容赦なく刺され殴られ顔を見ただけでは、外国人か中国人か見分けがつかないほどだったが、金色の髪と白い肌から人種がわかった。
さらに状況を確認しようと服の下を確認すると、胸骨全体が切り取られ肋骨が総て折られて、体腔がむき出しになっており、強烈な匂いを放っていたにもかかかわらずほとんど血がなく、さらに驚いたことに心臓がむしり取られていた。
あまりにも凄惨な遺体の描写に思わず顔をしかめたが、実はこれ、実際に起きた事件なのだ。
やがて遺体の身元は、北京在住の元英国領事ワーナーの養女パメラだとわかり、捜査は、北京警察局のハン警視正とスコットランドヤード出身の英国租界の警察機関に所属するデニス警部の共同作業という形で進められることになる。
プラチナ製でダイアモンドが埋め込まれている高価な腕時計をしていたから、物取りの犯行とは思われなかったし、遺体の状況から、被害者に恨みを持つ者の犯行かもしれなかった。
だが多くの人種が入り乱れ、利権と覇権、様々な人々の思惑がぶつかり合い、さらには日本軍が迫りくる混沌たる当時の北京にあって、捜査は難航し、暗礁に乗り上げる。
真相に迫りながらも捜査は打ち切りになり、事件は迷宮入りとして処理されたが、被害者の養父ワーナーはなんとしても犯人を突き止めようと独自に探索をすすめ、その進捗を英国外務省に送り続けていた。
数十年の時を経て、中国現代史を専門とするアメリカ人の著者が、公文書の間に埋もれていたその手紙の存在をしり、中国と英国の双方にまたがって膨大な資料にあたってこの本を完成させた。
あしかけ70数年の歳月を経て、事件の真相に迫る本書は、混沌とした当時の世相を背景にスリリングに展開するミステリだ。
同時に、盧溝橋事件直前の不穏な空気をふくめ、治外法権を盾に我が物顔で闊歩する裕福な欧米人に貧困にあえぐ亡命ロシア人、売春婦に蔓延する阿片など、雑多な人々が混じり合う外国人社会の刹那的な享楽と頽廃、抑圧される中国人など、背景に描かれる北京の街の姿は、間違いなく物語のもう一つの主役だといえるだろう。
巻頭に収録されている地図で、主要な舞台となる“モリスン・ストリート”が“王府井(ワンフーチン)”のことであることに気づく。
そうこの物語は欧米からみた中国近代史でもある。
日本軍が中国でいったいなにをしたか。
欧米の歴史観が垣間見られるという点でも興味深い。
※ 祝#やまねこ20周年記念読書会参加レビューです。




本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
この書評へのコメント
- かもめ通信2017-11-30 06:22
2ヶ月にわたり開催してきた祝#やまねこ20周年記念読書会も本日が最終日!
長らくおつきあいくださった皆様!ありがとうございました!
おかげさまで現在、参加者34名、参加レビューは149本になりました。
「まだこれ挙げていなかった!」という方!お忘れなきよう今日中にご参加ください!
心よりお待ちしております!!
http://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no301/index.html?latest=20
尚、やまねこ翻訳クラブは10月に結成されたのだそうで、#やまねこ20周年のハッシュタグは、来年の秋まで有効とのこと。
読書会終了後もお使いいただけます。
関連レビューを挙げられた方はぜひ、Twitterなどでやまねこ会員の皆様にご報告ください。
きっと喜ばれると思いますので。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - かもめ通信2017-11-30 19:10
BUNさん&vesさん!
お二人が積極的に参加してくださったからこその盛り上がりです!
本当にありがとうございました!
西崎憲さんのツイートで「設立時に訳書を出していたのが2人、いまは会員の半数の50人が刊行」されていると知り、改めてみなさんすごいなあ!と。
でもこれだけ沢山の訳書があるとやっぱりお仲間同士でも、知らない本や積んだままの本、出てきますよね!
私たちのレビューで、やまねこの皆さんにも読みたくなってもらえたなら、こんなにうれしいことはありません。
読書会は今日までですが、これからもぜひ、素敵な訳書をご紹介ください!
そしてまたぜひ、私たちのレビューものぞきにいらしてくださいね!クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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