4月20日(水)夕刻、三菱自動車が自社製品の自動車型式届出について
不正なかつ、自社に有利な燃費をデータを提出していたことを、社長自ら発表する。
多くの怒り、失望の声をニュースから聞いた。
私は報道機関の人間ではないので、顛末・責任追求はそちらにお任せするが、
スジの通し方と、今後どうするのか見届けたいというのが、正直な私の感想である。
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本書は、同社が過去に起こした、いわゆる「リコール隠し」を発端とした事件に
関して、三菱自動車だけでなく、自動車業界各社の当時の現状をまとめた書籍。
私が本書を手にしたのが、ちょうど上記会見の前日。タイミングが良すぎて、
自分自身に失笑したが、本件と絡んで、総合的に俯瞰するには良い機会だと思い、
読む事にした。
日本における自動車のリコール制度は「自動車メーカ(以下、メーカと称す)側」からの
自発的な申告を拠り所にしていると本書で述べている。
「自動車ユーザ」が不具合を申告するための、国土交通省のホームページは存在する。
しかし、四六時中、省の人間がメーカに張り付いている訳ではなく、
かつ自動車ユーザが全てホームページに不具合を書いてくれるとは考えにくい中、
基本的にはメーカを信頼し、それを元に動くというのは仕方のない事かもしれない。
勿論、メーカも単純にこれで良いかな、という「思い」だけで設計して、
自動車を生産している訳ではない。設計した自動車で充分な評価をして、
それを担保に、品質を保証した上で、この世に送り出している。
(これはどんな製品も同じだろう。)
しかし、本書でも触れているが、自動車はより良いものをより安く、そして進む
電子制御化(コンピュータ化)の流れの中、設計・製造現場が変わりつつあるのが現状だ。
一つの部品を複数車種で共有すると、多く安く作れて万歳!というコストダウンの
手法がある。一方、仮にその部品が不具合原因となり、法規違反・リコールとなった時、
その影響範囲は甚大になる。今では「何百万台リコール」のニュースが当たり前と
なってしまったのはそのためだ。コストダウンしたにも関わらず、一つのリコールで
膨大なコストかかかってしまう。
そして、電子制御化によるコストの増大である。1980年代前半位まで、自動車の電子制御は
ごく一部の部品のみに採用する程度だった。身も蓋も無い書き方をすると、電子制御が
必要では無かった、そこまで技術が無かったのだ。
しかし、本書が書かれて10年以上経過した今、ハイブリッドカーが市場を席巻し、
電子制御無しには自動車は走らない。
増大したコストに対し、自動車作りでどこにお金を振り分けるか、メーカの腕の
見せ所だが、この点で三菱は大いなる過ちをしてしまったのではないだろうか。
本書を読んで私はそう感じた。
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さて、冒頭の会見について、熊本を中心とした震災の直後の発表であり、
震災に紛れて隠れるつもりか?という意見をネット上で見たが、恐らく違うだろう。
なぜなら、会見場所が国土交通省の建物内であり、三菱自動車独自の判断で記者会見を
行ったとは到底思えないからだ。
本件を発表すべきと判断した辺りで、震災が起こってしまったが、省が事の重大さを
重視し、震災直後であっても発表すべし、という事にメーカも了承したのだろう。
私が考える、事の重大さとは下記である。
① 同社の「不正」が再発(再々発?)であること
② 他社(日産自動車)の指摘で発覚したこと
③ 現行商品かつ、OEM商品として日産自動車でも販売している商品であり、
市場への影響が大きいこと(対象の自動車は三菱自動車で生産し、その一部は
日産自動車のバッジを付けて、「日産自動車の車」として販売していた)
④ なにより、同社製品の使用者を、ディーラーを、そして設計・製造など、
関わる全ての方を欺いたこと
バッドニュースはすぐ表に出し、すぐ解決が基本だと思うが、「三菱」という
社のプライドが邪魔をさせたのか、傷口が浅いうちに塞ぐことは叶わなかった。
完全な私個人の意見としては、三菱の自動車部門である同社を潰す、
と同時に別な自動車メーカの傘下として、一から出直す覚悟が必要だと考えている。
なぜ単純に潰すと思わないのか。それは自動車は2~3万点の部品から成立しており、
1点でも部品が揃わないと成立しない製品であるからだ。とりもなおさず、2~3万点の
部品を作っているメーカが存在しているという事でもある。
三菱自動車が単純に潰れて、共に上記部品メーカも迷走すると、日本の経済に
多大影響を与えかねない。
どこで不正が行われたか、これから明らかになっていくであろうが、
ちょっとした燃費の操作という、これ位だったら良いだろうという行為が、
日本に、世界に迷惑をかけていること、同社は猛省しなければならない。
コンプライアンスという、最近よく耳にするこの言葉の教育が徹底されていない
という表れだ。本書を読んで勉強して頂きたい。
リコール隠しの時は三菱グループ総力を挙げて、自動車部門を守ったというニュースを
聞いた事がある。だが、今回も同様の事をするのか、投げた賽をどうするのか、
上層部の「常識」が問われる。
当分の間は、他の自動車メーカを巻き込み、事実と嘘の混在した情報が飛び交うだろう。
我々はそれらの情報に単純に踊らされないよう、注意深く、真実を見極める必要がある。
【参考リンク】
「製造現場から見たリコールの内側」




健康第一・健康優先の生活を心がけていたところ、本が読めるようになりました!ただ、書評に繋がらないのが現状です。ぼちぼち、読書 → 書評に繋げていきたいですね!お伺い等、遅れております。申し訳ありません。【2018/7/24更新】
この書評へのコメント
- カルロス2016-05-04 22:45
ふらりんさん こんばんは
本田宗一郎さんの本に書いてあったこと。
「或る会社の自動車は、ガタガタのジョイントをそのままにして直そうとしません……改良することが出来るのに改良しないのです」
というのが気になっていました。当時、どのメーカーかわからなかった。
三菱自動車のリコール隠しが発覚したのが2000年。本田さんが言っていたのは三菱のことだとわかりました。本田さんが亡くなったのは1991年ですから、もうずっと前から業界内ではわかっていたようです。さらに調べると、本田さんの某メーカーへの批判は昭和28年から始まっていました。なんと1953年から三菱は不正をしていた訳です。
自分の家族が三菱の自動車に乗っていたとき、交差点でよくエンストしたのを覚えています。同じ車種で別の人が乗っていた車も、同様のトラブルが起こっていました。ジェネレーター(発電機)が不良品で、バッテリーの充電不足が原因だった。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - ふらりん2016-05-04 23:40
カルロスさん、こんにちは。
恐らく他社の車と自社の車を性能比較や分解をした時に、
ジョイントのガタをホンダ技術者達は発見したのでしょう。
本田宗一郎さんの耳には、正確なメーカ名が入っていたと思いますが、
あえて書かなかったのではないでしょうか。
それは、自動車メーカとしてホンダは後発メーカであり、立場上の問題も
あるかもしれませんが、自分達はそんなミスをしないというホンダの自信の
表れとも取れます。
私の集めている限りの情報だと、三菱自動車は最近でも新車開発の担当部長を
諭旨解雇する、「株式上」は子会社でも無いという三菱重工が本件に
口を出す等、不思議な会社に見えます。
私は20年前位に三菱・ミニカという軽自動車に乗っていました。
他社と差別化の為か4気筒エンジン搭載、鋭い吹け上がりで、乗るのが
楽しみでした。(私の場合、故障は特にありませんでした。)
今回の発表が企業風土の転換の起爆剤になることを切に願いたいです。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
- 出版社:新潮社
- ページ数:188
- ISBN:9784106101311
- 発売日:2005年08月01日
- 価格:734円
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