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Wings to fly
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彼女が解き放ったものは、災いなのか希望なのか。
想像を超える幕切れに驚いた。でも、ギリシャ神話のパンドラのお話を思い出せば、なるほど納得なのだ。原題”The Girl with all The Gifts”を『パンドラの少女』と翻訳した理由も、そのへんにあるように思う。パンドラは絶対に開けてはいけない箱のふたを開き、人間界にあらゆる災いを解き放った。その名の意味は<あらゆる贈り物を受け取った娘>、パンドラは美しく賢く勇敢で、好奇心が強かった。本書におけるパンドラ、ヒロインは10歳ぐらいの少女メラニーで、イギリス陸軍基地の独房に監禁されている。

基地内の独房に住む十数名の子どもたちは、授業の時だけ車いすに乗せられ、手足、首が動かぬよう固定して教室に連れてゆかれる。基地に住む人間は強い消毒液を絶えず塗布し、体臭が匂わぬよう細心の注意払っている。なぜなら子どもたちが匂いを嗅ぎつけた時、人間に襲い掛かり食い尽くすからだ。

数十年前、人の脳に寄生し身体を操る病原体が大発生した。罹患すれば理性のない<飢えた奴ら>と化して人間を捕食する。終末世界に生き残った人々は要塞都市を作り、過去の残骸を拾い集めて生活している。そんな中、感染しても知性の片鱗が残る子どもたちが発見された。捕獲された子どもたちは教育を受け養われ、やがて免疫薬研究のため犠牲にされるはずだった。ところが、思わぬ事件で陸軍基地は崩壊する。

メラニーは飛び抜けて高い知力と豊かな感受性を持ち、女性教師ミス・ジャスティーノを心から慕っている。この師弟の他、女性科学者と軍人ふたりを加え、要塞都市目指しての逃避行が始まる。
いやはや、キノコを生やしたゾンビとか出て来るし、そこは気持ち悪いですよ。でも、ストーリーが面白くて!

ものすごい数の<飢えた奴ら>と出くわすわ、食糧と水は不足するわ、何よりメラニーは人間を食べたいという本能的欲求を抱えているわけで、人間の女の子として見てくれるのはジャスティーノ先生だけ。軍人には常に銃を突き付けられ、女性科学者はメラニーの脳解剖を狙っている。けれども、愛と捕食欲求との葛藤に苛まれつつ、メラニーは仲間のために行動するのだ。そんな「心」を持つメラニーは、本当は何者なのかという謎も読みどころで、どんな結末が待っているのか全くわからなかった。

パンドラが開けてしまった箱の中には希望が残っていた。私も出してくださいと、希望は言った。ギリシャ神話のお話はそんな風に終わる。本書は人類の未来を予見させて幕を閉じるのだが、それを災厄と思うか希望と受け止めるか、あなたはどっちかな?このリーダビリティー、なかなかのエンタメ作品だと思う。でもね、映画は見たくないな。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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この書評へのコメント

  1. タカラ~ム2017-07-25 17:52

    この本、私も読み終わったばかりです!

    なかなかのディストピア小説ですよね。

  2. Wings to fly2017-07-25 19:27

    うん、なかなかのディストピア小説ですな。
    とにかくどんな結末になるのか全然わからなくて、面白かったですねー!
    メラニーちゃんのキャラがスゴイよね。
    タカラームさんの書評、楽しみにしてますヽ(^o^)

  3. No Image

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