ゆうちゃんさん
レビュアー:
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ショートショートの最後に「おのぞみの結末」が待っている佳作集。著者の人間性に対するブラックな考えも垣間見える。
星新一の1975年刊行(初出)の作品集。表題作「おのぞみの結末」を含め11編のショートショートが載っている。
本書は珍しく、「おのぞみの結末」となるショートショート、つまり結末で選んだ統一的な作品が並んでいる。そのおのぞみの結末が主人公にとってのそれなのか、脇役にとってのそれなのかは、別として・・。
下記に取り上げるのは初読から50年以上経っても中身を覚えている見事な作品である。
「空の死神」
乱気流で落雷があり海面に墜落しつつある飛行機。スチュワーデス(なんと古めかしい言葉になったことか)は乗客の動揺を抑えようと客室に向かう。しかし、慰めようとする客の反応は全て意外なものだった。若くして夫と死別してやっと大学を卒業させた息子に事故死されたばかりの老婦人、成果が挙がらず逆に自国の情報を喋ってしまい本国に呼び戻される途中、極刑が待ち構えているスパイ、などなど。皆、墜落しつつある飛行機の状態を歓迎している。スチュワーデスは呆れてコックピットに戻るが機長は何とか助かる方法を模索していた。邪魔だと言われ客室に戻ったスチュワーデスは孤独感にさいなまれる。だが着水先の近くに汽船が・・。
これは主人公ともいえるスチュワーデス以外の人にとっての「おのぞみの結末」となる。
「あの男この病気」
おれは熱っぽい。1年かけてある男を追っているが、そろそろ10か月目だ。おれは一年後に発病し死に至るウイルスを注射されている。もしある男を捕まえれば、その男が抗体を持っている訳だ。だが長いようで短い1年。おれの期限が迫り、絶望してやけを起こし、残る時間を快楽で過ごそうと思った。それには金がいる。男を追う資金は計画的に使っているため残りが殆どない。まずは強盗を働いて金を奪い・・・。
これは主人公の「おれ」にとってのおのぞみの結末につながる話。
「現実」
小さな会社勤務の青年が主人公。明子という美人に惚れていたが片思いだった。しかしある日、明子の夢を見て起きてみると明子が自分の妻となっていた。特許が当たり事務所に顔を出すだけで毎月定期的に収入が入って来る。満足のいく生活だったがそのうち飽きが来る。ある晩、秘密情報部員になった夢を見た。起きてみると自分は現実に秘密情報部員。そして敵に捕らえられた。飼い殺しの状態になり退屈し始めると、次は試験直前の学生になった夢を見た。・・こうして夢が現実になることを繰り返すが、最後は余命いくばくもない老人になっている。果たして最初は「小さな会社勤務の青年」は、この状況を脱出できるのだろうか。
ショートショートのなかに人間風刺を織り込んでいるものもある。「親しげな悪魔」と「要求」である。「親しげな悪魔は」、悪魔と出会い、金や女を自分の好きにできるようになった青年の話。青年は悪魔がどんな手段で自分の欲望を満たすか知り、絶望してすぐ魂を差し出した。しかし悪魔の最後のセリフに風刺が効いている。「要求」は宇宙人が地球に来て人間の思考をコントロールする装置の開発を要求する話。宇宙人は高精度ミサイルを持ち思いのまま都市や島を破壊できる。人類は脅しに屈して全世界の英知を集めその思考コントロール装置が完成した。全地球人が宇宙人の操り人形にされると思ったが、その宇宙人たちはその装置を地球を周回する衛星に取り付けて、立ち去った。残された人類の運命は・・。
いずれも人間の残酷さを皮肉った話である。星新一のショートショートは、あまり著者の考えみたいなものは登場しないと思うのだが、本書に限ればそうでもない珍しい作品が載っている。どんなに残酷な世界を描いても、文体のせいか会話のせいか穏やかで平和な印象を受ける星新一の作品だが著者は、案外、人間に厳しい目、性悪説の立場でみている感じがする。
本書は珍しく、「おのぞみの結末」となるショートショート、つまり結末で選んだ統一的な作品が並んでいる。そのおのぞみの結末が主人公にとってのそれなのか、脇役にとってのそれなのかは、別として・・。
下記に取り上げるのは初読から50年以上経っても中身を覚えている見事な作品である。
「空の死神」
乱気流で落雷があり海面に墜落しつつある飛行機。スチュワーデス(なんと古めかしい言葉になったことか)は乗客の動揺を抑えようと客室に向かう。しかし、慰めようとする客の反応は全て意外なものだった。若くして夫と死別してやっと大学を卒業させた息子に事故死されたばかりの老婦人、成果が挙がらず逆に自国の情報を喋ってしまい本国に呼び戻される途中、極刑が待ち構えているスパイ、などなど。皆、墜落しつつある飛行機の状態を歓迎している。スチュワーデスは呆れてコックピットに戻るが機長は何とか助かる方法を模索していた。邪魔だと言われ客室に戻ったスチュワーデスは孤独感にさいなまれる。だが着水先の近くに汽船が・・。
これは主人公ともいえるスチュワーデス以外の人にとっての「おのぞみの結末」となる。
「あの男この病気」
おれは熱っぽい。1年かけてある男を追っているが、そろそろ10か月目だ。おれは一年後に発病し死に至るウイルスを注射されている。もしある男を捕まえれば、その男が抗体を持っている訳だ。だが長いようで短い1年。おれの期限が迫り、絶望してやけを起こし、残る時間を快楽で過ごそうと思った。それには金がいる。男を追う資金は計画的に使っているため残りが殆どない。まずは強盗を働いて金を奪い・・・。
これは主人公の「おれ」にとってのおのぞみの結末につながる話。
「現実」
小さな会社勤務の青年が主人公。明子という美人に惚れていたが片思いだった。しかしある日、明子の夢を見て起きてみると明子が自分の妻となっていた。特許が当たり事務所に顔を出すだけで毎月定期的に収入が入って来る。満足のいく生活だったがそのうち飽きが来る。ある晩、秘密情報部員になった夢を見た。起きてみると自分は現実に秘密情報部員。そして敵に捕らえられた。飼い殺しの状態になり退屈し始めると、次は試験直前の学生になった夢を見た。・・こうして夢が現実になることを繰り返すが、最後は余命いくばくもない老人になっている。果たして最初は「小さな会社勤務の青年」は、この状況を脱出できるのだろうか。
ショートショートのなかに人間風刺を織り込んでいるものもある。「親しげな悪魔」と「要求」である。「親しげな悪魔は」、悪魔と出会い、金や女を自分の好きにできるようになった青年の話。青年は悪魔がどんな手段で自分の欲望を満たすか知り、絶望してすぐ魂を差し出した。しかし悪魔の最後のセリフに風刺が効いている。「要求」は宇宙人が地球に来て人間の思考をコントロールする装置の開発を要求する話。宇宙人は高精度ミサイルを持ち思いのまま都市や島を破壊できる。人類は脅しに屈して全世界の英知を集めその思考コントロール装置が完成した。全地球人が宇宙人の操り人形にされると思ったが、その宇宙人たちはその装置を地球を周回する衛星に取り付けて、立ち去った。残された人類の運命は・・。
いずれも人間の残酷さを皮肉った話である。星新一のショートショートは、あまり著者の考えみたいなものは登場しないと思うのだが、本書に限ればそうでもない珍しい作品が載っている。どんなに残酷な世界を描いても、文体のせいか会話のせいか穏やかで平和な印象を受ける星新一の作品だが著者は、案外、人間に厳しい目、性悪説の立場でみている感じがする。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:208
- ISBN:9784101098074
- 発売日:1976年03月01日
- 価格:420円
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