かもめ通信さん
レビュアー:
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いやはや全く、いろんな意味でとんでもない本を読んでしまった……。
最近、翻訳者によるエッセイや
翻訳にまつわる対談などを立て続けに読んでいたこともあって
この本もタイトルにつられて手にしてみたのだが、
いざページをめくってみるとこれが!!
………かなり本格的な論文集だった?!
それもそのはず、著者は自らも翻訳を手がけてはいるが
日本比較文学会の会長もつとめた有名な学者さんだったのだ。
いやいやこれは歯が立たないかもと思いつつ
恐る恐る読み始めると……意外や意外(失礼!)
難しいながらも興味深い話がぎっしり詰まっていて面白かった。
森鴎外や二葉亭四迷がいかにして翻訳に取り組んできたかに言及しながら
日本近代文学が“翻訳との相互関係の中で自己形成してきた”過程を明らかにする。
(つい先日まで私の中ではダメ男扱いだった二葉亭がメチャメチャいい男に変身?!)
その一方で、作品が売れない新米作家にとって翻訳は、
手っ取り早い生活費稼ぎの手段であったことにも言及する。
売れっ子作家の名前を冠した翻訳には、
本当は赤の他人の手によるものだった!というケースも少なくなく
江戸川乱歩訳として発表されていたポー作品は渡辺温が訳したものだった!
などという実は有名らしいが私は全く知らなかった事実も紹介されている。
名義貸しか!しかも(当サイトでも人気の高い?)温ちゃんに!!
ちなみに乱歩は後年自分の全集を編纂するにあたって
あれは渡辺君達の仕事だからとハッキリ収録を拒否したという。
そういえば、この本では触れられてはいなかったが
青空文庫にモーリス・ルブランの奇巌城をはじめ、
菊池寛の訳の作品がいくつもあったっけ。
あれもきっと菊池寛が訳したものではないんだろうなあ。
下訳にちょっと手を入れただけなどというものもあって
「手伝って貰った」「相談した」となどと
謝辞に名前をあげるのは良心的な方なのかもしれない。
そんなこんなで“文豪の翻訳”については、
どこまでが本人の手によるものなのか判断が難しいものも少なくないとか。
とはいえ、翻訳作業を通じて
あるいは翻訳作品を読むことによって、
文体や視点等、様々な影響をうけた作家は多く
本書ではそういう作家やその作品も沢山紹介されている。
谷崎はゴーチェを一向に評価していなかったが、
佐藤春夫も芥川も谷崎の書くものとゴーチェのそれは似ていると思っていたという。
ふーん。ゴーチェね。ゴーチェ?!
芥川、ゴーチェを訳しているのか!
(と思わず、積む。)
それにしても堀口大學の訳文の美しいこと!
原文との対比も興味深い。
(もっとも大學の最大の功績は
ルパンシリーズを山ほど訳してくれたことだと
私は本気で思っているのだけれど、これは余談で、
他にもいくつか訳があるはずのシュペルヴィエルの『沖の小娘』
これは翻訳読み比べが必要か?!)
結構専門的な話も多くて難しい部分はあったが
とりわけ戦後の世代の作家がどのように外国文学を受け入れ
自分の中に取り入れていったかということを
英文と翻訳文あるいはその作家の作品の特徴などとの比較によって紹介されると
ただ単に雰囲気が似ているといっただけでなく説得力がある。
吉行淳之介の訳でヘンリー・ミラーの短編が読みたい!とか
(こらえきれずに積んでしまった!)
ああなるほど清水俊二訳のチャンドラーがあんなに格好良かったのには、
こういうわけがあったのか!等々
積読、再読の呪いも万全?!
もっとも読み終えた後、この本のタイトルにはちょっと疑問が。
なにしろ『文豪の翻訳力』だ。
ここから連想するのは、文豪たちがどのように語学力を身につけて
実際のところどれぐらいの実力をもっていたのか、
どんな失敗談があるのか……といったことろではなかろうか?
実際の中味は、こうした四方山的な方向ではなく
より文学的な高尚な話が多かったが
当初想像していた以上に有意義な読書だった。
<本書のせいで思わず読んでしまった
あるいは新たに積んでしまった、はたまた入手しようと画策している本の紹介>
・「余が翻訳の標準」二葉亭四迷
・「クラリモンド」ゴーチェ 芥川龍之介訳
・「世界怪談名作集 05 クラリモンド」 ゴーチェ 岡本 綺堂訳
・「沖の小娘」J.シュペルヴィエル 堀口大學訳
・「僕の名はアラム」ウィリアムサローヤン
・「愛と笑いの夜」ヘンリー・ミラー 吉行淳之介訳
翻訳にまつわる対談などを立て続けに読んでいたこともあって
この本もタイトルにつられて手にしてみたのだが、
いざページをめくってみるとこれが!!
………かなり本格的な論文集だった?!
それもそのはず、著者は自らも翻訳を手がけてはいるが
日本比較文学会の会長もつとめた有名な学者さんだったのだ。
いやいやこれは歯が立たないかもと思いつつ
恐る恐る読み始めると……意外や意外(失礼!)
難しいながらも興味深い話がぎっしり詰まっていて面白かった。
森鴎外や二葉亭四迷がいかにして翻訳に取り組んできたかに言及しながら
日本近代文学が“翻訳との相互関係の中で自己形成してきた”過程を明らかにする。
(つい先日まで私の中ではダメ男扱いだった二葉亭がメチャメチャいい男に変身?!)
その一方で、作品が売れない新米作家にとって翻訳は、
手っ取り早い生活費稼ぎの手段であったことにも言及する。
売れっ子作家の名前を冠した翻訳には、
本当は赤の他人の手によるものだった!というケースも少なくなく
江戸川乱歩訳として発表されていたポー作品は渡辺温が訳したものだった!
などという実は有名らしいが私は全く知らなかった事実も紹介されている。
名義貸しか!しかも(当サイトでも人気の高い?)温ちゃんに!!
ちなみに乱歩は後年自分の全集を編纂するにあたって
あれは渡辺君達の仕事だからとハッキリ収録を拒否したという。
そういえば、この本では触れられてはいなかったが
青空文庫にモーリス・ルブランの奇巌城をはじめ、
菊池寛の訳の作品がいくつもあったっけ。
あれもきっと菊池寛が訳したものではないんだろうなあ。
下訳にちょっと手を入れただけなどというものもあって
「手伝って貰った」「相談した」となどと
謝辞に名前をあげるのは良心的な方なのかもしれない。
そんなこんなで“文豪の翻訳”については、
どこまでが本人の手によるものなのか判断が難しいものも少なくないとか。
とはいえ、翻訳作業を通じて
あるいは翻訳作品を読むことによって、
文体や視点等、様々な影響をうけた作家は多く
本書ではそういう作家やその作品も沢山紹介されている。
谷崎はゴーチェを一向に評価していなかったが、
佐藤春夫も芥川も谷崎の書くものとゴーチェのそれは似ていると思っていたという。
ふーん。ゴーチェね。ゴーチェ?!
芥川、ゴーチェを訳しているのか!
(と思わず、積む。)
それにしても堀口大學の訳文の美しいこと!
原文との対比も興味深い。
(もっとも大學の最大の功績は
ルパンシリーズを山ほど訳してくれたことだと
私は本気で思っているのだけれど、これは余談で、
他にもいくつか訳があるはずのシュペルヴィエルの『沖の小娘』
これは翻訳読み比べが必要か?!)
結構専門的な話も多くて難しい部分はあったが
とりわけ戦後の世代の作家がどのように外国文学を受け入れ
自分の中に取り入れていったかということを
英文と翻訳文あるいはその作家の作品の特徴などとの比較によって紹介されると
ただ単に雰囲気が似ているといっただけでなく説得力がある。
吉行淳之介の訳でヘンリー・ミラーの短編が読みたい!とか
(こらえきれずに積んでしまった!)
ああなるほど清水俊二訳のチャンドラーがあんなに格好良かったのには、
こういうわけがあったのか!等々
積読、再読の呪いも万全?!
もっとも読み終えた後、この本のタイトルにはちょっと疑問が。
なにしろ『文豪の翻訳力』だ。
ここから連想するのは、文豪たちがどのように語学力を身につけて
実際のところどれぐらいの実力をもっていたのか、
どんな失敗談があるのか……といったことろではなかろうか?
実際の中味は、こうした四方山的な方向ではなく
より文学的な高尚な話が多かったが
当初想像していた以上に有意義な読書だった。
<本書のせいで思わず読んでしまった
あるいは新たに積んでしまった、はたまた入手しようと画策している本の紹介>
・「余が翻訳の標準」二葉亭四迷
・「クラリモンド」ゴーチェ 芥川龍之介訳
・「世界怪談名作集 05 クラリモンド」 ゴーチェ 岡本 綺堂訳
・「沖の小娘」J.シュペルヴィエル 堀口大學訳
・「僕の名はアラム」ウィリアムサローヤン
・「愛と笑いの夜」ヘンリー・ミラー 吉行淳之介訳
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:武田ランダムハウスジャパン
- ページ数:416
- ISBN:9784270006658
- 発売日:2011年08月25日
- 価格:2376円
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