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薄荷さん
薄荷
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この小説の素晴らしさを表現するには、どんな言葉を選べばいいのやら・・・。
人生で華々しく何かを成し遂げた!なんて実感しとことはないけど、この本をこうして静かに味わうことができる位には経験値を持ち合わせているんだから、今まで過ごしてきた日々はきっと無駄ではなかった・・・。
そんな確信を得られた事が、私にとって何よりの幸せです。

さて、題名にある「雪沼」とは、昭和の香りがまだ残る山間の小さな町の名です。
町営の小さなスキー場がある以外には観光客をよべるものはなく、少し大きめの川が流れる周囲に畑と雑木林、近くにはこじんまりした住宅街があって、隣町に大きなショッピングセンターが出来たからより一層寂れてきた商店街と、小さな町工場もなんとか操業してる・・・。
そんなどこにでもありそうな町で暮らす、どこにでもいそうな人たちが主人公の連作短編集です。

閉鎖する古いボウリング場の営業最後の夜におきた小さな出来事、
生涯独身だったお料理教室の先生が最期に呟いた謎の言葉、
商店街のレコード店主の音へのこだわりと仕事の喜び、
同商店街の中華料理の店主夫妻の築いてきた歴史、
書道教室の先生夫妻が亡くした子供の思い出とランプの明かり・・・

どこか懐かしい風景と美しい景色を背景として、それぞれの過去から今へ繋がる記憶と想いが、色や音・香り・味と一緒に丁寧に穏やかに描かれています。
世間的な視点で見ればささやかでありふれた出来事であっても、当事者個人の視点で見つめれば一生忘れない思い出であり、人生の分岐点となる大事件となります。
残酷でもあり優しくもある時の流れの中で、ふとそんな出来事を思い出して立ち止まって振り返り・・・また前を向いて歩いていく人の背中を、読者はただ見送るだけです。
そしてその背中は、自分の父であり、母であり、兄弟であり、友人知人であり、自分自身でもあるかもしれない・・・。
だからこそ切なく淋しく、酷く懐かしく、物語が心にふうわりと降り積もっていくのでしょう。

もしもこの本を若いころに読んだら、こんなに心に沁みなかったと確信してます。
子供のための本は子供の感性があるうちに読むべきなのと同様、大人のための本はある程度の経験を積んだ大人になってから読むのが、本を真に楽しむ秘訣と思い知りました。
そう考えると、大人になるのも歳をとるのも、なかなか悪くありません。

・・・というわけで、ある程度年齢がいった方(笑)は是非読んでください。
一気に読むのも良いですが、枕元に置いて寝る前に一晩一話ぽつんぽつんと読むと、より一層長くしっとり楽しめますよ。
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薄荷
薄荷 さん本が好き!1級(書評数:509 件)

10年前に読んだ本を再読してる最中だけど、内容がさっぱり思い出せず、ちょっと新鮮なのは楽しいけど自分が不安・・・。

読んで楽しい:12票
素晴らしい洞察:2票
参考になる:29票
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この書評へのコメント

  1. 薄荷2016-10-03 08:48

    BOOKPORT大崎ブライトタワー店さんの「例の棚」にこの本↓が並んでいるのを写真で発見し、うれしくなって頑張って本書のレビューをUPしてみましたが・・・自分の語彙の乏しさと表現力の未熟さにがっくりしてます(T_T)

    すごくすごく良い本なんです!ぜひぜひたくさんの方に読んでほしいんですぅぅぅ(T_T)

  2. teppei2016-10-03 10:05

    薄荷さん
    おっしゃりたいこと、とてもよくわかるなあと思って書評を拝読いたしました。
    堀江敏幸さん、いいですよね。ゆったりと静かに心に染み入ってきますものね。
    この作品、また読み返したくなりました。

  3. ikutti2016-10-03 10:46

    堀江さんの本って言葉で表現するのが難しいですよね。時空列が違うというか。再読してみようかな。

  4. ぱせり2016-10-03 11:33

    初めて読んだ堀江さんの本がこの本だったんです。そして今でも一番好きな本かも。
    そうか、そうか、わたしもこういう本が沁みる歳になってきたってことなんですね。しみじみ・・・(←何をいまさら^^)

  5. くりりん2016-10-03 11:34

    スゴイ語彙力ですね。オススメ読んでみます。

  6. かもめ通信2016-10-03 12:40

    なにその反則技?!てっきり直球勝負でフェア本「私的読食録」を推してくるのかと思いきや、薄荷さんったら外堀を埋める作戦できたのね!ww
    なんか、この本も売れそうだから、仕入れて貰うように言ってみる?ww
    っていうか、私、薄荷さんのお薦めで慌てて ↓ これを積んだのに、未だ手つかずで……
    (><)

  7. Kurara2016-10-03 20:48

    薄荷さん♪
    わーこれ今年のはじめに購入してました。なんかもったいなくてなかなか本を開かずにいました。やっぱり素敵な本だったのかぁ・・・。

    >大人のための本はある程度の経験を積んだ大人
     ↑大丈夫かな?わたしwwwもう少し修行を積んでから読もうかしら(-"-)

  8. 薄荷2016-10-03 22:42

    この本の良さを表現しきれないと落ち込んでいたのですが、コメントたくさんいただけて元気100倍です~!!(T_T)(感涙)
    ・・・って私のPCは何故「かんるい」って入れると最初に「缶類」って出てくるんでしょう?(笑)

    >teppeiさん
    わかると言っていただけてすごく嬉しいです!
    >ゆったりと静かに心に染み入ってきます・・・的確にして素敵な表現ですねぇ。
    うっとりします~(#^.^#)。

    >ikuttiさん
    そう!そうなんですよ!
    好きだし良い!って思っても、それを表現する言葉がわからないんですよ~(^_^;)

    >ぱせりさん
    おぉ!初堀江さんがこの本とは素敵です!
    今でも一番好きな本とは・・・(T_T)缶類・・・じゃなかった感涙です。
    歳のことは・・・まぁ、お互い様ということで・・・(笑)

  9. 薄荷2016-10-03 22:54

    >書店員くりりんさん
    私の貧しい語彙なんざお気になさらぬよう・・・でも、この本がおすすめなのは間違いないのですっ!ぜひぜひ、読んでくださいね~(^_^)/

    >かもめ通信さん
    >外堀・・・よっしゃー!埋めまくるぞー!(笑)
    これを機にぜひ多くの方に堀江さんを読んでいただきたくて張り切りました(^^)v
    もちろん「私的読食録」も一押しですとも!
    「王子駅」はいつ読んでもいい感じですので、時間があるときにのんびり読んでください。

    >Kuraraさん
    >なんかもったいなくて・・・わーかーるー! (≧∇≦)すごくわかりますとも!
    Kuraraさんなら修業は全然いりませんって(^^)v
    素敵な本なのは間違いないですので、少しずつ大事に読んでください。

  10. ikutti2016-10-04 12:17

    私の堀江初読本はこちら。
    一冊読んだら買うを続けていますがまだ4冊にとどまっています。
    >かもめ通信さん
    私も読み返すので一緒にアップしましょうw
    ※薄荷さんのコメント欄なのにスミマセン

  11. かもめ通信2016-10-04 13:04

    え?ikuttiさんと王子駅で待ち合わせ?!
    それは~読まないわけにはいかないかしらんw

  12. ちょわ2016-10-04 13:38

    堀江さん好きなもので、例のフェアでも15秒くらい悩んだ末にまんまと「私的読食録」も買ってしまいましたw

  13. かもめ通信2016-10-04 14:06

    15秒!!ww

  14. 薄荷2016-10-04 22:33

    >ikuttさん
    私も初・堀江さんは「王子駅」でしたっ!お仲間ですね!
    >1冊読んだら買う・・・なんと立派な心がけ(T_T)(感涙)もっぱら図書館で漁りまくっている自分が恥ずかしい・・・。

    そして、かもめ通信さんへのお誘い、グッジョブです( ^ー゜)b

    >かもめ通信さん
    さぁ!ikuttさんと手を取り合って「王子駅」へGO! ┌( ̄ー ̄)┘

    >ちょわさん
    おぉ!ここにも堀江さんスキーが!\(^o^)/
    まんまと(笑)最速お買い上げありがとうございます(@^∇^@)

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