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hackerさん
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都築道夫が「私の考えでは、アームチェア・ディテクティブ・ストーリイのもっとも理想的なものは、ジェイムズ・ヤフィー(ヤッフェ)のママ・シリーズだ」と絶賛しただけのことはある連作短編集です。
「ニューヨーク市警殺人課に配属されてから足かけ5年になるが、いまもって、いつか、だれかがわたしの秘密をかぎつけるのではないかと考えるたびに背筋がぞくぞくする―ことに、わたしが解決した事件の大半は、実は私の母が解いたのだという秘密を」(本書収録『ママは賭ける』より)

rodolfo1さんの書評がきっかけで、本書を手に取りました。感謝いたします。

主人公デイヴィッドは、妻シャーリイと一緒に、毎週金曜日にブロンクスに一人で住む未亡人のママ(名前は与えられていません)の手料理で、夕食をすることを習慣としていました。その席は、ママとシャーリイが静かに火花(これが作品全体の良いスパイスになっています)を散らす場でもあり、そうなってくると話題をそらそうとして、主人公は最近扱った事件の話を持ち出すのですが、それをじっと聞いていたママは、いくつか突拍子もない質問をしてから、事件をあざやかに解いてみせる、というのが、この連作短編集のパターンです。

謎解きそのものも、あざやかなのですが、それ以上にママのする突拍子もない質問というのが面白く、二つだけ例を挙げます。

「(毒殺された)グラディがね。いいかい。ヌードル・スープのあとに注文したのはなんだった?」
「それがどうしたの、ママ?」
「ヌードル・スープのあとに、なにを注文したの?こんな簡単明瞭な英語がわからないの?」
「スープのあとに注文したものが、事件とどんなかかわりがあるのか教えていただけませんか、ママ。どっちみち、彼は食べなかったんだ。毒の入っていたのはヌードル・スープで...」(『ママは賭ける』より)

「あの近くの映画館で、殺人のあった晩に『風と共に去りぬ』をやっていたところはあるかしら?」(『ママは祈る』より)

また、現場の検分や新聞記事から情報一切なし、つまり一切の先入観なしで、息子(その上司の時もあります)の話だけ聞いて、犯人やトリックをズバリ指摘することが、都築道夫をして「アームチェア・ディテクティブ・ストーリイのもっとも理想的なもの」と言わしめたのだろうと思います。法月綸太郎による解説では、バロネス・オルツィの『隅の老人』からの影響について触れてありますが、そちらの方では、やはり名前の与えられていない「隅の老人」がアームチェア・ディテクティブを務めるのですが、新聞を読んだり、裁判の場に自ら出かけていったりしているところが違います。収録作で、謎解きの鮮やかさという点では『ママは何でも知っている』『ママは賭ける』を挙げておきます。

そして、もう一つ、それ以上に印象的なのは、ママの推理の背景には、自らの人生経験を反映した人間洞察があり、それが犯人の行動や動機に対してだけでなく、被害者や被疑者の行動の解明にも反映していることです。収録作で、この特徴が良く出たのが『ママは賭ける』『ママの春』『ママが泣いた』『ママは祈る』『ママは覚えている』になります。この点が、このママの人間くささが、実は謎解き以上に、このシリーズの魅力となっているのです。


本書には、1952年から68年にかけてEQMMで発表された、こんな「ブロンクスのママ」が活躍する連作短篇が8作収録されています。作者のジェイムズ・ヤッフェ(1927-2017)は、シカゴ生まれのユダヤ系出身者で、本書のママも話の端々からユダヤ人であることが分かるようになっています。作者がEQMMに処女短篇を発表したのは、なんと15歳とのことですから、早熟な作家であったことが分かります。ただ、Wikipedia には英語版が登録されていなくて、日仏伊の三か国語の登録だけであることから、本国での評価は現在はあまり高くないのかもしれません。ただ、個人的には気に入ったので、1980年代に、ママの活躍の場をニューヨークからコロラド州の架空の都市メサグランデに変え、長編として復活した「メサグランデのママ」シリーズも読んでみようと思います。
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hacker
hacker さん本が好き!1級(書評数:2282 件)

「本職」は、本というより映画です。

本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。

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