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Wings to fly
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敗戦直後の日本政府は、まず進駐軍の兵士のために売春施設を用意した。敗戦後の厳しい現実を生き抜いた女性たちの物語。
進駐軍の日本上陸と同時に、RAAは開業した。RAAとは、レクリエーション&アミューズメント・アソシエーションの略称である。政府が民間に委託した「特殊施設慰安協会」の求人に応募した中には、住む場所も家族もない、家族を養う術のない、素人女性が半分以上いた。彼女らは、進駐軍の兵士から日本婦女子の純血を守るための「防波堤」になれと言われた。

語り手は14歳の少女である。鈴子は裕福な大家族の中で育ったが、戦争が終わった時に生き残ったのは母とふたりだけ。英語力のある母はRAAの通訳になる。描かれるのは鈴子の目から見た慰安施設で、生臭い描写は一切ないのに空気感だけはひしひしと伝わってくる。

夫は事故死、幼い末っ子を失い息子たちは戦死し、大空襲で家も失った。「もう懲り懲りなのよ。」と、力に惹かれ進駐軍中佐の恋人になってしまう母。美しい顔の片側に深い傷跡のある、心優しく芯の強いモトさん。登場する女性たちに深みがあり、ここに至るまでの人生を想像させて存在感がある。500ページを超える長編だが、非常な吸引力でページをめくらせる所以であろう。何としても生きてゆこうとする女たちの逞しさが作中に脈打っている。

性病の蔓延を理由に慰安所は突然閉ざされ、慰安婦は明日の保証もなく町へ放り出される。「このパンパンどもが!」という男たちの罵声を浴びた時、悲痛な声が響きわたる。
「戦争中は『産めよふやせよ』で、戦争に負けた途端に、今度は同じまたを白人どもに差し出せとは、何ていう節操のなさなんだっ!それで平気なのか!見ていやがれ、この国を駄目にした男ども!女のひとりも守れないで、何が日本男児だ、大和男子だ、馬鹿野郎っ!」

誰も語りたがらない過去を取材するには、大変なご苦労があったことと拝察する。ダンサーの啖呵は作者の叫びに思えてならない。戦争が終わっても生きるための戦いは終わらなかった。今日のご飯を稼ぐために、命を明日へ繋ぐために。太平洋戦争に翻弄された女性たちの悲しみを、見事に掬いあげた感動作である。

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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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