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DBさん
DB
レビュアー:
陰鬱な幻想を描いた話
ロシアの文豪たちの作品からドストエフスキーの「鰐」、アンドレーエフの「ラザロ」、そしてトルストイの「イヴァン・イリイチの死」が選ばれています。
ボルヘスによればドストエフスキーとアンドレーエフには喜怒哀楽の感情の激しさと、敵対的な世界に対して抱く陰鬱な幻想に相通じあう部分があるそうだ。

「鰐」ではある官僚の男が妻にせがまれてペテルブルグのアーケード街で有料で観覧されているワニ見物に行くことから話がはじまります。
男はたまたま旅行に行こうと休暇を取っているところだったが、同僚であり遠縁の中でもある語り手と妻が目を離した隙にワニにパックリと喰われてしまう。
しかも語り手の目の前でワニが口を開いたときに、おくびのように恐怖に彩られた男の顔が現れて再びワニの体内へ消えていくというホラーな世界だ。
だがここから話はコミカルな幻想の世界へ移っていきます。
ワニに喰われた男の声がワニの内部から聞こえてきたのだ。
男が言うにはワニの体内はがらんどうで、男が横たわるのに十分なスペースがあるという。
そんなワニの中の男の要求と、男の同僚たちの反応が描かれたシュールな作品だった。

死から蘇った男「ラザロ」を描いたアンドレーエフの作品は、まさに陰鬱な幻想と呼ぶにふさわしい。
死後三日たってキリストが甦らせた男がラザロだったが、それまでは明るく冗談をいうような男がひたすら寡黙に座しているだけとなっていた。
しかも肌には死後の色合いが残り、その瞳を覗き込んだ者は一様に死の深淵を見たかのように無気力になるという。
最後にはアウグストゥスまで登場するが、アウグストゥスがラザロの目を見て抱いたのが無気力ではなく怒りだったというのはそれなりに傑物だったってことなのかもしれない。

「イヴァン・イリイチの死」は裁判所判事だった男の訃報から始まります。
同僚や知人が四十五歳で亡くなったイヴァン・イリイチの死をそれぞれに受け止めていた。
未亡人が涙の影で打算的な考えを見せているが、イヴァン・イリイチにとって家庭とは義務であり仕事は家庭から逃れる口実、カードゲームをしている時だけが楽しみだったという。
病魔に侵され、どんどん衰弱していく身体と痛みを和らげるためのモルヒネ、そして死への恐怖が切々と語られていきます。
最後に見える光は本物なのだろうか。
どれも興味深い作品だった。
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DB
DB さん本が好き!1級(書評数:2034 件)

好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

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