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かもめ通信
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大丈夫!いつだって旅立つ準備は出来ている!隣の家でも、見知らぬ街でも、遠い国でも、宇宙の果てでもご一緒します?!
翻訳家の藤井光さんを初めて意識したのは、ダニエル・アラルコンの『ロスト・シティ・レディオ 』の訳者あとがきを目にしたときだ。

アラルコンのデビュー作であるこの作品を自ら出版社に持ち込んだというエピソードを読んだとき、これからはこの訳者さんに注目していこうと決心した。

以来、細々と遅れ遅れではあるけれど、彼の翻訳作品を追いかけている。

そんな藤井さんのエッセイ集が出ると知ったからには読まないわけにはいかないと、いそいそと手を伸ばしたものの、読み始める前は“「アメリカ」なき時代のアメリカ文学”という副題が少々気にかかってはいた。

思い起こしてみれば私は子どもの頃から翻訳小説好きだった。
『メアリー・ポピンズ』(イギリス)『長くつしたのピッピ』(スウェーデン)『ムーミン』(フィンランド)にはじまって、モーリス・ルブラン(フランス)やアガサ・クリスティ(イギリス)、ジェイン・オースティン(イギリス)やカレル・チャペック(チェコ)を読んで大人になった。
ロシア文学にかなり傾倒していた時期もあったし、タブッキ(イタリア)には今でも相当いれあげている。

がしかしどういうわけか、ごく最近までアメリカ文学というものにはほとんど触れてこなかった。
だから、このエッセイで語られるであろう文学談義についていけるかどうか少々心配だったのだ。

ところが、ところがである。

この本を読んだら期せずして、私がなぜ長い間アメリカ文学を避けて通ってきたのか、そして今なぜアメリカ文学を読み始めているのかがストンと腑に落ちた。

人によって答えがまちまちになるのは承知の上でと断りを入れながらも、著者が考える現代のアメリカ作家たちにとってインスピレーションとなっている三大作品は非常に興味深かったし、そういった正統派文学論だけでなく、イギリスの作家の厳しい財政状況やアメリカの作家の多くが教師という職業についているなどという裏話的な話も新鮮だった。
他にも“もし小説の登場人物が履歴書を書いたなら”などの面白い試みも披露され、著者のサービス精神が遺憾なく発揮されている。

覚悟していたことではあったが、この本を読んだおかげで未邦訳作品を含め読みたい本がまたまた増えた。
だがそのことを後悔すまい。
文学の世界はますます混沌としながらも、大きく広がっていることを実感できたのだから。


<藤井光さん関連レビュー>
『ロスト・シティ・レディオ』
『タイガーズ・ワイフ』
『遠い部屋、遠い奇跡』
『かつては岸』
『大いなる不満』
『夜、僕らは輪になって歩く』
『早稲田文学 2015年冬号』
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2229 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. 青玉楼主人2016-05-16 07:17

    藤井光という翻訳家を意識したのはサルバドール・プラセンシアの『紙の民』からでした。それからというもの、かもめ通信さんと同じようにいつも注目しています。

  2. かもめ通信2016-05-16 08:58

    『紙の民』!重要ですよね!!『紙の民』は!
    この本の中にも再三登場しました!
    実を言うと私は……え~と
    『紙の民』もう何年も積んだままなんですが……(^^;)
    今度こそ読もうと思って,積読山から掘り出してきたところだったりします。。。。(汗

  3. 青玉楼主人2016-05-16 12:56

    時間のあるとき、一気に読まれるといいですね。それとも、お楽しみに取っておくというのもありかも…。とにかく尋常ではない本ですからね。

  4. タカラ~ム2016-05-16 18:03

    藤井光さん、今もっとも注目すべき英米文学翻訳家じゃないですかね。

    私が藤井さんの翻訳書で最初に読んだのは、デニス・ジョンソン「煙の樹」でした。

    その後、気になる翻訳書を手に取ると、かなりの高確率で藤井さんの翻訳だったりします。

    今年度の放送大学で開設している「世界文学への招待」という講座でも、英米文学について藤井さんが講義していました。
    http://www.ouj.ac.jp/hp/kamoku/H28/kyouyou/C/ningen/1740024.html

    「ターミナルから荒地へ」については、先日の日本翻訳大賞授賞式の中で、柴田元幸さんが21世紀の英米文学を知る上で重要な1冊、という話をしていたかと記憶しています。

    P.S.
    私の「紙の民」は積んだままですww

  5. かもめ通信2016-05-16 18:27

    青玉楼主人さん、
    そうそうそのテの本はきっとゆったり構えてじっくり読むべき本ですよね。
    最近隙間時間読書ばかりなのでなかなか腰を据えて不思議世界に踏み出せなくて。
    でもせっかくなのでこれを機に、なんとか時間を作ります!

  6. かもめ通信2016-05-16 18:28

    ちょっ!タカラ~ムさん、私その本知らなかった!>「煙の樹」
    っていうか、なにこれ、本を読んで積んだだけじゃ、まだ足りないってことかしら?(><)
    読みたい本のリストに入れました。。。。。

  7. タカラ~ム2016-05-16 20:18

    かもめ通信さん

    「煙の樹」はね、Amazonの商品ページの情報でいうと、

     ・総ページ数:658ページ

    ってなってるんですけどね、本文2段組で650ページ強なんで読むときは気合入れて読んでくださいね!

  8. かもめ通信2016-05-16 20:23

    えっ(-_-;)
    タカラ~ムさん、なにそれ、積読山の呪いかなんか??

  9. 青玉楼主人2016-05-16 20:52

    タカラ~ムさんも『煙の期』読まれたんですね。ベトナム戦争を扱った長篇ですが、『紙の民』ほど癖がないので、リズムに乗ったらぐいぐいと読んでいけます。かもめ通信さん、こちらの方もお勧めですよ。

  10. かもめ通信2016-05-16 21:22

    うっうっ(/_;)呪師が二人に増えている……わかりました。読みますよっ!w
    だいたいテーマからして好物そうですしね。
    でもねえ。お二人さん、私がめざしているのはこれ↓なんですよ。
    アメリカ文学ではありませんが。
    その前に「四重奏」を読めって話なんですが……(><)

  11. 青玉楼主人2016-05-16 23:37

    『五重奏』でしたか。よく行く古本屋に陽に焼けた『四重奏』の四冊が揃っていて気にしていたときに新装本が登場。もちろん即購入。その後、『五重奏』が!どちらかといえば『五重奏』がおもしろかった。最後まで読むことが求められますが…。『四重奏』は後回しにしてこちらを読むというのもありですね。

  12. かもめ通信2016-05-17 06:17

    ええっ!そうなんですか!私はもうはなっから『四重奏』を読まねば『五重奏』にたどり着けないと決めつけていました!
    ちょっと考えます。
    ロレンス・ダレルはちびちびとこの本を読んでいるのですが。

  13. 青玉楼主人2016-05-17 07:55

    『予兆の島』は未読です。ロレンス・ダレルは紀行文の名手だと丸谷才一も書いてました。いつか読めるといいのですが。

  14. かもめ通信2016-05-17 08:12

    『予兆の島』は以前efさんレビュー
    http://www.honzuki.jp/book/225956/review/136255/
    を拝見してその存在を知った本なのですが
    絶版のようで図書館で借りるしかないか…と諦めていたところ、
    出版社でバーゲンブックとして取り扱っていることを知り
    慌てて入手したという経緯があります。
    文章になんともいえぬ味わいがあるので、無理に筋を追うことをせず
    時々開いては楽しんでいます。

  15. 青玉楼主人2016-05-17 08:20

    時々開いて文章を味わう。最高の読書ですね。

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