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michakoさん
michako
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乱歩版作品ですが、宮崎駿氏によるカラー口絵がなんといってもこの本の見どころ。
大正のはじめ頃。
長崎の片田舎。幽霊塔と呼ばれる時計屋敷があった。
徳川時代の末期に、富豪・渡海屋市郎兵衛が建てたというこの屋敷には迷路のような複雑なしかけが施され、莫大な財産を隠すためではないかと噂されたが、その巧妙過ぎたしかけのため渡海屋自身が迷路に閉じ込められたのか、ある日彼は突然行方不明となり、いつしか家は没落していったのだという。
後にこの渡海屋の奉公人であったという老婆がなぜかこの屋敷に住みついたが、養女によって殺され幽霊となって徘徊するという噂がおまけについていた。
叔父で退職判事の児玉丈太郎がここを買い取り、住まいにするというのでその下検分のため屋敷を訪れた北川光男(26)。
彼はこの時計塔の真下、6年前に老婆惨殺事件があったというまさにその部屋で、あまりに美しい女性野末秋子と出逢う。

はい、江戸川乱歩の「幽霊塔」です。
黒岩涙香の「幽霊塔」を書き改めた作品であり、涙香版はアリス・ウィリアムスンの「灰色の女」の翻案であり、また「灰色の女」のベースにはウィルキー・コリンズの「白衣の女」(「ウーマン・イン・ホワイト」ですよね。ミュージカルでも拝見しました)があるという事で、なかなか時代を感じる作品です。
とにかく「めっちゃ美しい女」がいないと話が始まらない。そのパターンの奴です(笑)
美しい女の意思に関係なく、周囲の男たちがわくわくと憧れ、思惑を膨らませ、不可解な事件が連続するという怪奇ロマン。
うん、面白いっwww

内容についてはからくり屋敷に曲芸の虎とか、蜘蛛屋敷とか、乱歩先生らしいじめっとして精神にくる仕掛けが散りばめられ、それにめげない見目良く精悍な高等遊民の主人公に、冷たさを感じながらも謎に満ちたそのあまりの美しさに惹かれあうヒロイン。
何やら秘密を知っている素ぶりの弁護士に性格の悪い許嫁というライバルも揃って非常に物語的なセッティング。
この本は中学生から読めるように仮名使いなど改めてあり読みやすい。エロもグロも薄いので大丈夫w

でも、この本の一番の見どころはこの表紙にもある通り、宮崎駿氏による16頁に渡るカラーイラスト満載の解説でしょう。
三鷹の森ジブリ美術館の企画展示のため、宮崎氏ご自身が好きだったこの作品を60年ぶりに読み返され、幽霊塔の各層断面図から、乱歩版、涙香版、灰色の女との違いなど、考察されたあれこれが、映画にしたらこんなだとか絵コンテまで!とても見応えのある口絵です。
私はジブリ作品のすごいファンというわけではないのですが、宮崎氏の魅力って「ちょっと不気味なところ」にあるような気がしていたので、こういった怪奇ロマンはお似合いだと感じましたよ。
(映画は作らないよってコマの中でも念押しされてますが、これ見たいなー!)
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michako
michako さん本が好き!1級(書評数:1633 件)

夏休み。久しぶりに1週間じっくり母と向き合えた気がします。

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