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トンボ玉
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未解決事件の特別捜査官として故郷に帰ってきたイワン・カラマーゾフ、真犯人は異母弟スメルジャコフの他に必ずいる、と再捜査が開始されるや否や、第二の殺人が起こる。ゴシップ記者のラキーチンが撲殺されたのだ。
この著者・高野史緒は以前東・中欧のSF作品を集めた「時間はまってくれない」の編者でした。各作品を紹介する文章が印象的でいつか彼女の本を読もうと思っていました。残念ながら本編の方は読みきれなくレビューは挙げれませんでしたが。
そもそも「カラマーゾフの兄弟」を読んでいないのですが(!)、そんな事は関係ありません。高野はそんな読者が多い事は分かっているし、高野のことですから十分に配慮しているはずです。(キッパリ!)

巻頭の著者よりで「今から百三十年ほど前、ある作家が、アレクセイ・カラマーゾフの一代記として二部からなる長大な小説を計画した。彼は第一部でカラマーゾフ家の父殺し事件までを描き、第二部でその十三年後を描くつもりだったのだが、不幸なことに、それは彼の死によって実現しなかった」とある。そして多くの作家が、続編を考えたと思われるが、誰も書かなかったのは前任者が偉大すぎたから臆したのだというのです。でも高野は敢然とのたまいます、わたしは名作と同等のものを書こうとはサラサラ思っちゃいねぇと(気持ちを言ってます!実際は丁寧にですよ)。わたしが第二部を書こうと思ったきっかけは「ある重大な事実」を発見したからなのだと。面白い!乗ろうと思います。

さて、「カラマーゾフ事件」があったのは1874年8月末だった、とその筋を細かく書いてると、とても字数が足りないのでやめるとして、ホントに簡単に書くと、フョードル(・カラマーゾフ)という女たらしで教養はないけど財産を蓄える才覚のある零細地主がいました。二人の妻はとうに亡くなっています。彼にはドミートリー(ミーチャ)、イワン、アレクセイ(アリョーシャ)という三人の息子がいましたが、すべて養子に出していて当時フョードルは一人で住んでました。実はフョードルにはもう一人息子がいます。正式な妻の子供でなく街中を徘徊する女・リザヴェータの間に生まれたスメルジャコフ。母親はスメルジャコフを産んですぐ亡くなったので、カラマーゾフ家の下男の家に引き取らせ育てられていた。

ある年の夏の日、それぞれの理由で三人の兄弟+1が父親の元に集まったのです。運命はその時を逃さず、フョードルは自宅で撲殺されます。犯人として逮捕されたのが長男ドミートリー。裁判で有罪となりシベリアの鉱山で二十年の刑が下りますが、この裁判ではイワンが錯乱状態になり、真犯人は自分で、スメルジャコフはその手先だとわめき問題を混乱させる。結局、ドミートリーはシベリアに送られますが、イワンの減刑の嘆願で十三年になり、しかし九年後落盤事故で命を落とす。

この事件の十三年後として「カラマーゾフの妹」の物語が始まります。三男アレクセイは修道院を去り、今は地元に戻って教師の仕事をしていて、その「天使的な」性質で人々を魅了しているこの小説の主人公。次男イワンは事件後、内務省に入り凶悪事件の捜査で頭角を現すだけでなく、犯罪心理などの研究を独自に行ってきた。今回、内務省モスクワ支局未解決事件課特別捜査官として事件後初めて地元に帰ってきた。あと主な登場人物にイワンの捜査に加わる心理学者トロヤノフスキー、ゴシップ記者のラキーチン、フョードルとドミートリー(長男)の二人に惚れられ事件の元凶となった女・グルーシェニカ。主人公アリョーシャの妻で心理的問題を抱えるリーザ。香料メーカー「クラソートキン社」の社主ニコライ(コーリャ)などがいる。

物語はイワンとトロヤノフスキーの捜索とアリョーシャとコーリャの話を軸に進むのですが、高野は「バベッジの計算機械」の章で、〝前任者〟の第二部の意図を書いています。『第一部で最大の問題点は「長大であること」だ。しかも、事件に関わりのあることならまだしも、直接関わってくることのない、アリョーシャと子供たちとの交流の場面が延々と描かれる。〜それにしても不自然に長く、細かすぎるのだ。〜この構成の答えは、彼の発言や創作メモにあるのである。前任者はこの第二の小説の仮題を「子供たち」としており、この少年たちの十三年後を物語の重要な核とするつもりであったらしい。第二の小説の一つ目の核がアリョーシャであるなら、二つ目の核はコーリャとなるということだ。そして前任者の生前すでに、第二の小説はアリョーシャが革命家となって皇帝暗殺に手を染める物語だと噂されていたのだ。〜もしも我が前任者が長生きしたとしても、あの時代、皇帝暗殺の小説など書くことはできなかったに違いない。そうであるならなおさら、我々は今こそ、十三年後の出来事、第二の物語を明らかにしなければならないのだ。』

グルーシェニカの手引きでアリョーシャは革命の指導者となった「クラソートキン社」の社主でもあるコーリャ会うこととなるのです。一方、イワンはトロヤノフスキーとの会話の途中、思わぬ姿を晒してしまう。(以下略)

「カラマーゾフの兄弟」の中で〝錯乱をしたイワン〟をどう理解するのかという問題はあるんだろうと思います。高野はトロヤノフスキーという貴族であり心理学者の力を借りてイワンの〝錯乱〟の中に入っていき、物語が破綻しないギリギリを描いたのかもしれません。ただ収束に向かう「最後の事件、そして最後の解答」章が自分には突発的な感じを受けて未消化でしたね。
チャールズ・バベッジが階差機関と読んだ機械の記述やそのことへのコーリャの考察や語りは面白い。心理学者トロヤノフスキーがイワンを分析していく部分も面白いし、アリョーシャの妻・リーザやその友達リーナへのトロヤノフスキーの分析も面白い。面白いだけに更に広げればいいのに突然のようにまとめに入ってしまったようで不満が残りました。

巻末に高野史緒、沼野充義、亀山郁夫の鼎談が載っています。これも面白いですが、ここで亀山が高野の「カラマーゾフの妹」を褒めています。「兄弟」を自分のものと思っていたのに高野に全部持っていかれるのではないかという恐怖を感じたと。高野はカラマーゾフの兄弟・第二部の書き始めは原稿用紙1500枚ぐらいの想定だったとしています。しかし、2011年の東日本大震災で感じるところがあり、プロも応募できる江戸川乱歩賞に挑戦しようと考えた。それで江戸川乱歩賞の原稿枚数の規定〜原稿用紙350~500枚〜に合わせて縮小したと書いてるので、終盤の慌ただしさはそのせいかもしれません。私は高野がいう〝前任者が描いたフョードルの殺害姿への疑問〟には納得してません。殺害姿などに常識なんか当てはめることは出来ませんから。ただ物語は予想以上に面白かったです。ヘェ〜「カラマーゾフの兄弟」って、こんな物語なんだという新鮮な感じも受けました。亀山郁夫も「新カラマーゾフの兄弟」を出してるようですから、そっちも読みたいし、本来のカラマーゾフの兄弟も読みたくなりました。






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トンボ玉
トンボ玉 さん本が好き!1級(書評数:203 件)

2009年10月から母の介護に関わってきましたが、四月末に母は旅立ちました。暫くはレビューを挙げるのを控えたいと思います。喪に服するというよりも六年以上に渡って内向きに生きてきたので、読書数を減らして運動したりアルバイトでもいいから仕事してそれらに没頭したくなりました。いずれまた参加させていただきます。
2016.5.4(2014.8.10初投稿)
⭐️5・・・買って手元に置いときたい。刺激受けました。
⭐️4・・・読んで良かった。読書の喜びを感じる。
⭐️3・・・ウン、なるほど。参考になりました。
⭐️2・・・感心しません。最後まで読み続けるのを悩む。
⭐️1・・・読めません。基本的にレビューしません。

読んで楽しい:11票
参考になる:16票
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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2015-11-23 13:23

    これ文庫になったんですね。
    単行本の方にもいろんな意見がとびかうユニークレビューが並んでいますのでよかったらどうぞw
    http://www.honzuki.jp/book/198168/

    そうそう亀山センセ、書かれたんですよねえ。『新カラマーゾフの兄弟』!
    私も怖いもの見たさで読んでみたい気もしないでも……
    (いやいやキミはやめておきなさい!との声がどこからかする様な気もww
    自分では買いそうにないけれど献本にあったら絶対応募するんですけどねえ。
    中の人、獲ってきてくれないかしら?ww

  2. トンボ玉2015-11-03 13:35

    単行本の方のレビュー読みました、かもめ通信さんに言われてw。文庫本での登録しか見てなかったから、まだ誰もレビューしてないんだって思ってました。そうか〜かもめ通信さんはこの本はあまり高い評価してないんですね。本家を読んでいるわけですからね。比較する基準みたいなのがあるから、それとの比較を考えると軽くは見えるでしょうね。イワン、アリョーシャはあんな人ではないんですね?自分は逆に安心しましたけどね。イワンがどういう人かあまり分かりませんでしたから。それと妹なんかも登場させる意味合いが分かりませんでした。トロヤノフスキーの分析もありきたりでそんなに深さは感じてはいませんので。ただ基本的に真面目な感じがあったので、好意的に受け止めて読んでました。実際、物語として面白かったですしね。亀山の高野への高評価はもしかするとヨイショしているんですねw。新カラを読むか、本編を先に読むか、考えますね〜。

  3. かもめ通信2015-11-03 13:51

    あ、いえいえ、トンボ玉さんの感想を否定するつもりも、この本の面白さを評価するつもりもないんですよ。
    私の場合は特に学生時代に読んだカラマーゾフを再読して、翻訳比べレビューを書いたりとどっぷり浸った余韻がさめやらない時期に読んだので、私の想像する続きとは違うっ!的な思いがどうしても強くなってしまったのだと思うのです。

    その意味では、この作品を純粋に楽しむためには、この本から読んで正解だったのかも知れません。
    ここから本家へ移ったら、トンボ玉さんがどんな感想を持たれるのか、ぜひとも聞いてみたい気もww

    ちなみに私は、亀山センセがこの作品を高く評価していると聞いてすごく納得します。

  4. トンボ玉2015-11-03 15:49

    さっきbook offに行って、「原卓也訳カラマーゾフの兄弟」買ってきました。これまで読もうって気持ちはまるでなかったのですがこの高野さんの本で読みたくなりました。亀山訳もあったけど、まずは長らくあった訳からと思って。高野さんの本はとりあえず頭から消して取り組みたいと思います。

  5. No Image

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