーんとさせることはあるものの、本人は引かれていることに気づいていないので幸せそうだった」とか、「頓珍漢なことばかり言うくせに決して自説は曲げないのでよく口論になるが、相手が本気で怒り出すと怯えてしょんぼりしてしまうので揉め事にならない」とか。本物もそんな感じだったに違いないと思って微笑んでしまうのだ。

そしてまた、登場する詩人、歌人、俳人たちの文学的小ネタに笑わされる。
帝王キヨシ・ハイビーチVS革命児ヘキゴトー・リバーイースト(高浜虚子と河東碧梧桐)の同門対決、俳句の未来を賭けてリングに立ち、定型と自由律の俳句で殴り合うシーンなんか最高。実況席の解説には「シキさん」が坐って、何故こんなことになった・・・と頭を抱えている。

「萩原君。僕は君を愛する。さうして室生君を。」萩原朔太郎の詩集『月に吠える』の序文に、北原白秋は記した。「君は寂しい、正直で、清楚で、透明で、もっと細やかにぴちぴちしている。」そして、「異常な神経と感情の所有者である。」とも記した。あまりにも感じやすく、しかも我儘なお坊ちゃん。人の目にはそのように映る朔太郎の、詩を生みだす内的世界そのもの、病める孤独な魂を描こうとしている。朔太郎の言葉を借りれば「詩のにほい」(理屈や言葉で説明できない一種の美感)に、コミックの力で迫ろうとしている。文学の精神を描くという、大胆な挑戦である。


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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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この書評へのコメント

  1. michako2017-09-18 17:08

    ありがとうございます!また朔ちゃんに会いたくなってきました。
    とても読者を選ぶ作品なのですが、作者清家先生のこの作品への真摯な向かい方は、誰にも感じられるものですよね。
    昨日のトーク(ブログにはだらだら書いています)で清家先生がおっしゃっていたのですが、とにかく1巻2巻は読んで欲しいと。
    そこは伏線だらけで、わからない人には混乱を招くものだけれど、是非2巻までしっかり読んで3巻からの大きな物語に進んで欲しいと。
    あの一本松の死体場面。
    シキさんが引き込まれ、白さんが取った行動、そしてなぜこの3人なのか、意味があるのだそうです。
    清家先生は日本史専攻の方で研究者になりたかったのが、在学中趣味の漫画で賞を取ったのがきっかけで今に至る方だそうで。
    とても落ち着いた地に足着いた方で、ますますこの作品が好きになっています。

  2. かもめ通信2017-09-18 17:51

    むむむっ。これ、やっぱり気になりますねえ。
    コミックはハマると沼が深すぎそうで、なるべく避けて通るようにしているのですが……michakoさんとWings to flyさん、そろってのお薦めとなると………コワいわ……。

  3. 哀愁亭味楽2017-09-18 18:10

    私もこの作品大好きです!まだ1巻しか読んでないですけど(汗)近代文学好きにはたまりません!

  4. かもめ通信2017-09-18 18:35

    うわっ!哀愁亭さんまで?!

  5. Wings to fly2017-09-18 20:13

    michakoさん
    私は貴女の書評を読んだ時から「これは好きになりそうだ」と思っていました。実際に読んでみたら、やっぱり好きになりました。この読み方で合ってたかなと心配だったのですが、評価していただき安心しました^^この本をいただいて本当によかったです!
    ブログも拝見しましたよ。

    http://blog.livedoor.jp/michako55/

    次巻からはゆるゆると追いかけていきますね。でも絶対読みますから!!

  6. Wings to fly2017-09-18 20:22

    かもめ通信さん
    まずは、祝♡ご無事の帰還(^^)
    これは特に、笑いどころがツボに嵌るとずぶずぶ沈むと思います。個人的には、盗んだバイクで走り出す暴れん坊で嫌われ者の「チューヤくん」と、銀河鉄道999の車掌さんの衣装を着たアナグマの宮澤賢治がツボでした。

  7. Wings to fly2017-09-18 20:33

    哀愁亭味楽さん
    >近代文学好きにはたまりません!
    いやいや、全くその通りですよねえ^^

    michkoさんによれば、「是非2巻までしっかり読んで3巻からの大きな物語に進んで欲しい」と作者の清家先生がおっしゃっているそうですから、一緒に先に進みましょうか^^

  8. michako2017-09-18 21:45

    うわ〜い!みんなで朔ちゃん読みましょ*\(^o^)/*
    2巻のチューヤくんと元カノの話。
    3巻の石川くんの話など、まだまだ史実に絡んだシーンてんこ盛りです。
    あと、白さんガールズの話も好き。
    みんなで吉原に行く話のオチが、私は大好きです!

  9. Wings to fly2017-09-18 21:53

    さっそく2巻目はKindleにDLしときました( ´ ▽ ` )ノ
    他の棚マル本を読み終わったら手を付ける予定!

  10. KIKU2017-09-18 21:54

    実は私も、オフ会のまとめを拝見しておりましたときに、気になっていた書影のひとつでした。
    私も読んでみようかしらと真剣に悩み始めておりますw

  11. michako2017-09-18 21:59

    ありがたや〜(^人^)

  12. Wings to fly2017-09-18 22:20

    KIKUさん
    おおー!嬉しや〜!是非とも朔ちゃんに会いに行ってくださいまし^^
    そして、どこがツボだったか語り合いましょう♪

  13. darkly2017-09-18 22:45

    「月に吠えられない」ではなく「吠えらんねえ」というのがなんとも後を引きます。作品は読んでないのですが。

  14. KIKU2017-09-18 23:35

    まあ、私も『月に吠えらんねえ』朔ちゃん談義に参加させていただいてもよろしいのでしょうか? とても嬉しいです!!
    早速、2巻まで購入してまいりますねw

  15. Wings to fly2017-09-19 09:52

    darklyさん
    「吠えらんねえ」をタイトルにしたセンスもなかなかのものですよね。なんか、ヘナっと脱力系の笑いを誘うところが朔ちゃんに似つかわしいのです^ ^

  16. Wings to fly2017-09-19 09:54

    KIKU さん、
    michakoさんとふたりで、書評楽しみにお待ちしてますからね〜!

  17. michako2017-09-19 13:38

    はいっ!
    皆さまの書評、わくわくお楽しみでございます~♪

  18. かもめ通信2017-10-26 14:16

    なんとまあ!ついにAmazonまで,このシリーズ7巻セットで購入しろとメールしてきましたw
    どんだけお薦めなんだww

  19. No Image

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