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Wings to fly
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この繊細な入れ子細工のような作品は、物語が人に与えてくれる力をしみじみと実感させる。
☆上下巻合わせた書評です。

病気で倒れ何ヶ月も意識不明の沙綾の枕もとで、南波は本の朗読を続けている。子どもの頃にふたりが大好きだった、北の王国に住む優しい魔女の子の物語を。南波は心の中で呟いている。「裏切ってごめんね。辛い思いをさせてごめんね。」

魔女の子ルルーの物語と、幼友達の少女ふたりのお話が交互に語られてゆく。
魔女には、その力ゆえに人に恐れられ疎まれた過去がある。家族を失いひとりぼっちのルルーは、人間を信じたいのに信じられない。どんなに良い人に見えても、魔女だと知った途端に冷たい目で去ってゆくのではないか。友情や愛情に憧れていても、傷つけられるのが怖い。でも、それでは永久に誰も信じることはできないと悟った時、ルルーの心に強さが宿る。

合間に挿入されるのは、南波と沙綾の過去から現在までだ。一緒に魔法のような時間を過ごした女の子は海外へ去り、再会は芸術系の女子高だった。フランスからの帰国子女、沙綾は綺麗で賢く煌めくようなピアノの才能を持ち、先生たちに可愛がられた。ちょっと風変わりで目立ち、周りの悪意を跳ね返す術を持たない少女が受ける陰湿ないじめ。沙綾との再会を喜んでいた南波も少しずつ距離を置きはじめ、やがて決定的な出来事が起こる。

いつかルルーに会えたなら「私が友だちになるよ」って言おうと思っていたのに。何があっても自分から私を見捨てることなどしなかった沙綾なのに。ふたつのお話は響きあい、次第に境界線が溶けてゆく。想いをこめて友に読み聞かせる声は、まるで呪文のように、この世の魔法の扉を開く。

大切な人を理不尽に奪われた経験は、どんなに想いをこめて祈ろうとも叶わぬ願いがあることを骨身に沁みさせる。それでもこの作品に感動を覚えるのは、幼いころから愛してきた“その本の物語”が、人生の苦しみを乗り越えるために貸してくれる力を描いているからだ。

想像力と夢を見る心が、いつかあなたに小さな勇気の灯をくれますように。「世界はいつだって、魔法と奇跡に満ちている。」作品にこめられた思いが、美しい余韻となって響いてくる。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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