かもめ通信さん
レビュアー:
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カフカは『変身』の装丁に虫を描くなと言ったという。ナボコフは『変身』を読みながらノートに虫の絵を書き付けた。小説の舞台となる街を描いてみる作家は多いが、読者が主人公の姿を思い浮かべることは難しい。
本を読むと時に私たちは何を見ているか?
(ページに印刷された文字のほかに)
読む時に何を頭に思い描いているか?
読書における想像力の謎を解き明かす本だと聞いて手にしたが、
この厚さからもかなり小難しいことが書いてあるに違いないと、
少々構えてページをめくったところ、
予想を大きく越えたかなり大胆な中味だった。
著者はアメリカでも有名なブックデザイナーなのだそうで、
ページ数の割には文字が非常に少なく、
視覚に訴えるイラストやコラージュも多い。
けれどもそれは決して中味が薄いとか軽いとかいうことではなくて
びっくりするほど、広くて深くて、
時間をかけてゆっくりページをめくったつもりでも
書かれていること、描かれているものすべてを汲み取れたとは到底思えない。
たとえば“アンナ・カレーニナ”について語りあうとする。
「彼女はどんな女性でしたか?」と聞かれたら
「美しい人だ」と答える人がいるだろう。
「濃い眉毛」を連想する人も、「ふくよかな女性」を思い浮かべる人もいるだろう。
そこで著者はトルストイがその作品の中で明らかにしているアンナの特徴を
警察の似顔絵描きに描かせてみた……それがこの……
ええ?違う!違う!!この人じゃない!!と私は思わず叫びたくなる。
でもそれではいったい私はどんな女性を思い浮かべていたのかというと……
なんだかぼんやりとした輪郭だけで目鼻立ちまでは思い浮かばないのだ。
あなたはどうだろうか?
たとえば物語の中に一枚の絵が出てくるとする。
その絵については作中であれこれと語られはするが
あなたはいったいどんな絵を想像するだろうか?
同じ小説を読んでも、
読み手によってイメージするものも
思い浮かべる情報の量もさまざまであるらしい。
小説が映像化されるたびにあれこれいいたくなってしまうのも
読者である私が勝手にイメージしたものとのギャップに起因しているのかも知れない。
こんなこともことも書いてあった。
私はいつもページの最後の言葉を読み終わらないうちにページをめくってしまう。
私たちの目と脳は、予測して先読みをする。
だがその予測が必ずしも当たるとは限らない。
そう私はページをめくるのがしばしば早すぎるのだ!
面白い。非常に面白い本だった。
だがこの本の魅力を言葉で表現する才能は私にはなかった。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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