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Wings to fly
レビュアー:
ヒロインの手紙の中に見る、女性たちが古い因習と戦おうとした時代。
少女時代の愛読書、今も手元にある『あしながおじさん』(岩波少年文庫)の翻訳者は遠藤寿子さん、出版年は1969年(昭和44)である。本書、土屋京子さんによる新訳と手持ちの本を読み比べてみると、普段使いの言葉の変化をつくづく実感する。

孤児院で育ったジュディは、裕福な紳士の経済的援助で女子大に進学した。身元を明かそうとしない紳士との約束は、大学生活を報告する手紙を書くことだけ。この作品はすべて、ジュディが「あしながおじさん」とあだ名をつけた紳士への手紙で綴られている。

「ですけど、おじさん、あなたもあたしみたいに、ずっとこれまでべんけい縞のギンガムばかり着ていらしたら、あたしの気持ちがおわかりになることよ。」(遠藤訳)
「でもね、おじさま、生まれてからず~っとギンガムチェックの服を着せられて育ったら、わたしの気持ちがおわかりになると思います。」(土屋訳)

「うれしいうれしい日よ!いま最後の試験が──生理学の──すんだところですの。」(遠藤訳)
「やった~!いま最後の試験が終わったところです──生理学。」(土屋訳)


今時のお嬢さんはもう「~ですの」「~ですわ」って使いませんわね。そのぶん「おじさん」から「おじさま」に昇格していて、尊敬の気持ちを感じたことよ。と、遠藤訳で育った昔のお嬢さんは思った。
嬉しいことに、新訳は古い読者にも全く違和感がない。「あたし」が「わたし」に変わっても、ジュディの朗らかで自立心旺盛な性格は生き生きと躍動している。

また、再読して気づいたのは、おじさまへの手紙に滲む進歩的な考え方である。本書の出版は1912年(明治45)だが、当時はアメリカでも婦人参政権は認められておらず、女子の大学教育にも批判的な風潮があったようだ。
「(女性が知性を向上させると情緒的特性が犠牲になるというのなら)どうして男子の大学へ行ってそこの学生たちに、勉強に頭を酷使するあまり男らしさを阻害してしまわぬように、というお説教をしないのでしょうかね?」

歌人にして女性解放運動推進者の与謝野晶子は、これと同じことをエッセイ『「女らしさ」とは何か』の中に書いている。
「愛と優雅と慎ましさが女らしさならば、それは男子にも必要な性情です。」
ジーン・ウェブスター(1876~1916)と与謝野晶子(1878~1942)が同世代人であることを思えば、この作品の背景には、女性たちが“黴の生えた因習制度を維持しようとしている人たちの卑怯千万な論法”(by与謝野晶子)と戦うために、立ち上がろうとしていた時代が見えてくる。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2016-09-19 06:24

    「あしながおじさん」には思い入れが強すぎて、新訳はどうかな~と思っていたのですが、やだなあもう!Wings to flyさんのせいで読みたくなっちゃったww

  2. Wings to fly2016-09-19 09:12

    ただいま、かもめ通信さんの「光文社新訳古典文庫祭り」に便乗して、「土屋京子さんの新訳で読み直す愛読書祭り」をひとりで開催中です(^ ^)『そばかすの少年』に続き二作品目となりますが、どちらも大変上質な翻訳です〜〜♪ どーぞどーぞ、読み返してください‼︎ 私は次にナルニアの新訳を読むぞ、おー!

  3. No Image

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