中継ステーション〔新訳版〕

物語の舞台は、アメリカの大自然に抱かれたウィスコンシン州の古びた一軒の農家である。実はその家、星から星へと銀河を旅する異星人のための中継ステーションなのだ。ステーションの管理人イノック・ウォーレス以外の地球人は、そんなところに銀河系への中継ポイントがあることを知らない。異星人たちが宇宙の長旅の途中、地球でひと休みしていることも。管理人への友好の印に、ささやかな贈り物を持ってきたりしていることも。

イノック・ウォーレスは南北戦争に従軍した後、故郷に戻り父と小さな農場を営んでいた。父が亡くなった後、ある日突然見知らぬ男が訪ねてきた。
「わたしが捜していたのは、多くの点でほかのひととはちがう者だ。ことに、星を見上げて、あれはなんだろうと不思議に思うような人間でなくてはならない。」
イノックが銀河系の組織にスカウトされ、地球が銀河の地図に記載され100年が過ぎる頃に、事件は起きた。

はるか昔の従軍記録、年を取らないという噂、農場の敷地にある不可思議な墓。イノックはCIAに監視されていた。ひそかに墓を調査し驚愕するCAIと、礼儀知らずな「墓掘り事件」に銀河系から寄せられた抗議。イノックは地球を代表して、たったひとりで地球人を弁護しなくてはならなくなる。その一方で、銀河系にも大問題が起きていた。

シマックがこの作品を書いたのはキューバ危機の翌年である。米ソ冷戦時代に生まれた本書には「対立者たちの心をつなぐために必要なのは何か」ということが描かれている。異なる環境に生まれ異なる価値観を持つ者たちが共存へと動き出す終わり方には、平和への強い希求を感じる。

1977年出版の邦訳を読んだ時、忘れ難い感銘を受けた。この本は40年ぶりの新訳である。対立と排斥が世界を揺るがせている今、本書の訴える「共感する力」について思いをめぐらす人が増えてくれることを祈りたい。地球人にせよ異星人にせよ登場人物が善人すぎるきらいはあるものの、レトロな雰囲気が「古き良き」という言葉を彷彿とさせる。作品に漂う抒情的な優しさには、またしても心が洗われてしまった。