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かもめ通信
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まさかとは思うけれど「巻末の“訳者あとがき”は読み飛ばす」なんて人はいないでしょうね?!
翻訳小説を手に取ると、大抵の場合巻末に“訳者あとがき”がついている。
読者の中にはこの“あとがき”を読まずに本を閉じるという人もいるらしいが、私は必ず目を通す。
作品に対して先入観をもつことやネタバレが怖いので原則あとがきから読むということはしないのだが、本文を読んでいる途中でどうにも行き詰まってしまい、途中で投げ出すかどうか迷ったときに、訳者の意見を聞いてみるということも無いわけではない。


ひとくちに“訳者あとがき”と言っても、ストーリーをかいつまんで紹介するだけのものから、作家の略歴や作品の歴史的意義、訳者と作品の出会い等々、読み物としても面白いものや派生読書に繋がるものも多い。


作品を読んだだけではつかみきれなかったあれこれに言及されて、目から鱗が落ちる場合もあれば、作品によっては本文よりも訳者の解説の方が面白かったりするものもあるからあなどれない。


本書はそんな翻訳者によるあとがきばかりを35点も集めたちょっと変わった趣向の本だ。
一番古いものはなんと1915年(明治45年)の「堺利彦譯 ヂッケンズ作 小櫻新吉」
ヂッケンズはディケンズとすぐわかるが、小櫻新吉?小櫻新吉って誰だ?と思ったら、なんと“「オリヴァー・ツゥイスト」翻案”とあって思わず笑ってしまった。
けれども、この翻訳者あとがき、読んでみるとなかなかの深みと味わいがあって面白い。


続いて登場するのは1927年(昭和2年)の「乞食と王子 マーク、ツエイン作 村岡花子譯」。
若干古めかしい気はするけれど、時代を考えるとさすがとしかいいようのない安心安定のクオリティだ。


ジャンルも著者も訳者もまちまちながら、なかなかに読み応えのある“あとがき”が、2014年(平成26年)の「沓掛良彦訳 エラスムス作 痴愚神礼讃――ラテン語原典訳」までずらりと並ぶ。


中には20ページ越えの文章から抜粋されているものもあるが、作品に対する訳者の並々ならぬ思い入れが読み取れるものもあれば、作品を喰ってしまっているかのようなインパクトの強いあとがきもあって興味深い。


こういう本を手に取ると、またまた読みたい本のリストが長くなるに違いないとは思っていたが、案の定、ゴーゴリの『死せる魂』を平井肇訳で、カポーティの『遠い声 遠い部屋』は訳者である河野一郎さんの思い出込みで、次にチェーホフを読むときは小野理子訳で……という具合に、またまた読みたい本を増やしてしまった。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2229 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. 青玉楼主人2016-05-20 10:18

    「訳者あとがき」ファンです。あれを読み飛ばすなんてもったいない。必ず読み終わってから読むことにしています。訳者あとがきばかり集めたら面白いだろうな、と思っていたのですが、やはりこんな本があるんですね。参考になります。

  2. かもめ通信2016-05-20 10:44

    出版社・未知谷さんのHPにどの本の誰のあとがきが収録されているかが紹介されていますのでよかったらこちらも参考になさってください。
    http://www.michitani.com/books/ISBN978-4-89642-490-4.html

    ちなみにこの本では鴎外や村上春樹さんなど翻訳を手がける作家のあとがきはあえて収録しなかったそうです。
    というわけで今度は私こんな本を読んでいます。

  3. 青玉楼主人2016-05-20 11:08

    『さかしま』、『ライ麦畑でつかまえて』の訳者あとがきはリアルタイムで読んだ覚えがあります。昨日ラムの『エリア随筆』を読んだばかりなので、戸川秋骨訳は、どんな訳なのか気になりますね。

  4. かもめ通信2016-05-20 16:44

    『ライ麦畑でつかまえて』の野崎孝さんのあとがきは最近再読したばかりなので,内容もばっちり覚えていたのですが,『雪のひとひら』の矢川澄子さんのあとがきには少なからずショックを受けました。
    いえね,この本,持っているんですよ。
    でも以前手にした時は,今ひとつピントこなくて,数ページ読んで積読山に埋もれさせてしまっていたんですよね。
    あらためて,本棚から引っ張り出してきましたw

  5. ゆうちゃん2016-05-20 20:39

    訳者あとがきは、僕も必ず読みます。実はかもめ通信さんが書かれている通り、途中でムムッと思ったときなど、よくあとがきを参照します。僕は翻訳ものをよく読みますので、たまに書評でも訳文の良し悪しについて触れたりします。

  6. かもめ通信2016-05-20 21:15

    ゆうちゃんさんといい青玉楼主人さんといい、翻訳物好きのレビュアーさんが本が好き!に加わってくれて本当に嬉しいです!
    いつも皆さんのレビューを参考にさせて戴いています♪
    翻訳物はどうしても訳者に左右される部分がありますから、読友さんからの情報は尚更貴重ですよね!!
    私は時々訳者違いの読み比べ~などもしているのですが、来週あたりレビューをアップしようと思っているこの本は……いろんな意味ですごかったですww

  7. 青玉楼主人2016-05-20 21:55

    ゆうちゃんさんのおっしゃる通り、翻訳ものでは訳者の存在は大きいですよね。レビューで、訳者の訳について触れることは結構あります。丸谷さんが書評の最後にきちっと触れておられるのをまねさせてもらってるんですけどね。かもめ通信さん、レビュー楽しみにしています。

  8. タカラ~ム2016-05-21 23:42

    訳者あとがきといえば、先日の第2回日本翻訳大賞授賞式の中で、発起人であり審査員でもある金原さんや岸本さんは、「後書き書くのは嫌い」と言ってましたね。岸本さんは、「人が書いた後書きを読むのは好きだけど、自分が書くのはイヤ」と言ってました。

    後書きを書くのが好きという翻訳者もいるんでしょうけど、たいていの場合、「できれば書きたくない」って思ってるらしいですよ(笑)

  9. かもめ通信2016-05-22 15:35

    へえ~!あのお二人、あとがき書くの嫌いなんだ?!
    これが鴻巣さんあたりだと結構好きそうな気がするけどなあw(って勝手な想像にすぎませんがw)

  10. タカラ~ム2016-05-23 21:17

    かもめ通信さん

    > へえ~!あのお二人、あとがき書くの嫌いなんだ?!

    岸本さんは、「後書きはできれば書きたくない。でも、自分が子供の頃に後書きに助けられたので頑張って書いてる」みたいな話をしていたように記憶してます。

  11. かもめ通信2016-05-23 21:22

    なるほど~書きたくないけれど書いているときくとますます読みたくなったりしてww

    この本、かなり地味な本だと思うんですよ。
    なので、正直にいうとこんなに反響があるとは思っていなかったんですよねえ。
    でもタカラ~ムさんのコメントで気がつきました!
    きっとみんな、あとがきに助けられてきたに違いないって!!ww

  12. ふらりん2016-06-24 21:50

    図書新聞掲載、おめでとうございます!

    以上です!(笑)

  13. かもめ通信2016-06-24 22:10

    ふらりんさん、ありがとう♪

  14. 麻呂まゆっ!2018-03-19 07:39

    『雪のひとひら』ですが、オフ会の際にあの書店で購入させていただきました。一応読了済みですが、うまく感想がまとまらず、放置中で申し訳ありません…(^_^;) 矢川澄子さんのあとがき、改めてチェックさせていただきます。

  15. かもめ通信2018-12-16 18:51

    わっ!麻呂まゆっ!さんのコメントに今頃気づきました。
    すみません!すみません!!<(_ _)>

    あれ?でも、麻呂まゆっ!さんの『雪のひとひら』書評は……どこかな…?
    (((‥ )( ‥)))

  16. 麻呂まゆっ!2018-12-16 19:11

    あ、重ねて申し訳ありません。
    オフ会の際、あの書店で本を購入して読了はしたのですが、分かりやすい寓話の形式をとりつつもラストはかなりキリスト教的?なまとめ方で、いまいちピンときませんでした。
    結局、まだ感想は書けずじまいということです。。。m(__)m

  17. かもめ通信2018-12-16 19:16

    実は私も書けていないクチです。。。(汗)

  18. No Image

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