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星落秋風五丈原
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実在したドールハウスにインスパイアされ 元女優が書いたデビュー小説 17世紀オランダ版「人形の家」
 17世紀オランダ、アムステルダム。18歳のネラ(ペトロネラ)が裕福な商人ヨハンネスの元に嫁いで来る。ところが新婚早々夫は仕事に忙しく妻に触れようともせず、義妹マーリンはネラに厳しくあたる。そんな彼女に夫は豪華なドールハウスを贈るが、ドールハウスには新しい家族に生き写しの人形がいて…。

 ここまでの前振りを読んで、てっきり「もしかして人形が夜動き出すとか?」とホラー的展開を考えた方、外れです(私もちょっと考えました)。むしろ原作者が意識したのは「お人形のように猫可愛がりされていた妻が、ある事件によって自立に目覚めていく」タイトルそのものずばりのイプセンの『人形の家』でしょう。ヒロインの名前も一字しか違いません。但し、夫との関係については本家とは異なります。女性作家故の優しさでしょうか。

 「秘密を抱えた家」をネラが探っていく前半は、彼女自身の幼さが解ってしまう読者にとっては、かなりイライラする展開です。それが作者の目論みであったとするなら成功していますし、後半のネラの目覚ましい活躍との対比にうまく効いています。解説でも紹介されていたデボラ・モガ―の『チューリップ熱』では、チューリップ投機にのめりこむオランダ人が描かれていましたが、本書でも、当時貿易で裕福な商人達が活躍していたフェルメールの時代が偲ばれます。ネラが恋文を盗み読むシーンではフェルメールの『恋文』を想起される読者もいらっしゃるのではないでしょうか。但し、主人公を驚かせるのは召使ではありません。


 デビュー作にして2014年全英図書賞(The Specsavers National Book Awards)新人賞及び最優秀賞を受賞していますが、タイトルにもなっているミニチュア作家の存在がうまく物語に嵌っていないようです。なぜならば、それ以外は全て現実的な内容でおさえてきたのに、ミニチュア作家の部分だけ非現実を出してきているからです。非現実的なものを出してくれば、全ての説明が出来てしまうのでまことに都合が良いのですが、望むべくは現実の枠の中で物語を纏めてほしかったと感じます。
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2327 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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