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Wings to fly
レビュアー:
きわめて強いメッセージが伝わってくる作品。人間は、暴力以外のもので憎しみの連鎖を止めねばならない。アートには、戦争やテロと戦う力があるのだと。
最初に、パブロ・ピカソの言葉が記されている。
「芸術は、飾りではない。敵に立ち向かうための武器なのだ。」
第二次大戦前後のパリで、絵筆を武器に戦うピカソを見つめる女性。9.11直後のニューヨークで、ピカソの意志を実現させようと奮闘する女性。ふたつの時代をつなぐのは、反戦のシンボル<ゲルニカ>である。

パリ編(1937~1945)は、ピカソの<ゲルニカ>制作と絵画のその後、ナチスによる占領とパリ解放までの物語。ニューヨーク編(2001~2003)は、MoMA(ニューヨーク近代美術館)のキュレーター瑤子が、同時多発テロで夫を失いながらも、絵画展「ピカソの戦争」の企画を立ち上げ暴力の連鎖と闘おうとする物語。交互に描かれる過去と現代から、人の心を動かすアートの力が浮かび上がる。

パリ編の語り手は、<ゲルニカ>完成までの制作過程をカメラに収めた写真家のドラ・マールだ。ピカソの愛人で<泣く女>のモデルである。ドラの目に映るピカソの苦悩、<ゲルニカ>にこめられた心、恋多きピカソに「泣かされた」女の気持ちなどの人間ドラマが生き生きと描かれる。また作者は過去と現代の双方にパルド・イグナシオという架空の人物を配し、かの傑作絵画がどのように戦火を逃れたかを伝える。この絵の力を信じ守ろうとした人々あってこそ、<ゲルニカ>は現代に残ったのだ。

国務長官がイラクへの武力行使を発表する背景に、無差別爆撃の悲劇を描いた<ゲルニカ>があってはまずい。国連本部のゲルニカのタペストリーに暗幕をかけたのは誰か。ミステリアスに始まるニューヨーク編には、「瑤子は門外不出の<ゲルニカ>をスペインから借り出すことができるのか」という、ドキドキの展開が待っている。そこにテロリストまで投入しなくてもよかったんじゃないか。展開が唐突すぎ、あっけなさすぎた。あのエピソードなしでも、負の連鎖を断ち切ろうとする瑤子の気持ちと、白いハトの絵の役割は力強く伝わってきたのに。

本書ではもう一点、ピカソの白いハトの絵も重要な役割を果たすのだ。平和を願う心もまた、時代を超えて受け継がれるのである。
「アートとは、人間が愚かな過ちを自省し、平和への願いを記憶する装置である。」と、MoMAの館長アランは言う。作者自身の信念がこもったその言葉が、ストレートに胸を打つ。

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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2016-08-10 06:30

    この作品、高評価の方も多くがテロリストの場面はいらなかったと仰っているのが面白いですねえ。
    もちろん(?)私も、いらなかった派なんですがw

  2. Wings to fly2016-08-10 09:15

    ニューヨーク編はちょっと詰め込み過ぎで、この際はっきり言ってしまうと陳腐だと思いました。☆4つはパリ編がすごく良かったからです^^;

  3. No Image

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