はるほんさん
レビュアー:
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たった1つの小さな安堵を吐くために、自分はこの本を読んだのだろう。
直木賞受賞作。
この手の賞の評価が割れることはもうお約束なのだが(笑)、
初読の作家さんで、先入観なしに読めたのはよかった。
いびつな家庭に育った少女が、昭和から平成の時代と、犬を見つめた人生記。
主人公が馬車に揺られているくだりから、ストーリーは始まる。
今までずっと別居していた両親──、
シベリアで捕虜生活を送り、いつキレるか分からない父と、
そんな父を「アンタのお父さん」と呼び、理解しがたいシーンで主人公を嗤う母と
一緒に暮らすためだった。
家庭内には、喧嘩の会話すらない。
その所為なのか、少女は人に聞き取れないような声でしか、喋れない。
少女の傍に居るのは、犬だ。
と言っても、犬が喋ったり人語を解したりはしない。
父が勝手に飼った犬には、噛まれて大怪我すら負ってしまう。
そんな家庭環境の中で、父は何度も犬を飼う。
どんな大型犬も凶暴な犬も、不思議と父だけには首を垂れる。
さりとて父が「本当はいい人」と言う描写は皆無だ。
動物モノにありがちなファンタジーは一切なく、
少女の幼少時代はただ息苦しく紡がれていく。
これまた分かり易い話ではない。
一体この話のオトシドコロはどこなのだろうと思いながら、
淡々と読んでしまう。そんな感じ。
やがて少女は故郷を離れるが、
時代と土地を変えても、やはり彼女の行く先には必ず犬がいる。
分かりにくい話ではある。
ハッピーエンドという訳でもない。
けれど最後の下りで、ほ、と息をついてしまう。
60にもなった「少女」がみてきたものを
一緒に並んで見つめるような心持ちになる。
家や両親の影響というのは、かなり大きいと自分は感じる。
右の道を選びたいのに、足が勝手に左に進んでしまうような
呪縛にも似た重みが自身に宿る。
だが、それが不幸なのではない。
それに気付けないことが不幸なのだ。
いびつな両親は、それに気づかないで逝ってしまった。
けれど少女は、そのことに気づく。
ハッピーエンドという訳でもはない。
けれど、ほ、と息をついてしまう。
他の者にはどう見えようと、彼女は幸福に辿り着いたのだ。
少なくとも、犬はそれを理解した。
動物物語にありがちなファンタジーをつけなかったのは
ある意味、犬もまた時代の波を生きる者だからではなかろうか。
半野良から鎖に繋がれる生活へ。そして室内犬へ。
少女と一緒に、昭和を歩いてきた。
そして平成を歩いていく。
繰り返すが、感動巨編という訳ではない。
犬だけにわんわん泣ける話かと思うと(オヤヂか)、多分肩透かしを食う。
けれど多分、そうして大きな何かを求めると
人はなかなか幸福になれないのだ、と思う。
たった1つの小さな安堵を吐くために、自分はこの本を読んだのだろう。
それでよいと思った。
この手の賞の評価が割れることはもうお約束なのだが(笑)、
初読の作家さんで、先入観なしに読めたのはよかった。
いびつな家庭に育った少女が、昭和から平成の時代と、犬を見つめた人生記。
主人公が馬車に揺られているくだりから、ストーリーは始まる。
今までずっと別居していた両親──、
シベリアで捕虜生活を送り、いつキレるか分からない父と、
そんな父を「アンタのお父さん」と呼び、理解しがたいシーンで主人公を嗤う母と
一緒に暮らすためだった。
家庭内には、喧嘩の会話すらない。
その所為なのか、少女は人に聞き取れないような声でしか、喋れない。
少女の傍に居るのは、犬だ。
と言っても、犬が喋ったり人語を解したりはしない。
父が勝手に飼った犬には、噛まれて大怪我すら負ってしまう。
そんな家庭環境の中で、父は何度も犬を飼う。
どんな大型犬も凶暴な犬も、不思議と父だけには首を垂れる。
さりとて父が「本当はいい人」と言う描写は皆無だ。
動物モノにありがちなファンタジーは一切なく、
少女の幼少時代はただ息苦しく紡がれていく。
これまた分かり易い話ではない。
一体この話のオトシドコロはどこなのだろうと思いながら、
淡々と読んでしまう。そんな感じ。
やがて少女は故郷を離れるが、
時代と土地を変えても、やはり彼女の行く先には必ず犬がいる。
分かりにくい話ではある。
ハッピーエンドという訳でもない。
けれど最後の下りで、ほ、と息をついてしまう。
60にもなった「少女」がみてきたものを
一緒に並んで見つめるような心持ちになる。
家や両親の影響というのは、かなり大きいと自分は感じる。
右の道を選びたいのに、足が勝手に左に進んでしまうような
呪縛にも似た重みが自身に宿る。
だが、それが不幸なのではない。
それに気付けないことが不幸なのだ。
いびつな両親は、それに気づかないで逝ってしまった。
けれど少女は、そのことに気づく。
ハッピーエンドという訳でもはない。
けれど、ほ、と息をついてしまう。
他の者にはどう見えようと、彼女は幸福に辿り着いたのだ。
少なくとも、犬はそれを理解した。
動物物語にありがちなファンタジーをつけなかったのは
ある意味、犬もまた時代の波を生きる者だからではなかろうか。
半野良から鎖に繋がれる生活へ。そして室内犬へ。
少女と一緒に、昭和を歩いてきた。
そして平成を歩いていく。
繰り返すが、感動巨編という訳ではない。
犬だけにわんわん泣ける話かと思うと(オヤヂか)、多分肩透かしを食う。
けれど多分、そうして大きな何かを求めると
人はなかなか幸福になれないのだ、と思う。
たった1つの小さな安堵を吐くために、自分はこの本を読んだのだろう。
それでよいと思った。
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歴史・時代物・文学に傾きがちな読書層。
読んだ本を掘り下げている内に妙な場所に着地する評が多いですが
おおむね本人は真面目に書いてマス。
年中歴史・文豪・宗教ブーム。滋賀偏愛。
現在クマー、谷崎、怨霊、老人もブーム中
徳川家茂・平安時代・暗号・辞書編纂物語・電車旅行記等の本も探し中。
秋口に無職になる予定で、就活中。
なかなかこちらに来る時間が取れないっす…。
2018.8.21
この書評へのコメント
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- 出版社:幻冬舎
- ページ数:351
- ISBN:9784344424203
- 発売日:2015年12月04日
- 価格:648円
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