かもめ通信さん
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意外なことに星新一はおしゃべりだった?!
ご存じ「かぐや姫」の物語。
星新一による現代語訳だ。
ご本人が書いた「解説」によれば、吉行淳之介訳の 『好色一代男』を参考にしたそうだ。
この本で吉行は訳文とは別に「訳者覚書」を付け加えていて、その部分が面白かったのだという。
ただ単に現代語になおしただけではつまらないし、なまじ現代でもつうじそうな用語には、迷わされやすい。
そういうわけで星は、訳文の合間に「ちょっと、ひと息」とあれこれ話題をふることにしたようだ。
そうしてふられた話題はというと、“竹とは、目の付け所がいいねえ”と、竹をめぐるうんちくだったり、“この人、いったいどんな心境だったんだろうねえ。”とか“やれやれこの皇子もだめだったか”といったつぶやきだったりするのだが、いっけんしようもないつぶやきのようでいて、物語の構成について核心を突いた解説をしていたりするから油断がならない。
巻末には原文も掲載されていて、これ一冊で読み比べもできるというすぐれものなのだが、今回はちょっと欲張って こちらの本の森見登美彦訳とも読み比べてみた。
いずれも物語の冒頭の部分だ。
この冒頭部分だけでもわかるように、意外なことに、ショートショートでならした星新一は思いの外おしゃべりで、のべつ幕なしおしゃべりをしているイメージのあるモリミーはすっきり簡潔正統派だった。
もう一つこれも意外だったのは、「天の羽衣」の果たす役割。
てっきり昇天のためのアイテムかと思いきや、かぐや姫の未練を断ち切る“心変わり”作用を持った衣だったのだ。
かぐや姫は羽衣を羽織ることで天上の暮らしにふさわしい憂いなき心になる。
物思いにふけることのない世界が、本当に幸せなのかどうかはまた別の話ではあるけれど……。
********
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※この本は9月に開催した#棚マル応援オフ会でDBさんからお譲りいただいた本です。
DBさんのレビューはこちらです。
星新一による現代語訳だ。
ご本人が書いた「解説」によれば、吉行淳之介訳の 『好色一代男』を参考にしたそうだ。
この本で吉行は訳文とは別に「訳者覚書」を付け加えていて、その部分が面白かったのだという。
ただ単に現代語になおしただけではつまらないし、なまじ現代でもつうじそうな用語には、迷わされやすい。
そういうわけで星は、訳文の合間に「ちょっと、ひと息」とあれこれ話題をふることにしたようだ。
そうしてふられた話題はというと、“竹とは、目の付け所がいいねえ”と、竹をめぐるうんちくだったり、“この人、いったいどんな心境だったんだろうねえ。”とか“やれやれこの皇子もだめだったか”といったつぶやきだったりするのだが、いっけんしようもないつぶやきのようでいて、物語の構成について核心を突いた解説をしていたりするから油断がならない。
巻末には原文も掲載されていて、これ一冊で読み比べもできるというすぐれものなのだが、今回はちょっと欲張って こちらの本の森見登美彦訳とも読み比べてみた。
いずれも物語の冒頭の部分だ。
今は昔、竹取の翁といふもの有りけり。野山にまじりて、竹を取りつつ、よろづの事につかひけり。名をば讃岐の造麻呂となむいひける。その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。あやしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうて居たり。翁いふやう、「われ朝毎夕毎に見る竹の中におはするにて知りぬ。子になり給ふべき人なめり』とて、手にうち入れて家へ持ちて来ぬ。妻の嫗に預けて養はす。
(本書:巻末収録の原文)
むかし、竹取りじいさんと呼ばれる人がいた。名はミヤツコ。時には、讃岐の造麻呂と、もっともらしく名乗ったりする。
野や山に出かけて、竹を取ってきて、さまざまな品を作る。
笠、竿、笊、籠、筆、箱、筒、箸。
筍は料理用。そのほか、すだれ、ふるい、かんざし、どれも竹カンムリの字だ。
自分でも作り、職人たちに売ることもある。竹については、くわしいのだ。
ある日、竹の林のなかで、1本の光るのをみつけた。ふしぎなことだと、そばに寄ってよく見ると、竹の筒のなかに明るいものがあるらしい。
その部分を、ていねいに割ってみる。手なれた仕事だ。なかには、手のひらに乗るような小さな女の子が、すわっていた。まことに、かわいらしい。
じいさんは、つぶやいた。
「竹とは、長いつきあいだ。高いとこ、滝のちかく、たくさんの竹、指にタコ。竹はわたし、わたしは竹。うちの子にしてもいいと思う」
両方の手のひらで包むようにして、家に連れて帰った。妻のおばあさんに、わけを話して育てさせた。
(本書:星新一訳)
今となっては昔の話だが、かつて竹取の翁という者があった。毎日野山に分け入って竹を刈っては、さまざまなものをこしらえて暮らしを立てていた。
その名を讃岐の造という。
ある日のこと、いつものように竹を刈っていると、根もとがボンヤリと光る竹を一本見つけた。不思議に思って近づいてみると、その光は竹筒の中から射している。覗いてみれば、背丈が三寸ほどの小さな人がちょこんと座っているのだった。
あまりの不思議に感無量となって、翁は思わず呟いた。
「朝夕見てまわる竹の中にいらっしゃるなんて、こうして出会ったのも何かの御縁。我が子になるべき運命の人にちがいない」
翁はその小さな人をそっと手のひらにのせて家へ持ち帰り、妻の媼にまかせて養わせることにした。 (河出書房新社:森見登美彦)
この冒頭部分だけでもわかるように、意外なことに、ショートショートでならした星新一は思いの外おしゃべりで、のべつ幕なしおしゃべりをしているイメージのあるモリミーはすっきり簡潔正統派だった。
もう一つこれも意外だったのは、「天の羽衣」の果たす役割。
てっきり昇天のためのアイテムかと思いきや、かぐや姫の未練を断ち切る“心変わり”作用を持った衣だったのだ。
かぐや姫は羽衣を羽織ることで天上の暮らしにふさわしい憂いなき心になる。
物思いにふけることのない世界が、本当に幸せなのかどうかはまた別の話ではあるけれど……。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:角川グループパブリッシング
- ページ数:188
- ISBN:9784041303252
- 発売日:2008年07月25日
- 価格:460円
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