星落秋風五丈原さん
レビュアー:
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トスカニーニの心意気 映画『栄光への脱出』に登場したあの船も…人々の命と希望を繋ぐヴァイオリンが伝えるものは…
映画『命をつなぐバイオリン』では、子どもとは思えぬバイオリンとピアノの腕で神童として騒がれていたユダヤ人のアブラーシャとラリッサが、ヒムラーの誕生祝賀会で完璧な演奏を行えば強制収容所送りを免除することを約束する場面がある。この映画はフィクションだが、本書に書かれた演奏家達は、文字通り演奏と引き換えに自分や家族の命を繋げていた。
全六章のエピソードから成り、ユダヤ人のアムノン・ヴァインシュテインが各章を繋ぐ。テルアビブの工房で父から引き継いだ弦楽器製作者の仕事に携わる彼は、親族を全てホロコーストで奪われたため、辛い過去から長い間遠ざかっていた。しかし、1990年代になってホロコースト中にユダヤ人音楽家が奏でたヴァイオリンを探し出し、‘希望のヴァイオリン’として修復する活動を始めた。
第一章「ワーグナー」のヴァイオリンには、天才的演奏家であり指揮者でもあるトスカニーニが登場する。1936年、ブロニスラフ・フーベルマンがパレスチナで新しいオーケストラ(後のイスラエル・フィル)を結成したとき、ヨーロッパ中の優秀なユダヤ人の演奏家たちを採用した。当時職業も制限され財産も没収されていたユダヤ人にとって、彼の申し出は希望そのものだった。このオーケストラの第一回コンサートの指揮者として名乗りを上げたのが反ナチスの立場を明確にしていたトスカニーニだ。映画ではやたら恋愛沙汰の方がクローズアップされ、ロマンティックなハンサムのイメージが強い彼は、気に入らない演奏には容赦なく、指揮棒を折ったり譜面台を壊したりする武勇伝の持ち主でもあった。演奏家たちは戦々恐々としていたが、演奏を聴いた名指揮者は果たして…という一連のエピソードが映画にしたいと思うほど素晴らしい。
必ずしも名器だけが取り上げられたわけではなく、また、名器であっても劣悪な環境下に置かれたため演奏が出来ない状態になってしまったヴァイオリンもあるが、アムノンはそれらを引き取る。それらのヴァイオリンこそ、ユダヤ文化を完全に抹殺しようとしたナチスの迫害を耐え抜いた人々の思いを伝えるかけがえのないものだからだ。文化が滅びぬ限り、それらを伝えてきた人々の心意気も決して滅びない。
全六章のエピソードから成り、ユダヤ人のアムノン・ヴァインシュテインが各章を繋ぐ。テルアビブの工房で父から引き継いだ弦楽器製作者の仕事に携わる彼は、親族を全てホロコーストで奪われたため、辛い過去から長い間遠ざかっていた。しかし、1990年代になってホロコースト中にユダヤ人音楽家が奏でたヴァイオリンを探し出し、‘希望のヴァイオリン’として修復する活動を始めた。
第一章「ワーグナー」のヴァイオリンには、天才的演奏家であり指揮者でもあるトスカニーニが登場する。1936年、ブロニスラフ・フーベルマンがパレスチナで新しいオーケストラ(後のイスラエル・フィル)を結成したとき、ヨーロッパ中の優秀なユダヤ人の演奏家たちを採用した。当時職業も制限され財産も没収されていたユダヤ人にとって、彼の申し出は希望そのものだった。このオーケストラの第一回コンサートの指揮者として名乗りを上げたのが反ナチスの立場を明確にしていたトスカニーニだ。映画ではやたら恋愛沙汰の方がクローズアップされ、ロマンティックなハンサムのイメージが強い彼は、気に入らない演奏には容赦なく、指揮棒を折ったり譜面台を壊したりする武勇伝の持ち主でもあった。演奏家たちは戦々恐々としていたが、演奏を聴いた名指揮者は果たして…という一連のエピソードが映画にしたいと思うほど素晴らしい。
必ずしも名器だけが取り上げられたわけではなく、また、名器であっても劣悪な環境下に置かれたため演奏が出来ない状態になってしまったヴァイオリンもあるが、アムノンはそれらを引き取る。それらのヴァイオリンこそ、ユダヤ文化を完全に抹殺しようとしたナチスの迫害を耐え抜いた人々の思いを伝えるかけがえのないものだからだ。文化が滅びぬ限り、それらを伝えてきた人々の心意気も決して滅びない。
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2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。
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- 出版社:白水社
- ページ数:284
- ISBN:9784560084786
- 発売日:2016年02月23日
- 価格:3024円
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