efさん
レビュアー:
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やっぱりこの作品、たいそう好きだなぁ
既にハードカバー版でレビューしている作品です。
最初は図書館からハードカバーを借りてきたのです。
とても良かった。
その後しばらく、自分の中で熟成していって、やっぱりこの本は手元に置いておきたいと思い、文庫版を買いました。
そういうこと、時々あります。
図書館から借りてきた本で、とても良かった本は買ってしまうということ。
本作も、そんな一冊です。
何が良いって、全体を包み込む雰囲気が非常によろしいのです。
空き家の家守を頼まれて、そこで飄々と過ごしている主人公の綿貫征四郎。
豊かな緑に囲まれた庭、移り行く四季、折節の天候、民話に登場するような不思議な出来事や妖の者たち。
それを異常なこととか、怪異などとはとらえず、自分たちのまわりにごく自然にある普通のことと受け入れている綿貫の(綿貫を通しての作者の)目線が良いのです。
家守を頼まれている家の息子、綿貫の友達の高堂。
彼はボートに乗って出て行ったきり行方不明になってしまったのですが、時折(どうも、雨の日が多いようです)、床の間の掛け軸の中からひょいと現れます。
そして交わされる二人のちょっとしたシニカルなでも友情を感じる会話。
綿貫がもしかしたら懸想しているかな?とも思ってしまうダァリヤの君。
楚々としたたおやかな女性をイメージしてしまいます。
綿貫のお隣さんのおばさんは物知りで、不思議な出来事があっても「それはね」とごくごく自然に説明してしまいます。
同じように、綿貫の碁仲間でもある住職も妖とは縁が深そうです。
そして、何といっても犬徳が高く、世評も高いゴロー。
いいんですよねぇ、ゴロー。
どのお話でしたっけ?
ゴローがいつものように家を出てしまった時、綿貫が偶然ゴローを見かけるシーン。
ゴローは、「おっ!」という顔をして綿貫に気付き、尻尾を振るのですが、「私はちょっと用がありまして」とでもいうような顔をしてそそくさと歩いて去っていく。
あぁ、良いなぁ、この描写。
この作品、ところどころにジーンとしてしまう、さりげないフレーズが織り込まれているんですよね。
ほんの、ちょっとだけなんですが、そこで涙がにじんでしまうんです。
さっきのゴローの振る舞いもそうですし、綿貫に惚れたらしい庭のサルスベリの所作もそうです。
あるいは、狸が化けた尼僧が苦しんでいた時、綿貫が頼まれるままに南無妙法蓮華経を唱えながらさすってやる場面。
綿貫は「いかな化け物であっても、このように目の前で苦しんでいるものを、手を差し伸べないでおけるものか」と、必死にさすってやります。
回復した狸は、お礼に松茸を籠に入れて置いていくのです。
「回復したばかりのよろよろとした足取りで、律儀に松茸を集めてきたのか」……と綿貫は感じ入ります。
「何をそんなことを気にせずともいいのだ。何度でもさすってやる。」
良いです。
とても良くて、じわっときてしまいました。
ほんとうにさりげなく、でも深い思いをそこここに散らした言葉が満ちています。
そういう作品なので、手元に置いておきたいと思ったのでした。
読了時間メーター
■■ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK)
最初は図書館からハードカバーを借りてきたのです。
とても良かった。
その後しばらく、自分の中で熟成していって、やっぱりこの本は手元に置いておきたいと思い、文庫版を買いました。
そういうこと、時々あります。
図書館から借りてきた本で、とても良かった本は買ってしまうということ。
本作も、そんな一冊です。
何が良いって、全体を包み込む雰囲気が非常によろしいのです。
空き家の家守を頼まれて、そこで飄々と過ごしている主人公の綿貫征四郎。
豊かな緑に囲まれた庭、移り行く四季、折節の天候、民話に登場するような不思議な出来事や妖の者たち。
それを異常なこととか、怪異などとはとらえず、自分たちのまわりにごく自然にある普通のことと受け入れている綿貫の(綿貫を通しての作者の)目線が良いのです。
家守を頼まれている家の息子、綿貫の友達の高堂。
彼はボートに乗って出て行ったきり行方不明になってしまったのですが、時折(どうも、雨の日が多いようです)、床の間の掛け軸の中からひょいと現れます。
そして交わされる二人のちょっとしたシニカルなでも友情を感じる会話。
綿貫がもしかしたら懸想しているかな?とも思ってしまうダァリヤの君。
楚々としたたおやかな女性をイメージしてしまいます。
綿貫のお隣さんのおばさんは物知りで、不思議な出来事があっても「それはね」とごくごく自然に説明してしまいます。
同じように、綿貫の碁仲間でもある住職も妖とは縁が深そうです。
そして、何といっても犬徳が高く、世評も高いゴロー。
いいんですよねぇ、ゴロー。
どのお話でしたっけ?
ゴローがいつものように家を出てしまった時、綿貫が偶然ゴローを見かけるシーン。
ゴローは、「おっ!」という顔をして綿貫に気付き、尻尾を振るのですが、「私はちょっと用がありまして」とでもいうような顔をしてそそくさと歩いて去っていく。
あぁ、良いなぁ、この描写。
この作品、ところどころにジーンとしてしまう、さりげないフレーズが織り込まれているんですよね。
ほんの、ちょっとだけなんですが、そこで涙がにじんでしまうんです。
さっきのゴローの振る舞いもそうですし、綿貫に惚れたらしい庭のサルスベリの所作もそうです。
あるいは、狸が化けた尼僧が苦しんでいた時、綿貫が頼まれるままに南無妙法蓮華経を唱えながらさすってやる場面。
綿貫は「いかな化け物であっても、このように目の前で苦しんでいるものを、手を差し伸べないでおけるものか」と、必死にさすってやります。
回復した狸は、お礼に松茸を籠に入れて置いていくのです。
「回復したばかりのよろよろとした足取りで、律儀に松茸を集めてきたのか」……と綿貫は感じ入ります。
「何をそんなことを気にせずともいいのだ。何度でもさすってやる。」
良いです。
とても良くて、じわっときてしまいました。
ほんとうにさりげなく、でも深い思いをそこここに散らした言葉が満ちています。
そういう作品なので、手元に置いておきたいと思ったのでした。
読了時間メーター
■■ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK)
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幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!
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- 出版社:新潮社
- ページ数:208
- ISBN:9784101253374
- 発売日:2006年09月01日
- 価格:380円
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