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Wings to fly
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苦しくてもう帰りたくはないけれど忘れられないあの頃が、ありありと蘇る。
村上春樹氏の翻訳による本書は、アメリカ南部の田舎町に住む少女フランキーの物語だ。親友が引っ越してからは友だちが一人もおらず、すでに165センチを超えた自らの身長の伸びっぷりに恐れを抱き、「自分がフランキーであることに心底うんざりしていた」12歳の女の子のひと夏。

母は彼女が生まれた日にこの世を去り、父に男手ひとつで育てられたフランキー。父は娘を愛しているが女の子の微妙な気持ちがわからないし、たったひとりの兄は軍隊に行っている。フランキーの話し相手は台所を預かる黒人のベレニスで、遊び相手は幼い従弟のジョン・ヘンリー。三人が食卓を囲みながら交わす会話と、フランキーの奇矯にも見える行動の中に、もてあます孤独と疎外感と焦燥が映しだされてゆく。

どこのグループのメンバーでもないフランキーには、「私たち」と呼べる仲間がいない。でもある日突然、その寂しさから解放される。結婚のため帰郷した兄とフィアンセの光り輝く姿に、フランキーは魅力された。結婚式の後で、私は兄と兄嫁と一緒についてゆくの・・・って、フランキーは勝手に決めてしまう。さよなら、パパ。さよなら、この町。

「何をバカなこと言ってんの!」って思うでしょう?でも”結婚式のメンバー”になることは、どこかに私の居場所があるはずだというフランキーの切望の実現。フランキーを優しく受け入れてくれる、今いるここじゃない世界への憧れそのものだ。冒頭には「緑色をした気の触れた夏のできごと」とある。この物語は、衝動的で突飛な少女の行動や荒唐無稽な思いこみが、いったいどういう心理からやってくるのかを見事に描き上げている。

今までは気にもとめなかった小さなことに傷ついて、心もとなさの反動で軽はずみなことをしでかしちゃうフランキー。考えてみれば、「これこそが自分の望んだものだ!」という確信に裏切られつつ人は大人になり、いくつになってもホントに求めるものがわからなかったりする。それって、ちょっと気が触れてるよね。だからこの物語は、人生のとある期間を過ぎた人の心にも、切なく響くんだと思う。

夏の夕暮れの歩道から見える家々の明かり。横町から聞こえてくる知らない人の声。周囲に真剣に耳を傾け、少女は何かを待ち受ける。繊細なニュアンスを伝える村上氏の言葉の選び方がとても美しい。

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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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この書評へのコメント

  1. hacker2016-05-24 08:08

    カーソン・マッカラーズは私の好きな作家の一人です。翻訳された長中編は全部レビューを書いています。本書もそうなので、良かったら、のぞいてみてください。

    [[http://www.honzuki.jp/book/187501/review/56251/]]

  2. Wings to fly2016-05-24 14:31

    hackerさん
    さっそく書評を拝見しました。フランキーが感じているものが・・・

    >人間の孤独感の根源にあるものではないでしょうか。これは、人間が生きている限り、向き合わなければならない疑問ではないでしょうか。しかし、こういう疑問を、ここまで率直に語ってくれた作家は、あまりいないでしょう。

    この素晴らしい文章に、大いなる共感と共に拍手を送りたいと思います。私はこれがマッカラーズ作品の初読みでしたが、心に染み入るようでした。「感覚」としか言いようもない曖昧さを、文章で読むことへの感動だったのだと思います。

    「あたしたちはみんなそれぞれ、なぜか自分というものに閉じ込められているんだ。」とベレニスがフランキーに語る場面、ちょっと忘れがたく印象的でした。hackerさんの書評を参考に、またどれか是非読んでみたいです。ありがとうございました!

  3. hacker2016-05-24 21:56

    Wings to Fly さん、ありがとうございます。ぜひ、マッカラーズの他の作品もお読みください。他の作品のレビューを楽しみにしています。

  4. No Image

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