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かもめ通信
レビュアー:
もしも自宅に難民を受け入れることになったとしたら……と、考えてみたことはありますか?
アメリカのフィンチ家の居間には12人が集まって会議を開いていた。
両親が教会の活動に熱心に取り組んでいるこの家で会合がもたれるのは、決して珍しい事ではなかったが、高校生の自分や中学生の妹モプシーまでもが同席させられたことをジャレットはいぶかしく思っていた。
しかも両親は、ジャレットの視線を避けている様だった。

そうして始まった会合で聞かされたのは、教会がアフリカから一家族の難民を呼び寄せることを決めたこと、まもなくその家族が到着するというのに、彼らを住まわせるはずだったアパートが借りられなくなってしまったこと、新たな住居が見つかるまで、アフリカから来る一家4人がフィンチ家に住むことになるということだった。

冗談じゃない!難民だかなんだか知らないが、自分の部屋で見知らぬ他人と同居しろって?!
ジャレットの抗議の声は黙殺され、アフリカからやってきた両親と息子と娘が一人ずつのアマボ一家との奇妙な同居生活が始まるのだった。

だがこのとき、ジャレットもフィンチ家の面々も、アフリカから飛行機に乗ったのは、4人ではなく5人だったことを知るよしもなかった。

両手をなくした父親、何事にも積極的で1日も早くアメリカでの生活になじもうと努力する母親、訛りの強い両親とは違って完璧なイギリス英語を話す息子のマトゥ、ひとことも口をきかない娘のアレイク。

ジャレットがみたところ、それぞれが似ても似つかないアマボ一家の共通点とはいえば、4人が4人とも暗闇を極端に恐れ、来訪者を警戒するということだけのようですらあった。
もっともそうした反応は、当人達が語りたがらない、アフリカでの恐ろしい体験の数々に原因があったのかもしれないが。

アマボ一家をアメリカでの生活になじませようと、フィンチ家の母親は精力的に活動するが、子どもたち同士、密に接する機会が多いジャレットや妹のモプシーが抱きはじめた疑問に気づいている様子はなかった。

なぜアレイクはしゃべらないのか?
そしてなぜ彼女の両親も兄もアレイクに話しかけようともしないのか?
この人達は本当に家族なのか?
彼らは何におびえているのか?
アフリカの地で彼らになにがおこったのか?
彼らがアメリカに来た目的はなんなのだろうか?

もうひとつ、ジャレットたちは知らないが、読者には大きな気がかりが。
いったいあの5人目の男の正体は?

ページをめくるたびに読み手の想像は膨らみ、恐怖は増していく。

ひと言も口をきかずに心を閉ざしていたアレイクがようやく心を開き始めたその時に、子どもたちを恐怖が襲う。

それはアメリカでの快適な暮らしの中で、マトゥが忘れかけてしまった恐怖であり、ジャレッドの感じていた“得体の知れない”恐怖でもあった。


心の闇、家族の闇、社会の闇が見え隠れし、スリリングにミステリアスにあれこれと読者の想像を掻き立てるところにこの作品の面白さはある。
扱っているテーマは重いが決して重苦しくはなく、全編を通じて様々な発見に満ちた明るい雰囲気に満ちてさえいる。

こんな素晴らしい作品をYA世代に独占させるのはもったいない!お薦めです。

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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2233 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2015-11-03 19:26

    この作品も人気翻訳家の金原瑞人さんがお仲間と共にお薦めの海外文学や翻訳物の面白さを紹介するために創刊された小冊子「BOOKMARK」で取り上げられていた作品です。
    http://kanehara.jp/bookmark/

  2. No Image

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