はるほんさん
レビュアー:
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「火花」と比べる必要はないのだが、なにか似て非なるものを感じた。
こちらも借りることが出来た。
著者の作品は、これまた初読。
火花と対比させる必要はないのだが、
直後に読んだため、似て非なる対称形のようなモノを感じた。
どちらの主人公も、相手を想う。
「火花」では大切な他人を。こちらでは煩わしい肉親を。
相手の衰えに対し、「火花」では熱い無関心を。こちらでは冷めた無関心を向けて。
「想う」ことの光と影とでも言おうか。
この2つが受賞作として並んだと言うのは、なかなか面白い。
30を前にして会社を辞め、ニートになってしまった男が主人公。
母が働きに出てしまえば、家に残るのは要介護の祖父。
身体の不調と死ばかりを訴える祖父に
ならばそうしてやろうと思い立つ。
祖父に、速やかで穏やかな死を与えてやろうと。
が、殺人と言う物騒な話ではないのだ。
主人公のすることと言えば、祖父の毎日の仕事を奪い、
何の刺激も与えない生活をするだけだ。
傍目にはむしろ「普通の介護」にもみえる。
が、確かに一定の高齢者にとってそれは、「殺人」なのだ。
主人公は肉体を鍛え始める。
スクラップ同様の祖父の身体と、まだまだビルドされていく自分の身体。
その差に、安堵する。
緩やかに祖父は衰えているのだと思っていた主人公は、
ある日、祖父が隠れてピザを食べたらしい残骸を見つける。
中年としては、二人の構図に苦笑してしまう。
恐らく祖父は、死とはまだ暫く縁遠い生命力を蓄えている。
しかし、弱者である己の立場も理解している。
ひょっとして、主人公の思惑すら理解しているのかもしれない。
祖父の最大の強みは、「生きても死んでもどっちでもいい」という
領域に達していることではあるまいか。
比べて、主人公はもがいている。
仕事も見つけねばならない。
多少性格の悪い彼女でも失うよりは、繋ぎ止めておいた方がいい。
何より、衰えたくない。
若さを謳歌しながらも雁字搦めになっていることを
主人公は全く気が付いていない。
その「殺人計画」も微妙だ。
主人公の思いついた計画でありながら、祖父の思うままではないかとも思える。
5年生きるところが3年になろうが、
祖父にとっては然程問題ではないのではないか。
彼とっては「人に迷惑をかけても自身が楽な余生」なのだから。
「スクラップアンドビルド」とは非効率な設備や機構を
効率的に変えていくことを言う。
祖父と主人公の関係と思わせて、それは
「効率のいい」生き方にチェンジした祖父のこととも思える。
社会のしがらみも死への恐怖もない「生」へと。
介護殺人というテーマでありながら
ちょっと狸の化かし合いのようなユーモアもある。
介護問題に切り込んだ──とも言えるが、
その切っ先は深く刺さっているのか、1センチに満たないのか分からない。
が、その「軽さ」がちょうどこの問題の重みを語っているようでもある。
いや、自分のはうがった見方なのかもしれないが、
これも幾通りにも取れそうな「芥川賞作品」の面白味ではないだろうか。
著者の作品は、これまた初読。
火花と対比させる必要はないのだが、
直後に読んだため、似て非なる対称形のようなモノを感じた。
どちらの主人公も、相手を想う。
「火花」では大切な他人を。こちらでは煩わしい肉親を。
相手の衰えに対し、「火花」では熱い無関心を。こちらでは冷めた無関心を向けて。
「想う」ことの光と影とでも言おうか。
この2つが受賞作として並んだと言うのは、なかなか面白い。
30を前にして会社を辞め、ニートになってしまった男が主人公。
母が働きに出てしまえば、家に残るのは要介護の祖父。
身体の不調と死ばかりを訴える祖父に
ならばそうしてやろうと思い立つ。
祖父に、速やかで穏やかな死を与えてやろうと。
が、殺人と言う物騒な話ではないのだ。
主人公のすることと言えば、祖父の毎日の仕事を奪い、
何の刺激も与えない生活をするだけだ。
傍目にはむしろ「普通の介護」にもみえる。
が、確かに一定の高齢者にとってそれは、「殺人」なのだ。
主人公は肉体を鍛え始める。
スクラップ同様の祖父の身体と、まだまだビルドされていく自分の身体。
その差に、安堵する。
緩やかに祖父は衰えているのだと思っていた主人公は、
ある日、祖父が隠れてピザを食べたらしい残骸を見つける。
中年としては、二人の構図に苦笑してしまう。
恐らく祖父は、死とはまだ暫く縁遠い生命力を蓄えている。
しかし、弱者である己の立場も理解している。
ひょっとして、主人公の思惑すら理解しているのかもしれない。
祖父の最大の強みは、「生きても死んでもどっちでもいい」という
領域に達していることではあるまいか。
比べて、主人公はもがいている。
仕事も見つけねばならない。
多少性格の悪い彼女でも失うよりは、繋ぎ止めておいた方がいい。
何より、衰えたくない。
若さを謳歌しながらも雁字搦めになっていることを
主人公は全く気が付いていない。
その「殺人計画」も微妙だ。
主人公の思いついた計画でありながら、祖父の思うままではないかとも思える。
5年生きるところが3年になろうが、
祖父にとっては然程問題ではないのではないか。
彼とっては「人に迷惑をかけても自身が楽な余生」なのだから。
「スクラップアンドビルド」とは非効率な設備や機構を
効率的に変えていくことを言う。
祖父と主人公の関係と思わせて、それは
「効率のいい」生き方にチェンジした祖父のこととも思える。
社会のしがらみも死への恐怖もない「生」へと。
介護殺人というテーマでありながら
ちょっと狸の化かし合いのようなユーモアもある。
介護問題に切り込んだ──とも言えるが、
その切っ先は深く刺さっているのか、1センチに満たないのか分からない。
が、その「軽さ」がちょうどこの問題の重みを語っているようでもある。
いや、自分のはうがった見方なのかもしれないが、
これも幾通りにも取れそうな「芥川賞作品」の面白味ではないだろうか。
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歴史・時代物・文学に傾きがちな読書層。
読んだ本を掘り下げている内に妙な場所に着地する評が多いですが
おおむね本人は真面目に書いてマス。
年中歴史・文豪・宗教ブーム。滋賀偏愛。
現在クマー、谷崎、怨霊、老人もブーム中
徳川家茂・平安時代・暗号・辞書編纂物語・電車旅行記等の本も探し中。
秋口に無職になる予定で、就活中。
なかなかこちらに来る時間が取れないっす…。
2018.8.21
この書評へのコメント
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:121
- ISBN:9784163903408
- 発売日:2015年08月07日
- 価格:1296円
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