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星落秋風五丈原
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働く女性はやっぱり悩む ローリングトゥエンティーズも現代も
 広告代理店に勤務するコピーライターのルイーズ・グッドマンは幼馴染で親友のエヴィー・アシュトンとフラットを共有して住んでいた。ルイーズはエヴィーに特定の恋人がいる事を知っていたが、恋愛は個人的な問題だと考えているから。お互いにプライバシーを侵さない(p67)という不文律のもと、敢えて知ろうとはしなかった。ところがある夏、一人で残っていたエヴィーが何者かに撲殺される。

 広告会社のコピーライターでアパート住まいの女性が殺された事件を扱った『ローラ殺人事件』の著者、ヴェラ・キャスパリが、今度は同じ設定を語り手で主人公のルイーズにシフトし、彼女と共にRolling Twentiesを謳歌した魅力的な友人エヴィーを被害者に据えた。このため、エヴィーを殺した犯人及び恋人の正体を探るサスペンスの要素はあるものの、メインとなるのはそれらの疑惑が明かされた事により揺れ動くルイーズの心情となる。

 物語の舞台が設定されているのは1920年代だが、彼女が置かれている状況は、現代日本と驚く程よく似ている。ワーキングガールという言葉の前に貧しい(poor)という形容詞を置く人はもういない仕事を持ち、選挙権を獲得し、男性と平等の権利を手に入れて自立した。わたしたちのライフスタイルの変容でいちばん重要なポイントは、自由に使えるお金をもつことができたこと(p30)。だが一方で、旧弊な考え方が支配する男社会ならではの苦労もする。才能があっても、「若い女性」であるだけで、他社から不採用を宣言されたり、社内でのやっかみにも悩まされる。そんなルイーズの密かな慰めは、恋する上司とのロマンス小説的な展開を空想する事。一方で彼女の友人エヴィーは、自分の才能に執着もせず、恋愛至上主義を貫く。二人の後塵を拝するような形で登場するのが、田舎から出てきた新聞記者志望のミッジ。エヴィーの事件を契機にして成功の階段を登ってゆくミッジと、思ってもいなかった事実にうちのめされるルイーズが対照的に描かれ、自分に恋する男性をうまくあしらい、「インタビュアーになって文化人やその道の達人に取材したい」と夢を語る彼女に対して、恋愛に不器用なルイーズの個性が際立つ。

 
いかにも重要な手がかりと思われたものはすべてまやかし。エヴィーを取り巻いていた私達自身の罪の繁栄でしかなかった


Rolling Twentiesの終焉と共に、自らの娘時代の終焉を悟ったルイーズは、広告代理店から作家に転じたキャスパリ自身の投影だろうか。
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2327 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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