Yasuhiroさん
レビュアー:
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小鳥の小父さんと兄の絆が小川洋子らしい無名性を貫いた世界の中で語られていく。文中から聴こえてくるのは小鳥の囀りだけ、それが物足りない人のBGMには世界一美しいロックを奏でるシガー・ロスがいいかも。
先日まみむめもさんのレビューを読ませていただいて懐かしく思った一冊です。
小川洋子らしさに溢れた長編で、物語は倒叙的に小鳥の小父さんの孤独死の死後処理をしているところから始まります。誰の記憶にも曖昧なこの小父さんは、竹篭を抱いて亡くなっていました。その中には美しい声で囀る小鳥が一羽いて、警察官が不用意に開けてしまうと、天高く飛び立っていきます。
そしてそこから、この作品の無名性を象徴するような呼び方の「小鳥の小父さん」の生涯が綴られていきます。
この小父さんには兄がいました。兄も「兄」としか記載されず、徹底した無名性を小川洋子は貫いています。この兄弟だけでなく、両親の名前も土地の名前も出てきません。登場人物で名前の書いてある人はいません。固有名詞は兄が大好きな「ポーポー飴」、それを買いに行く「青空薬局」くらいのもの。ご丁寧にも日参するこの青空薬局の女主人の顔が曖昧で思い出せない、という文章も出てきます。一方で、名前を羅列しているのは小鳥たちや植物の種名。
この無名性がこの物語の最大の特徴で、いかにも小川洋子らしく、現実から一歩引いた、あるいは一歩越えているかもしれない世界を想像させることに成功していると思います。
兄は幼少の頃から小鳥のさえずりを聞くのが好きで、かつ無口で、ついには自分にしか分からない、かろうじて弟の小鳥の小父さんだけが概要を理解することができる言葉をしゃべり始めます。兄はその言語体系を徐々に発展させていき、おそらくは完璧な文法を構築して完成、それ以来その言葉の世界の中に兄は閉じこもってしまいます。(この言葉を小鳥の小父さんは「ポーポー語」と呼んでいます。言い得て妙。)
余計な事を言ってしまうと自閉症かなという見方もできますし、自分で言語体系を構築するというのは私の大好きなアイスランドのポストロック・バンド、シガー・ロスのボーカリスト、ヨンシーが駆使するホープランド語を思い出させます。そう言えばシガー・ロスの最高傑作と言われる「( )」というアルバムには全8曲タイトルがありません。無名性を貫いているところ、似ていますね。
兄さん、小鳥のさえずりのような美しい言葉を話すのなら、バンド組めば大成功したかも、てな下世話な事は小川洋子の世界では起こりません。そういうのは村上龍に任せておきましょう(^^;。
閑話休題、中盤で兄は亡くなってしまい、その後の小父さんの生活が淡々と語られていきます。ほのかな片思いもありますが、全体としてはやや重く展開が遅いのがちょっとつらいところですが、逆に言えば一節一節をかみしめるように大切に読んでいくことのできる作品であるとは思います。
そして最終盤、嫌々招かれたメジロの鳴き合わせ会において最後の盛り上がりを見せ、結末で冒頭に回帰するという締めくくり方には感嘆しました。
決して読んで面白く興奮する、という作品ではありませんが、心静かに少しずつかみしめるように読んでいくとその味わいがよくわかる作品です。小川洋子の世界を堪能したい人にはお勧めです。
小川洋子らしさに溢れた長編で、物語は倒叙的に小鳥の小父さんの孤独死の死後処理をしているところから始まります。誰の記憶にも曖昧なこの小父さんは、竹篭を抱いて亡くなっていました。その中には美しい声で囀る小鳥が一羽いて、警察官が不用意に開けてしまうと、天高く飛び立っていきます。
そしてそこから、この作品の無名性を象徴するような呼び方の「小鳥の小父さん」の生涯が綴られていきます。
この小父さんには兄がいました。兄も「兄」としか記載されず、徹底した無名性を小川洋子は貫いています。この兄弟だけでなく、両親の名前も土地の名前も出てきません。登場人物で名前の書いてある人はいません。固有名詞は兄が大好きな「ポーポー飴」、それを買いに行く「青空薬局」くらいのもの。ご丁寧にも日参するこの青空薬局の女主人の顔が曖昧で思い出せない、という文章も出てきます。一方で、名前を羅列しているのは小鳥たちや植物の種名。
この無名性がこの物語の最大の特徴で、いかにも小川洋子らしく、現実から一歩引いた、あるいは一歩越えているかもしれない世界を想像させることに成功していると思います。
兄は幼少の頃から小鳥のさえずりを聞くのが好きで、かつ無口で、ついには自分にしか分からない、かろうじて弟の小鳥の小父さんだけが概要を理解することができる言葉をしゃべり始めます。兄はその言語体系を徐々に発展させていき、おそらくは完璧な文法を構築して完成、それ以来その言葉の世界の中に兄は閉じこもってしまいます。(この言葉を小鳥の小父さんは「ポーポー語」と呼んでいます。言い得て妙。)
余計な事を言ってしまうと自閉症かなという見方もできますし、自分で言語体系を構築するというのは私の大好きなアイスランドのポストロック・バンド、シガー・ロスのボーカリスト、ヨンシーが駆使するホープランド語を思い出させます。そう言えばシガー・ロスの最高傑作と言われる「( )」というアルバムには全8曲タイトルがありません。無名性を貫いているところ、似ていますね。
兄さん、小鳥のさえずりのような美しい言葉を話すのなら、バンド組めば大成功したかも、てな下世話な事は小川洋子の世界では起こりません。そういうのは村上龍に任せておきましょう(^^;。
閑話休題、中盤で兄は亡くなってしまい、その後の小父さんの生活が淡々と語られていきます。ほのかな片思いもありますが、全体としてはやや重く展開が遅いのがちょっとつらいところですが、逆に言えば一節一節をかみしめるように大切に読んでいくことのできる作品であるとは思います。
そして最終盤、嫌々招かれたメジロの鳴き合わせ会において最後の盛り上がりを見せ、結末で冒頭に回帰するという締めくくり方には感嘆しました。
決して読んで面白く興奮する、という作品ではありませんが、心静かに少しずつかみしめるように読んでいくとその味わいがよくわかる作品です。小川洋子の世界を堪能したい人にはお勧めです。
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馬鹿馬鹿しくなったので退会しました。2021/10/8
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- 出版社:朝日新聞出版
- ページ数:312
- ISBN:9784022648037
- 発売日:2016年01月07日
- 価格:626円
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