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かもめ通信
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原題は『Thank you for your service』。イラクからの帰還兵とその家族を追ったノンフィクション。戦争をするということ、戦地に赴くということはどういうことなのか改めて考えずにはいられない。
背負った負傷兵から流れてきた血の味が口の中にいつまでも残っている。

爆撃によって負傷した仲間を必死の思いで助けたものの、
半身不随になった彼を前に本当に助けてよかったのかと自問する。

部下が死んだのは「お前のせいだ」「お前のせいだ」と
毎日責め立てられているような気がする。

妻のぬくもりがなければ眠りにつけないというのに
悪夢にうなされたあげく妻の首を絞めてしまう。

戦争から帰ってきてすっかり人が変わってしまった夫。
「これは戦争の後遺症なのだ」「彼も苦しんでいるのだ」とわかってはいても
暴力に暴言、記憶障害に自殺願望と病んだ夫を前に途方にくれる妻。

足がない、腕が動かない、そんな負傷兵の姿を見て
自分の夫は幸運だったのだと思う。
幸運だったのだから早く元気になってがんばって稼いで貰わなければ。
あるいはもしも外傷があったならば、
あれこれと手当がもらえ貧困にあえぐこともなかったかもしれないが。

生還しなかった夫を想う妻の嘆きと
もしも生還しなかったなら手にしたに違いない周囲の尊敬と恩給のことを
ついつい考え、そう考えてしまう自分への嫌悪にも苦しむ帰還兵の妻の嘆き。

ピューリツァー賞受賞記者が
精神障害に苦しむ帰還兵とその家族を取材して記した本書には、
5人の元兵士とその家族が登場する。
イラクに派遣された当時の兵士たちの平均年齢は20歳。
いずれも貧しい階層の出身者だ。

アフガニスタンとイラクに派遣された米軍兵士は約200万人。
そのうち50万人がPTSD (心的外傷後ストレス障害)に苦しみ、
毎年240人以上の帰還兵が自殺を遂げていて、その数は増加傾向にあり
自殺者の10倍の人数が自殺未遂をおかしているという。

もちろん政府もただ手をこまねいているわけではなく
自殺防止会議が軍の首脳によって毎月開催され
すべての自殺者の仔細な報告が上げられて検討されているのだという。
しかし、どれほど検討を重ねても、医療設備は収容者であふれ
治療を要する者を収容しきれないし、自殺者は増え続けている。
そして、いまや自殺者数が戦死者数を追い越しているのだ。

まるでドキュメンタリー番組を見ているかのような
生々しい証言を元に綴られている本書は
語られる内容の深刻さにもかかわらずわかりやすく読みやすい。

戦争についても政府の方針についても、
書き手の主観はあえて排したこのノンフィクションは
取材した内容を淡々と事細かに書き表し事実をつきつけることで
読み手に考えることを促している。



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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2234 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. 星落秋風五丈原2015-04-04 00:22

    アカデミー賞候補となった「アメリカン・スナイパー」にもこのあたりの事が出てくるようですね。

  2. かもめ通信2015-04-04 06:50

    なんでも既に映画化の権利はスピルバーグ監督が持っているらしく
    「アメリカン・スナイパー」のジェイソン・ホールが脚本を手がけるという話も
    流れているようですよ。

  3. ぴょんはま2015-05-28 19:34

    殺しも殺されもしなかったはずの自衛隊でさえ、イラク帰還者の在職中自殺が29人ですか。直接行かなかった隊員もその時期の自殺率は上がったと報道されました。戦争の犠牲になるのは死傷者だけではなく、社会の健全性そのもののように思います。

  4. かもめ通信2015-05-28 21:52

    私も自衛隊員の自殺に関するその報道を耳にして、この本のことを真っ先に思いだしました。
    最前線であろうが後方支援であろうが、戦地に赴くということはどういうことなのか、戦闘地域から帰ってきた家族を出迎えるということがどういうことなのか、その一端を知る上でも、この本はお薦めです。
    ぜひ多くの方に手にとっていただき、一緒に考えていただきたいと思います。

  5. 読書猫S.S2017-07-24 21:20

    日本が南スーダンPKOで大臣と自衛隊の間で戦闘があったかどうかもめているようですが、戦争は何をもたらすのか?考えるにはよさそうな本ですね。

  6. かもめ通信2017-08-29 19:13

    あら、読書猫さんのコメント、見落としていました。お返事遅れてごめんなさい。
    そうなんですよ。いろいろ考えさせられます。
    今丁度同じ著者のこの本↓を読んでいるのですが、こちらも…なんというか…もうね……はあ。。。。

  7. No Image

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