書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

かもめ通信
レビュアー:
訳者が藤井光さんだということと、物語の舞台がパキスタンだということに惹かれて手にしたこの本は、オー・ヘンリー賞受賞作を含む“パキスタン系”作家のデビュー短篇集だ。
パキスタン人の父とアメリカ人の母の間に生まれ
少年時代はラホールで、13歳から大学卒業まではアメリカで教育を受け、
大学卒業後はパキスタンにある父の農場を引き継いで経営に従事、
その後ふたたび渡米しロースクールで学び、
マンハッタンの法律事務所勤務を経て、パキスタンの農場に戻り、
パキスタンで暮らしながら小説を書いているという“パキスタン系”作家のデビュー作。

本書には、1970年代から現代までのパキスタンを舞台にした
8つの物語が納められている。

12人の娘と1人の息子をもつ子だくさんの電気技師が農園地主の元で働きながら、
あれこれと“うまくやって”家族を養っている様子と
彼が巻き込まれる“災難”を描いた1つ目の作品を読んだとき、
正直に言えば(この本、最後まで読み通せるかなあ)と少々不安な気持ちになった。
決して読みにくいわけではないし、嫌な話だというわけでもなかったが
淡々としていて盛り上がりに欠ける気がしたのだ。

けれども2話、3話とページをめくり、
それぞれの物語が大地主ハールーニーとその周辺の人々を主役にしていて
それぞれが緩やかに繋がっている連作短編であることはっきりしてくるにつれ、
吸い込まれるように惹きつけられていった。

ハールーニーが持つ地方の農園で働く者や
ラホールの邸宅の使用人の話であったり
ハールーニーその人の愛人の話であったり
あるいはその親族の話であったりするそれらの物語は、
誰かの物語が他の物語のサイドストーリーになっているというような
本当に緩やかな繋がりではあるが、
とある部屋を訪れたつもりが
壁の向こうから、あるいは窓の外から聞こえてきた会話で
他の部屋のことを想像してしまうように
次は誰の物語なのか
あるいはこの物語は他の物語とどう繋がっていくのかと
好奇心がわいてくる。

穏やかな語り口ながら
それぞれが秘める想いはなかなかに激しく
ところどころにちりばめられた
パキスタンという国や人々の置かれた厳しい現状が心に刺さる。

もっともこれらの物語は
パキスタンという国の内側から発せられた物語ではあるが
内側にむけて語られた物語ではなく
アメリカの、あるいは他の場所から
かの地とそこに暮らす人びとの営みを覗き込む物語として作られているように思われて、
パキスタンの人々がこの物語をどう読むのか
あるいは著者がパキスタンの内側に向けて語る物語があるとすれば
それはどんな物語になるのだろうかと、想像せずにはいられない。
いつかそんなサイドストーリーを読んでみたいものだとも思うのだった。

お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2229 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

読んで楽しい:3票
参考になる:26票
共感した:1票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『遠い部屋、遠い奇跡 (エクス・リブリス)』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ