Rokoさん
レビュアー:
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非常時だからこそ、書店にできることとは
ブックポートネギシの猪川店は、3月11日の震災後、三陸沿岸でいち早く営業を再開した書店のひとつだった。~中略~
あらゆる物資がなかったので、本当にたくさんの商品が売れたんです。特に必要とされたのは、避難所で読むのでしょう、児童書やコミックです。釜石や気仙沼、陸前高だから車で来るお客様もいて、『ジャンプ』や『マガジン』などの漫画週刊誌は全く数が足りない状況だったんですから。しかし震災直後の取次会社では流通の方針が決まっておらず、被災地の書店に新たな商品は入荷されなくなっていた。
それは仙台市の大型書店で最も早く開店した丸善さんで見た光景でした。あのときはまだ市内に食べるものがなく、多くの人たちが町中をひたすら歩いて、スーパーの列に並んでいたんです。
そんな時でも丸善さんの店内を見ると、リュックサックを背負った人たちがぎっしりと入っていました。生活に必要な食料や水を買い求めるためにスーパーに並んだ人たちが、同じようにその足で書店にも並んでいるんですよ。活字に関わる商売をしている者の1人として、それは胸打たれる光景でした。ネギシさんで見た光景もまた、それと同じだったんですね
これまで本屋は飲食店やスーパーなどとは違い、非常時に必要とされる商売ではないと僕は思っていたんです。でも、自覚していなかっただけで、本当はそうではないんですね。ぼくらには本を早く提供する義務がある。ときとして我々は食料以上に必要とされる。あの日のお客さんたちは、そのことを教えてくれたんです
地震と津波によって壊滅的な打撃を受けた後も、必死に店を開こうとした人たちがいました。水没したために、大量の本を廃棄しなければならないのは、とても切ない作業だったに違いありません。それでも、本をかき集めて店を開いてみると、多くの人がやってきて、「本が読みたいんです」と声をかけてくれました。そして大量に本を買っていくのです。きっと自分の分だけでなく、避難所から書店まで歩いてこられない人に頼まれた分も買ってくれたのでしょう。子どもたちも、はしゃいでいました。その姿を見て、お客さんたちの言葉を聞いて、書店は生活必需品なのであると再発見した書店が多かったのだそうです。
そして、少し生活が落ち着いてくると、被害を受けた地域を空から撮った写真集がとてもよく売れたのだそうです。大震災で自宅を流されてしまった人たちが、写真に写っているかつての我が家を見ていたという話に、泣けてきました。
震災が起きたのが3.11ですから、4月の新学期がすぐそこに迫っていて、教科書を確保することに尽力されたのも驚くべき努力でした。
狭い避難所で長い時間を過ごす女性には編み物の本、子どもたちへはマンガが良く売れたそうです。避難所は雨風をしのげることと食料のことしか用意されていませんから、娯楽としての本が多く求められたのだそうです。
店は再開できないけれど、駐車場などで青空書店を開いたお店もありました。そこへも多くの人が訪れたそうです。電力不足、ネットワークが寸断、という状況で、書籍類は活躍したのです。
様々な書店のお話は、つらいことも多いけれど、正直な気持ちが込められた素晴らしいものでした。出版社の「荒蝦夷」、製紙工場の「日本製紙石巻工場」のインタビューも、本を作る側の言葉として、とても重いものがありました。
近年、何でもネットでという風潮ですけど、いざという時にはやはりリアル店舗なのだということを、忘れてはいけないということを痛感しました。
『瓦礫から本を生む』 土方正志(荒蝦夷)
『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』 佐々涼子
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好きなジャンルはスポーツ、音楽、美術。
心・脳に関するものも、ついつい読んでしまいます。
小説もいいけどノンフィクションもね!
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- 出版社:小学館
- ページ数:262
- ISBN:9784094061017
- 発売日:2014年11月06日
- 価格:626円
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