darklyさん
レビュアー:
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決して派手ではないSFであるが、近未来の世界観のリアルさと人の生き方について考えさせられる。
人類は終わりなき資源の争奪戦を繰り広げた挙句、地球環境は破壊され水も含めて利用可能な資源はほとんど失われ北極圏に近い地域に住んでいた。現代の技術も失われ電気機器などその名残はプラスティック墓地と呼ばれるゴミの山の中にあるだけである。為政者はいつの時代もあるように自分たちを正当化する歴史を人々に信じ込ませている。
このような世界では特に水は貴重であり水源を隠したり不正に水を引き込んだりする者は水犯罪者として処刑される。ノリアは茶人の父の元で茶人となる修業を重ねていたが、ある日父から重大な秘密を伝えられる。
それは茶人は代々人々の知らない泉を守り、茶道を継承して行かなければならないということである。即ちこの世界では水犯罪者であり、また他の人々が水で苦しむ中、その重荷に耐えていかなければならないということである。
ノリアにはサンヤという幼馴染がおり、二人でプラスティック墓地で技術が失われた時代の物を探すのを楽しみにしていたが、偶然見つけたCDとCDプレーヤーを触っているうちに禁止されている地域への探検隊の報告を聞くことになり真実として信じ込まされている現在の世界に疑問を抱く。
父が亡くなった後、ノリアは次第に自分だけ水を自由に使える罪悪感から、困っているサンヤを始めとして人々に水を与えたが、それは当然情報が漏洩していくことを意味していた。ノリアは禁止されている外の世界に使用できる水があることを確信し密かに脱出計画を立てるが、軍の監視の目は既に張りめぐらされていた。
本書はパオロバチカルビの名作「ねじまき少女」を彷彿させる環境SFとしての設定ですが、茶人として、人間としての生き方を描いた作品です。私は茶道についてほとんど知識がありませんが、茶室の作りや作法などの記述を見ても明らかに日本の茶道と思われます。
この暗い時代において、ノリアには3つの生き方の選択肢がありました。一つ目は父の教えのとおり厳格に茶人として生きるか、二つ目は人間として正しいと思える生き方をするか、三つめは権力に迎合して現世での生活を愉しむか。
ノリアの敵の軍の責任者は茶人でありながら権力に迎合し権力側についており、そのような選択をしないノリアが理解できません。ノリアは行方不明のサンヤを材料に囚人のジレンマのような罠を仕掛けられますが結局自分の信じる道を選択しました。
歴史は常に為政者に塗り替えられます。権力など手に入れてもそれは束の間の夢であり、歴史が塗り替えられた後では事実でもなくなります。そしていくら歴史を塗り替えても、どこかで、誰かが真実を後世に伝えることを完全に防ぐことはできません。ノリアの生き方もいずれ後の人に知られるでしょう。
私たちは水を取り込んで生きており、自分が主人のように思っていますが、見方を変えれば水はただ昔から存在するだけで、私たちはその中を束の間の命として通過していく存在に過ぎないとも言えます。人生とはそのようなもので人間が思っているほど確固たるモノなど存在しない。その中で何が大事なのか。それは何になったかではなく、どのように生きたかということ。現世の利益とか来世の利益とかを超えて。
本作品はフィンランドの女性作家エンミ・イタランタのデビュー作ですが、SFの設定の中に、東洋の思想に近い概念を取り込み素晴らしい人間の物語に仕上げており恐るべきデビュー作と言えるでしょう。
このような世界では特に水は貴重であり水源を隠したり不正に水を引き込んだりする者は水犯罪者として処刑される。ノリアは茶人の父の元で茶人となる修業を重ねていたが、ある日父から重大な秘密を伝えられる。
それは茶人は代々人々の知らない泉を守り、茶道を継承して行かなければならないということである。即ちこの世界では水犯罪者であり、また他の人々が水で苦しむ中、その重荷に耐えていかなければならないということである。
ノリアにはサンヤという幼馴染がおり、二人でプラスティック墓地で技術が失われた時代の物を探すのを楽しみにしていたが、偶然見つけたCDとCDプレーヤーを触っているうちに禁止されている地域への探検隊の報告を聞くことになり真実として信じ込まされている現在の世界に疑問を抱く。
父が亡くなった後、ノリアは次第に自分だけ水を自由に使える罪悪感から、困っているサンヤを始めとして人々に水を与えたが、それは当然情報が漏洩していくことを意味していた。ノリアは禁止されている外の世界に使用できる水があることを確信し密かに脱出計画を立てるが、軍の監視の目は既に張りめぐらされていた。
本書はパオロバチカルビの名作「ねじまき少女」を彷彿させる環境SFとしての設定ですが、茶人として、人間としての生き方を描いた作品です。私は茶道についてほとんど知識がありませんが、茶室の作りや作法などの記述を見ても明らかに日本の茶道と思われます。
この暗い時代において、ノリアには3つの生き方の選択肢がありました。一つ目は父の教えのとおり厳格に茶人として生きるか、二つ目は人間として正しいと思える生き方をするか、三つめは権力に迎合して現世での生活を愉しむか。
ノリアの敵の軍の責任者は茶人でありながら権力に迎合し権力側についており、そのような選択をしないノリアが理解できません。ノリアは行方不明のサンヤを材料に囚人のジレンマのような罠を仕掛けられますが結局自分の信じる道を選択しました。
歴史は常に為政者に塗り替えられます。権力など手に入れてもそれは束の間の夢であり、歴史が塗り替えられた後では事実でもなくなります。そしていくら歴史を塗り替えても、どこかで、誰かが真実を後世に伝えることを完全に防ぐことはできません。ノリアの生き方もいずれ後の人に知られるでしょう。
私たちは水を取り込んで生きており、自分が主人のように思っていますが、見方を変えれば水はただ昔から存在するだけで、私たちはその中を束の間の命として通過していく存在に過ぎないとも言えます。人生とはそのようなもので人間が思っているほど確固たるモノなど存在しない。その中で何が大事なのか。それは何になったかではなく、どのように生きたかということ。現世の利益とか来世の利益とかを超えて。
本作品はフィンランドの女性作家エンミ・イタランタのデビュー作ですが、SFの設定の中に、東洋の思想に近い概念を取り込み素晴らしい人間の物語に仕上げており恐るべきデビュー作と言えるでしょう。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:西村書店
- ページ数:299
- ISBN:9784890137381
- 発売日:2016年03月17日
- 価格:1620円
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