かもめ通信さん
レビュアー:
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明治末期から昭和30年代まで、新聞の芸術欄担当者として、また自ら筆をとる文筆家として活躍した正宗白鳥の文壇回顧録。紅葉、漱石、鴎外、花袋、藤村等々同時代を生きた文士たちを評する視点がとりわけ興味深い。
初めて白鳥さんに出会ったのは確か『小林秀雄対話集』を読んだときのことだ。
歯に衣着せぬ物言いで同時代の作家を評する白鳥さんにすっかり魅せられた私は
青空文庫で片っ端から白鳥作品を読んでみることにした。
だがその作品は読みやすくはあるが、ことさら心に残るというほどでもなかった。
読売新聞社で文芸・美術・演劇を担当していたというだけあって
やっぱりこの人の場合、評論が面白いに違いないとあたりをつけて、
探し求めたのがこの本だ。
時の流行作家尾崎紅葉の作品が次々と新劇で上演されているというのに
紅葉には一銭のお金も入らず謝礼すらなかった一方で
坪内逍遙の作品をかけることにした興行主が
上演すれば作者がありがたがるだろうぐらいの気持ちで
一応挨拶だけしにいったところ、当の逍遙が激怒して大騒ぎになったという話。
島村抱月や小山内薫がはじめたダンテやシェイクスピアの翻訳劇の
翻案のまずさを指摘したところ
小山内が「不完全であろうとも間違いだらけであろうとも、
そんな事で気おくれしてはならない」と主張したこと。
チェーホフやモーパッサン、トルストイやドストエフスキーの作品との出会いや
そうした海外の作品が日本文学にもたらした影響。
明治末期から昭和30年代にかけて、
小説、戯曲、評論分野の第一線で活躍した正宗白鳥による文壇回顧録は
白鳥さんの鋭い視点と幅広い交友関係に裏打ちされて
思わず笑ってしまうエピソードや膝を打ちたくなる文学論などお宝満載のお得感?!
なにより面白かったのは田山花袋の『蒲団』についての考察だ。
白鳥さんに言わせると『蒲団』は
そうではあるが、白鳥さんのみるところ、
その影響は藤村や鴎外、漱石等々多くの作家達にひろくみることができるのだという。
そう指摘したところで感化されたと認める者はすくないだろうが、
本人がそう思っていなくても影響は否定できないというのだ。
たとえば鴎外の『ヰタ・セクスアリス』。
花袋は真剣に“自己の日常生活や身辺の事件を暴露して
それを文学の本道としていた”のだが、
鴎外はこんなものなら、俺にでもかけるとばかりに
“手軽く遊び半分に扱っていた”というのである。
逍遙などは「鴎外もこんなものをかかなければいいのに」と
鴎外その人のために惜しんだと聞くが、
だがそうした試みがあったからこそ、
後年の鴎外作品への道が開かれていったのだと指摘することも忘れない。
鴎外ばかりでない。
文学を志す年少作家は、花袋のおかげでどれほど小説が書きよくなったか知れない。
「自分の毎日やっている事をそのまま書けばいいのだから」というわけだ。
影響を受けたのはあの漱石だとて例外ではなく、
そうした流行に乗って書いたのが『道草』だと白鳥さん。
当時の物書きは大なり小なり皆、『蒲団』の影響を受け、
唯一受けなかったのは泉鏡花ぐらいじゃないかと言うのである。
花袋や藤村と親しかったらしい白鳥さんの
花袋論、藤村論は読み応えがあり、
その真意を確かめたくなって、
またまたどっさり積読本を増やしてしまったのだった。
<正宗白鳥関連レビュー>
・月を見ながら
・幼少の思ひ出
・心の故郷
・奇怪な客
・小林秀雄対話集
・六の宮の姫君(北村薫著)
歯に衣着せぬ物言いで同時代の作家を評する白鳥さんにすっかり魅せられた私は
青空文庫で片っ端から白鳥作品を読んでみることにした。
だがその作品は読みやすくはあるが、ことさら心に残るというほどでもなかった。
読売新聞社で文芸・美術・演劇を担当していたというだけあって
やっぱりこの人の場合、評論が面白いに違いないとあたりをつけて、
探し求めたのがこの本だ。
時の流行作家尾崎紅葉の作品が次々と新劇で上演されているというのに
紅葉には一銭のお金も入らず謝礼すらなかった一方で
坪内逍遙の作品をかけることにした興行主が
上演すれば作者がありがたがるだろうぐらいの気持ちで
一応挨拶だけしにいったところ、当の逍遙が激怒して大騒ぎになったという話。
島村抱月や小山内薫がはじめたダンテやシェイクスピアの翻訳劇の
翻案のまずさを指摘したところ
小山内が「不完全であろうとも間違いだらけであろうとも、
そんな事で気おくれしてはならない」と主張したこと。
チェーホフやモーパッサン、トルストイやドストエフスキーの作品との出会いや
そうした海外の作品が日本文学にもたらした影響。
明治末期から昭和30年代にかけて、
小説、戯曲、評論分野の第一線で活躍した正宗白鳥による文壇回顧録は
白鳥さんの鋭い視点と幅広い交友関係に裏打ちされて
思わず笑ってしまうエピソードや膝を打ちたくなる文学論などお宝満載のお得感?!
なにより面白かったのは田山花袋の『蒲団』についての考察だ。
白鳥さんに言わせると『蒲団』は
「こんな小説が何だ」と思われるような、つまらない小説であるということだ。
そうではあるが、白鳥さんのみるところ、
その影響は藤村や鴎外、漱石等々多くの作家達にひろくみることができるのだという。
そう指摘したところで感化されたと認める者はすくないだろうが、
本人がそう思っていなくても影響は否定できないというのだ。
たとえば鴎外の『ヰタ・セクスアリス』。
花袋は真剣に“自己の日常生活や身辺の事件を暴露して
それを文学の本道としていた”のだが、
鴎外はこんなものなら、俺にでもかけるとばかりに
“手軽く遊び半分に扱っていた”というのである。
逍遙などは「鴎外もこんなものをかかなければいいのに」と
鴎外その人のために惜しんだと聞くが、
だがそうした試みがあったからこそ、
後年の鴎外作品への道が開かれていったのだと指摘することも忘れない。
鴎外ばかりでない。
文学を志す年少作家は、花袋のおかげでどれほど小説が書きよくなったか知れない。
「自分の毎日やっている事をそのまま書けばいいのだから」というわけだ。
影響を受けたのはあの漱石だとて例外ではなく、
そうした流行に乗って書いたのが『道草』だと白鳥さん。
当時の物書きは大なり小なり皆、『蒲団』の影響を受け、
唯一受けなかったのは泉鏡花ぐらいじゃないかと言うのである。
花袋や藤村と親しかったらしい白鳥さんの
花袋論、藤村論は読み応えがあり、
その真意を確かめたくなって、
またまたどっさり積読本を増やしてしまったのだった。
<正宗白鳥関連レビュー>
・月を見ながら
・幼少の思ひ出
・心の故郷
・奇怪な客
・小林秀雄対話集
・六の宮の姫君(北村薫著)
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:中央公論新社
- ページ数:245
- ISBN:9784122057463
- 発売日:2013年01月23日
- 価格:864円
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