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有坂汀さん
有坂汀
レビュアー:
大化の改新から西南戦争にいたる戦いの歴史の中で生まれた首塚・胴塚・千人塚をめぐることによって「日本人は敗者とどう向きあってきたのか」を探る野心作です。「歴史は勝者によって作られる」事を再認識しました。
本書は総合研究大学院大学文化科学研究科博士課程修了。博士(文学)であり、専門は民俗学、近現代東アジア民俗思想史の筆者が大化の改新から西南戦争にいたるまでの戦いの中で殺され、葬られてきた夥しい者達を祀った「首塚」「胴塚」「千人塚」―。全国660ヵ所以上に確認できるそれらをめぐり、検証することで日本人は「敗者」とどのようにして向き合ってきたのかを検証するものです。

本書を読みながら僕の頭の中にふと思い浮かんだのは宮崎駿監督のアニメ映画『もののけ姫』のセリフ。
ジコ坊「そりゃそうだろう。そこらを見なさい。この前来たときはここにもそれなりの村があったのだが洪水か地すべりか…さぞたくさん死んだろうに戦さ、行きだおれ病に、飢え。人界はうらみをのんで死んだ亡者でひしめいとる。タタリというならこの世はタタリそのもの」
でした。

えてして歴史とは勝者によって作られることは古今東西、どこもさして大差は無いのかも知れませんが、日本ではとりわけそういった傾向が顕著で、古代の歴史では勝者にとって都合の悪いことは軒並み削除されているわけですが、時代が下るにしたがって「正史」には括り切れないようなことも散見するのだそうです。

読み進めていて、「首塚」や「千人塚」は想像がついたのですが、「胴塚」と言うものが最初、ピンと来なかったわけですが、古来、戦場では敵の首を切り落とす(場合によっては耳や鼻の事がある)ことが「業績」であったので「胴塚」は首から下。切り落とされた胴体を祀ったものであることを半分ほど読んで納得した次第です…。

余りに内容が重いので、3分の1程度読んだところで挫折し、1ヶ月ほど放っておいた跡に残りの3分の2をえいやっと一気に読んで感想を書いておりますが、キーボードを叩いている間も重いものが心の中にあるのです。

個人的に印象に残っているのは『桜田門外の変』で暗殺された幕末の大老。井伊直弼の最期とその首の行方。薩長同盟の立役者で明治維新の元勲の一人であったにもかかわらず、明治政府と対立して『西南戦争』で壮絶な最期を遂げた西郷隆盛。

西郷が切腹し、首を落とされたところまで走っていたのですが、その「後日談」が記されていたのは僕にとって大きな衝撃であり、
「こういうことだったのか…。」
と息を飲んだことを今でもありありと覚えております。

歴史には名前も記されないまま、野晒しになってしまった人間が無数に存在する…。本書で紹介された全国660ヵ所以上に確認できる首塚・胴塚・千人塚の数々はそのことを雄弁に僕に教えてくれたのでした。

※追記
本書は2022年1月21日、KADOKAWAより『日本の戦死塚 増補版 首塚・胴塚・千人塚 (角川ソフィア文庫)』として増補版の上文庫化されました。
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有坂汀
有坂汀 さん本が好き!1級(書評数:2673 件)

有坂汀です。偶然立ち寄ったので始めてみることにしました。ここでは私が現在メインで運営しているブログ『誇りを失った豚は、喰われるしかない。』であげた書評をさらにアレンジしてアップしております。

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この書評へのコメント

  1. 祐太郎2016-02-24 19:53

    分かります。この本途中で嫌になりますよね。

  2. 有坂汀2016-02-25 13:56

    >祐太郎さま
    コメントありがとうございます。

    内容の陰鬱さもあいまって、ですね。コレは読んだ人間にしかわかりませんね。おそらく。

  3. No Image

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