祐太郎さん
レビュアー:
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「芸人」という職業小説であり、先輩後輩のホモ的小説であり、それらを著者の文学体験がしっかり支えている良作。正直、芥川賞というより直木賞ではないかと思う。
漫才コンビ「スパークス」の徳永は、熱海の花火大会で漫才を披露するが撃沈。舞台から降りる際「仇とったるわ」と言い残し、彼らの次に立ったのが「あほんだら」の神谷であった。その日、徳永は神谷を師匠と仰ぎ、師弟関係の契りを結ぶ。徳永は、「笑い」のためならほかのすべてを捨て去る神谷を尊敬し、時に侮蔑しつつ、一緒の時を過ごしていく。そして、スパークスは少しずつ売れ始めテレビに出るようになるが、神谷は借金を重ね身を持ち崩していく。
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図書館で40人待ちの単行本をあきらめ、文學界2月号を予約し、届いたのが芥川賞受賞日という奇跡。本日、一気に読み進めました。純文学志向の芥川賞というよりもむしろ大衆文学としての直木賞の方が妥当ではないかと思いました。いずれにせよ、非常に面白い作品であることには違いありません。
まず笑いをストイックに求める「芸人たち」の姿を、自らの体験をもとに描き出した職業小説という点に目が行きます。売れない芸人が笑いともいえない笑みを受かべて小劇場の楽屋に集まる姿、街中を歩いていても面白いことを考えなければならないというプレッシャー、後輩芸人の躍進に嫉妬する姿。特に売れない若手芸人の姿を描き出す様子は、まさにそこにいた著者が持つ説得力には非常に強いものがあります。
また、神谷・徳永の師弟関係は「ホモ的」な匂いを感じます。社会性を考えず修行僧のように笑いを求める神谷と彼を尊敬する徳永は「笑い」という快感を共有する共依存のような関係といえます。著者本人は、この点については意識していたかどうかはわかりません。しかし、そもそも師弟関係というのはそういうものなのかもしれませんが。
ところで、又吉さんは村上春樹も好きなようですが、ところどころに「ノルウェイの森」の影響が見え隠れします。冒頭、神谷・徳永が出会ったとき、神谷は「俺のことを忘れずに覚えていてほしいねん」と語ります。まさに「ノルウェイの森」冒頭で直子がワタナベに「私のことをいつまでも忘れないで。私が存在していたことを覚えていて」と語ったことのオマージュといえます。また、神谷・徳永と明るくて綺麗な神谷の彼女・真樹との3人の関係は、ワタナベ、永沢とハツミの関係を思い起こします(真樹について後日談を入れている点も同じです。)
又吉さんの圧倒的な読書量とその蓄積が、又吉さんの「今書きたいのだという衝動」と記述の文章構造をしっかり支えています。
又吉さんは次も書くということを表明していますが、無理はしないでいいと思います。「書きたい」というエネルギーをしっかりためてから進めていただければと思います。私は期待して待っています。
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図書館で40人待ちの単行本をあきらめ、文學界2月号を予約し、届いたのが芥川賞受賞日という奇跡。本日、一気に読み進めました。純文学志向の芥川賞というよりもむしろ大衆文学としての直木賞の方が妥当ではないかと思いました。いずれにせよ、非常に面白い作品であることには違いありません。
まず笑いをストイックに求める「芸人たち」の姿を、自らの体験をもとに描き出した職業小説という点に目が行きます。売れない芸人が笑いともいえない笑みを受かべて小劇場の楽屋に集まる姿、街中を歩いていても面白いことを考えなければならないというプレッシャー、後輩芸人の躍進に嫉妬する姿。特に売れない若手芸人の姿を描き出す様子は、まさにそこにいた著者が持つ説得力には非常に強いものがあります。
また、神谷・徳永の師弟関係は「ホモ的」な匂いを感じます。社会性を考えず修行僧のように笑いを求める神谷と彼を尊敬する徳永は「笑い」という快感を共有する共依存のような関係といえます。著者本人は、この点については意識していたかどうかはわかりません。しかし、そもそも師弟関係というのはそういうものなのかもしれませんが。
ところで、又吉さんは村上春樹も好きなようですが、ところどころに「ノルウェイの森」の影響が見え隠れします。冒頭、神谷・徳永が出会ったとき、神谷は「俺のことを忘れずに覚えていてほしいねん」と語ります。まさに「ノルウェイの森」冒頭で直子がワタナベに「私のことをいつまでも忘れないで。私が存在していたことを覚えていて」と語ったことのオマージュといえます。また、神谷・徳永と明るくて綺麗な神谷の彼女・真樹との3人の関係は、ワタナベ、永沢とハツミの関係を思い起こします(真樹について後日談を入れている点も同じです。)
又吉さんの圧倒的な読書量とその蓄積が、又吉さんの「今書きたいのだという衝動」と記述の文章構造をしっかり支えています。
又吉さんは次も書くということを表明していますが、無理はしないでいいと思います。「書きたい」というエネルギーをしっかりためてから進めていただければと思います。私は期待して待っています。
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片道45分の通勤電車を利用して読書している
アラフィフ世代の3児の父。
★基準
★★★★★:新刊(定価)で買ってでも満足できる本
★★★★:新古書価格・kindleで買ったり、図書館で予約待ちしてでも満足できる本
★★★:100均価格で買ったり図書館で何気なくあって借りるなら満足できる本
★★:どうしても本がないときの時間つぶし程度ならいいのでは?
★:う~ん
★なし:雑誌などの一言書評
※仕事関係の本はすべて★★★で統一します。
プロフィールの画像はうちの末っ子の似顔絵を田中かえが描いたものです。
2024年3月20日更新
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:152
- ISBN:9784163902302
- 発売日:2015年03月11日
- 価格:1296円
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