yukoさん
レビュアー:
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死んだ者が「見えない女」作家の鷹森と、「見える女」墓守娘の志乃。男がいないと生きていけない女。逃れよう逃れようとしても、男を欲しがってしまう。厄介な男に惚れた女と厄介な男に惚れられた女の恋の地獄とは。
官能長編怪談、だそうなのですが、怖いということは全くなく。
一番怖いのは生きている人間だ、というのが私の第一モットーですので・・・
怖いというより、切ない恋愛怪談物語でした。
20代の時に作った映画で一躍有名になって京都から東京へ出たものの、
それ以降全くいい作品は作れず、一緒に上京した女優の妻に食べさせてもらっている、映画監督の一ノ瀬。
彼の出世作(にしてこれ以降全くまともな作品はない)に衝撃を受け、作家になろうと思った鷹村は、一之瀬と出会って恋人同士に。
しかし一ノ瀬は妻子があり、さらにいろんな女とたくさん関係をもって、そのせいでトラブルをいつも起こしているような男。
鷹森は東日本大震災後、京都へ引っ越します。
そこは京都の六道の辻。
この世とあの世を結ぶ井戸があるという土地。
鷹森の若い担当者、星野が、幽霊の話を書いてくれないかと依頼してきます。
さらに、星野は京都に「見える人」がいるらしいのだと、
霊能者とかではなく、墓守という仕事を家業にしている人がいて、
その人に会ってみないかと言います。
今まで一切取材を拒否してきたらしいその「見える人」
墓守娘、といっても70歳を過ぎた志乃が、
鷹村の本の読者なので、鷹村になら会ってもいいとのこと。
志乃は墓守の家に生まれました。
母も「見える女」であり、代々いくつかのお寺さんの墓地で、墓の御守りを生業とする家だったとのこと。
厄介な男に惚れられ、あげく勝手に自分の家で死なれた志乃。
それ以降ずっとその男の首が見えるという・・・
身を焦がすほどの恋は確かに地獄と同じでしょうね。
ただ、それを知らないのと、知っているのとどちらが幸せだろうかと言われると、答えはなかなか難しい。
それほどの恋を知ることができるのは、誰にでもありうることではなく、とても稀有なことと思うから、女に生まれてそんな恋をできたことは幸せだとは思うけれど、
地獄と同じくらいの恋だから、それを知ってしまったあとに、「あー、恋をしたい!」などと簡単にはもう思えなくなるでしょうし、
それでも、身を焦がすような恋もしたことがない、というのは、死ぬときになんだかさみしいような・・・
自己愛の延長でしか、女と関わることができない一ノ瀬。
鷹森は男のことをこう思い出します。
『女と肌を合わし、好きだと言われ求められることが、男の唯一の心のよりどころだった。簡単に手に入れることができる、存在意義が、女とのセックスだった。
男はセックスに逃げていた。』
こういう人は少なくないと思います。
誰だって、好きだと言われればうれしいし、求められればそれは自分を肯定してもらっていることになる。
私だって好きだと言うよりは、好きだと言われる方がいいと思って生きてきたけれど、
それが逃げだと言われれば・・・
確かに、自分かわいさで、好きだと言われることに幸せを求めてしまったのでしょうか、一之瀬のように。
『好きと執着の境目など、誰がわかるのだろうか。
私自身だって、よくわからないのに。』
簡単にセーブできるような思いなら、
それは恋でもなんでもない。
それでも、ラストの鷹森の行動は私には理解不能ですが・・・
恋の地獄。
落ちる方が幸せなのか、知らぬまま一生終える方が幸せか。
さぁ、どちらでしょうね。
一番怖いのは生きている人間だ、というのが私の第一モットーですので・・・
怖いというより、切ない恋愛怪談物語でした。
20代の時に作った映画で一躍有名になって京都から東京へ出たものの、
それ以降全くいい作品は作れず、一緒に上京した女優の妻に食べさせてもらっている、映画監督の一ノ瀬。
彼の出世作(にしてこれ以降全くまともな作品はない)に衝撃を受け、作家になろうと思った鷹村は、一之瀬と出会って恋人同士に。
しかし一ノ瀬は妻子があり、さらにいろんな女とたくさん関係をもって、そのせいでトラブルをいつも起こしているような男。
鷹森は東日本大震災後、京都へ引っ越します。
そこは京都の六道の辻。
この世とあの世を結ぶ井戸があるという土地。
鷹森の若い担当者、星野が、幽霊の話を書いてくれないかと依頼してきます。
さらに、星野は京都に「見える人」がいるらしいのだと、
霊能者とかではなく、墓守という仕事を家業にしている人がいて、
その人に会ってみないかと言います。
今まで一切取材を拒否してきたらしいその「見える人」
墓守娘、といっても70歳を過ぎた志乃が、
鷹村の本の読者なので、鷹村になら会ってもいいとのこと。
志乃は墓守の家に生まれました。
母も「見える女」であり、代々いくつかのお寺さんの墓地で、墓の御守りを生業とする家だったとのこと。
厄介な男に惚れられ、あげく勝手に自分の家で死なれた志乃。
それ以降ずっとその男の首が見えるという・・・
身を焦がすほどの恋は確かに地獄と同じでしょうね。
ただ、それを知らないのと、知っているのとどちらが幸せだろうかと言われると、答えはなかなか難しい。
それほどの恋を知ることができるのは、誰にでもありうることではなく、とても稀有なことと思うから、女に生まれてそんな恋をできたことは幸せだとは思うけれど、
地獄と同じくらいの恋だから、それを知ってしまったあとに、「あー、恋をしたい!」などと簡単にはもう思えなくなるでしょうし、
それでも、身を焦がすような恋もしたことがない、というのは、死ぬときになんだかさみしいような・・・
自己愛の延長でしか、女と関わることができない一ノ瀬。
鷹森は男のことをこう思い出します。
『女と肌を合わし、好きだと言われ求められることが、男の唯一の心のよりどころだった。簡単に手に入れることができる、存在意義が、女とのセックスだった。
男はセックスに逃げていた。』
こういう人は少なくないと思います。
誰だって、好きだと言われればうれしいし、求められればそれは自分を肯定してもらっていることになる。
私だって好きだと言うよりは、好きだと言われる方がいいと思って生きてきたけれど、
それが逃げだと言われれば・・・
確かに、自分かわいさで、好きだと言われることに幸せを求めてしまったのでしょうか、一之瀬のように。
『好きと執着の境目など、誰がわかるのだろうか。
私自身だって、よくわからないのに。』
簡単にセーブできるような思いなら、
それは恋でもなんでもない。
それでも、ラストの鷹森の行動は私には理解不能ですが・・・
恋の地獄。
落ちる方が幸せなのか、知らぬまま一生終える方が幸せか。
さぁ、どちらでしょうね。
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仕事のことで鬱状態が続いており全く本が読めなかったのですが、ぼちぼち読めるようになってきました!
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この書評へのコメント
- noel2021-06-27 22:35
ごめんなさい。彼女の思い違いのようでした。原題は『天の夕顔』でした。調べてみたところ。下記のURLに行きつきました。ご興味あればどうぞ。ちなみにこの作品は「カミュが絶賛したことでも知られる」そうです。
https://1000ya.isis.ne.jp/1321.html
もうひとつのも、別のひとの感想です。
https://ameblo.jp/classical-literature/entry-11007850582.html
ついでに言っておくと、『天上の花』は美しいだけで、愚にもつかないバカ女の話(家内弁)の話だそうです。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - noel2021-07-03 08:07
バカ女のほうではないですが、『天の夕顔』に絡む書評をアップしましたので、ぜひ。
https://www.honzuki.jp/book/259103/review/263605/クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
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