かもめ通信さん
レビュアー:
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大真面目だが喜劇。喜劇なのにどこかむなしい。切って貼って覗いて訊いて、書物や手紙や日記から抜き書きしたあれこれをつなぎ合わせたかのような体裁なのだが、そこに浮かび上がってくる世相や人物像は興味深い。
かたや啓蒙思想の哲学者であり作家であり詩人でもあり、たびたび世間を騒がせて、時々投獄され時々亡命したという、なかなかのお騒がせ人ヴォルテール。
かたや啓蒙専制君主の典型とされ、自ら哲学書の執筆もしたというプロイセン王フリードリヒ2世。
この二人が厚い親交を結んでいたという史実は、よく知られていることではあるが、まさかこんなおつきあいだったとは?!
小説というには少々淡々すぎるようにもおもわれるほど、書簡や記録等からの「抜き書き」が書き連ねられている独特の構成は、それゆえにまた妙に生々しい。
ヴォルテールの女性関係やお金への執着ぶりと、執筆への意欲に幾つもの国境を行き来する逃避行。
フリードリヒ2世が抱いたヴォルテールへの想いや、哲学への意欲に、政治的野心。
お互いの間だけでなく、周囲の思惑や駆け引きを含めて興味深くはあるのだが、この二人の“思想”と“行動”の乖離が少々辛くもある。
腹心の部下の痔核を心から心配して幾通もの手紙を寄せるフリードリヒ。
皇太子時代に『反マキャヴェリ論』を執筆し、「戦争とはほとんど関わるつもりはない」と言っていた彼が、即位後は領土拡大のために多くの兵士や民の命を犠牲にしている。
だが同時に
なかなか興味深いと思いつつも私がこの本をあまり楽しめなかったのは、ヴォルテールが愛したのが、自分に好意を寄せる王その人だけでなく、金や名誉やその他もろもろである点を終始忘れることが出来なかったからかもしれない。
それはとりもなおさず、この物語が真実味をおびている証拠でもあるのかもしれないが……。
かたや啓蒙専制君主の典型とされ、自ら哲学書の執筆もしたというプロイセン王フリードリヒ2世。
この二人が厚い親交を結んでいたという史実は、よく知られていることではあるが、まさかこんなおつきあいだったとは?!
小説というには少々淡々すぎるようにもおもわれるほど、書簡や記録等からの「抜き書き」が書き連ねられている独特の構成は、それゆえにまた妙に生々しい。
ヴォルテールの女性関係やお金への執着ぶりと、執筆への意欲に幾つもの国境を行き来する逃避行。
フリードリヒ2世が抱いたヴォルテールへの想いや、哲学への意欲に、政治的野心。
お互いの間だけでなく、周囲の思惑や駆け引きを含めて興味深くはあるのだが、この二人の“思想”と“行動”の乖離が少々辛くもある。
腹心の部下の痔核を心から心配して幾通もの手紙を寄せるフリードリヒ。
皇太子時代に『反マキャヴェリ論』を執筆し、「戦争とはほとんど関わるつもりはない」と言っていた彼が、即位後は領土拡大のために多くの兵士や民の命を犠牲にしている。
陛下、ならびにご同僚の国王方は地上を荒廃させることをけっしておやめにならないのでしょう。あなたは地上の人々を幸せにしたいと、と仰せになってはおられますがとヴォルテールは痛烈に書き送る。
だが同時に
にもかかわらず、偉大な王さま、わたしは陛下を愛しておりますともいう。
なかなか興味深いと思いつつも私がこの本をあまり楽しめなかったのは、ヴォルテールが愛したのが、自分に好意を寄せる王その人だけでなく、金や名誉やその他もろもろである点を終始忘れることが出来なかったからかもしれない。
それはとりもなおさず、この物語が真実味をおびている証拠でもあるのかもしれないが……。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:154
- ISBN:9784105901172
- 発売日:2015年03月31日
- 価格:1728円
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