Yasuhiroさん
レビュアー:
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山尾悠子の初期作品選。独特の文体、幻想的で豊かなイマジネーション、その後の20年のブランクが惜しいと思わせる、凄い作家である。
先日「ラピスラズリ」を読み、その独特の文体で構築される幻想的な世界に惹かれたので、山尾悠子をしばらく追いかけることにしました。まずは彼女の原点に戻って「増補 夢の遠近法」を読んでみました。初期作品選ですが、文庫化にあたり「パラス・アテナ」と「遠近法・補遺」が追加されています。
1970-80年代の作品が主で、「ラピスラズリ」のレビューでも書いたように、多くは「SFマガジン」や「奇想天外」に掲載されています。全部で13の作品が収録されていますが、「ラピスラズリ」で感じた靄の中を彷徨うような独特の文体、美しく幻想的なイマジネーションは、もうデビュー作から完成の域にあったことが、この作品集を読むとわかります。
とにかくひたすら圧倒されっぱなしでした、文章フェチにはたまりません。私が言うまでもないでしょうけれど、凄い作家です。ただし、すごく集中力を要します。気力の充実しているときに読まないと、文章の途中で迷子になってしまいますのでご注意ください。
各作品についてはご自身の解説がありますので、そちらを読んでいただければ一番正確ですが、とりあえず主だったところの寸評感想などを。
「夢の棲む街」: 同志社大学在学中に書き上げSFマガジンに応募したという記念すべきデビュー作。大海の中の円形の砂漠のような島の中央にヘソのようにすり鉢状に窪んだ小さな街。閉じられた世界。星座が絵のように巡る空さえも天蓋となって街を覆う。そこに住む「夢食い虫」、籠の中の侏儒、腰から足だけが異様に発達した踊り子達。これらの題材を見事に料理して最後のカタストロフへ持ち込む。もうこの一作だけで圧倒されました。栴檀は双葉より芳し、脱帽。
「月蝕」: 珍しく現実の京都が舞台。真面目なモリミーみたいな感じです。やはり山尾悠子は架空世界に棲むべき、かな。
「ムーンゲイト」: これは本当にすごい。彼女が殆どの作品で拘って描いているモチーフが「月」なのですが、この作品に於ける水と月をモチーフとしたイマジネーションの奔流、それを支える綿密な架空世界の構築は別格、美の粋を尽くした傑作です。敢えて言えば題名をわざわざ英語にせず「月の門」でもよかったのでは。
「遠近法」: 初期の代表作。石作りの人口世界「腸詰宇宙」(「合わせ鏡の宇宙」「遠近法魔術の宇宙」「飛翔と落下の一致する宇宙」「内臓宇宙」とも言う)の内壁の回廊に住む人々、そして「天の種族」。モチーフはジウリオ・ロマーノ のテ宮殿の天井画(下図参照)、ボルヘスの「バベルの図書館」。’私’が’彼’の小説を紹介しているという小説内小説形式、そして最後のツイスト。完成度の高い小説ですが、理が勝ちすぎて文章があまり美しくないところが文章フェチにはやや不満。
そういう意味でこのややこしい宇宙の説明が済んでいる「遠近法・補遺」はひたすら散文詩的で幻想的なイメージが横溢しており、私好みでした。
「パラス・アテネ」: ガンダムのモビルスーツではありません。ちょうど今ウィーン・モダン展で来日しているクリムトの「パラス・アテナ」(下図参照)で有名なギリシア神話の女神です。
著者解説によれば四部作で完結させる予定で書き始めた第一部にあたりますが、これだけで80Pもあり、この作品集の中で最も長い大作です。これまた架空世界が舞台で、土地神となった少年、狼神の統べる地の領王の宮殿における年越祭の狂乱、糸を吐き繭をつくる種族、そして千年帝国の野望と、壮大に展開するスケールの大きなファンタジーでした。書かれた時代からして、モー様か竹宮先生が漫画化すればすごい人気が出たかも。。。
あとは、支那幻想、透明族、山尾流ウィリアム・ウィルソン、幻影の盾、スリーピング・ビューティ等々、読んでのお楽しみということで。そして最後の「天使論」の後、山尾悠子は20年の休眠に入ります。
1970-80年代の作品が主で、「ラピスラズリ」のレビューでも書いたように、多くは「SFマガジン」や「奇想天外」に掲載されています。全部で13の作品が収録されていますが、「ラピスラズリ」で感じた靄の中を彷徨うような独特の文体、美しく幻想的なイマジネーションは、もうデビュー作から完成の域にあったことが、この作品集を読むとわかります。
とにかくひたすら圧倒されっぱなしでした、文章フェチにはたまりません。私が言うまでもないでしょうけれど、凄い作家です。ただし、すごく集中力を要します。気力の充実しているときに読まないと、文章の途中で迷子になってしまいますのでご注意ください。
各作品についてはご自身の解説がありますので、そちらを読んでいただければ一番正確ですが、とりあえず主だったところの寸評感想などを。
「夢の棲む街」: 同志社大学在学中に書き上げSFマガジンに応募したという記念すべきデビュー作。大海の中の円形の砂漠のような島の中央にヘソのようにすり鉢状に窪んだ小さな街。閉じられた世界。星座が絵のように巡る空さえも天蓋となって街を覆う。そこに住む「夢食い虫」、籠の中の侏儒、腰から足だけが異様に発達した踊り子達。これらの題材を見事に料理して最後のカタストロフへ持ち込む。もうこの一作だけで圧倒されました。栴檀は双葉より芳し、脱帽。
「月蝕」: 珍しく現実の京都が舞台。真面目なモリミーみたいな感じです。やはり山尾悠子は架空世界に棲むべき、かな。
「ムーンゲイト」: これは本当にすごい。彼女が殆どの作品で拘って描いているモチーフが「月」なのですが、この作品に於ける水と月をモチーフとしたイマジネーションの奔流、それを支える綿密な架空世界の構築は別格、美の粋を尽くした傑作です。敢えて言えば題名をわざわざ英語にせず「月の門」でもよかったのでは。
「遠近法」: 初期の代表作。石作りの人口世界「腸詰宇宙」(「合わせ鏡の宇宙」「遠近法魔術の宇宙」「飛翔と落下の一致する宇宙」「内臓宇宙」とも言う)の内壁の回廊に住む人々、そして「天の種族」。モチーフはジウリオ・ロマーノ のテ宮殿の天井画(下図参照)、ボルヘスの「バベルの図書館」。’私’が’彼’の小説を紹介しているという小説内小説形式、そして最後のツイスト。完成度の高い小説ですが、理が勝ちすぎて文章があまり美しくないところが文章フェチにはやや不満。
そういう意味でこのややこしい宇宙の説明が済んでいる「遠近法・補遺」はひたすら散文詩的で幻想的なイメージが横溢しており、私好みでした。
「パラス・アテネ」: ガンダムのモビルスーツではありません。ちょうど今ウィーン・モダン展で来日しているクリムトの「パラス・アテナ」(下図参照)で有名なギリシア神話の女神です。
著者解説によれば四部作で完結させる予定で書き始めた第一部にあたりますが、これだけで80Pもあり、この作品集の中で最も長い大作です。これまた架空世界が舞台で、土地神となった少年、狼神の統べる地の領王の宮殿における年越祭の狂乱、糸を吐き繭をつくる種族、そして千年帝国の野望と、壮大に展開するスケールの大きなファンタジーでした。書かれた時代からして、モー様か竹宮先生が漫画化すればすごい人気が出たかも。。。
あとは、支那幻想、透明族、山尾流ウィリアム・ウィルソン、幻影の盾、スリーピング・ビューティ等々、読んでのお楽しみということで。そして最後の「天使論」の後、山尾悠子は20年の休眠に入ります。
この言葉の宇宙が崩壊する時、鏡の破片や砂のかたちをした言葉のかけらが落下していくだけだ。
誰かが私に言ったのだ
世界は言葉でできていると
太陽と月と欄干と回廊
昨夜奈落に身を投げたあの男は
言葉の世界に墜ちて死んだと
そして陰鬱な蛇が頭を下に墜ちてくる。
(遠近法・補遺より)
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馬鹿馬鹿しくなったので退会しました。2021/10/8
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- 出版社:筑摩書房
- ページ数:430
- ISBN:9784480432223
- 発売日:2014年11月10日
- 価格:972円
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