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かもめ通信
レビュアー:
ウー・ミンという中国語には“無名”あるいは“5つの名”という二つの意味があるという。その名の通り名前を伏せた5人の執筆集団によって書かれたというこの物語はまさに練りに練られた極上のエンターテイメント!
国営造船所爆破事件の犯人を追ってヴェネツィアの街を走っていたはずの男が一転、
今度は追われる身となってひと目を避けて逃げ惑う。
物語は幕開けからスリリング。

その男、エマヌエーレ・デ・サンテは
キリスト教国であるヴェネツィア共和国の諜報部員だったが、
彼には消し去ったはずの過去があった。
マルエル・カルドソ、幼いころそう呼ばれていた彼は、
ユダヤ人の母を持ち、ユダヤの戒律の下に少年時代を過ごしていたのだ。

かつての上司の命を受けた追っ手をまいて、
生まれ故郷のドゥブロヴニクに逃れたエマヌエーレはやがて、
諜報部員時代の最大の敵の一人だったユダヤの富豪ヨセフ・ナジの手に落ち、
彼の元へと連行される。

オスマントルコ帝国の都、コンスタンティノープル。
その街で、エマヌエーレはとうに捨てたはずの名前マルエルをふたたび名乗り
ユダヤ人となって生きることを余儀なくされることになる。


キプロスにユダヤ人の国をつくるという夢を追った男たちの物語であると同時に、
レパントの海戦を敗者の側から描いた物語だと帯に記されているとおり、
この物語は、夢も希望も絶望も、冒険も策略も陰謀も、
愛もロマンもなんでもありの一大歴史絵巻だ。
のみならず、旧約聖書の創世記になぞらえたあれこれや、
ところどころにちりばめられたうんちくが
知的好奇心を刺激する面白さを兼ね備えている。

妖しげな美しさを誇るヴェネツィアに、
喧噪と混沌の海岸線をもつドゥブロヴニク、
人種も建物も文化もなにもかもが入り交じる懐深いコンスタンティノープル。
キリスト教にユダヤ教、イスラム教と異なる宗教と異なる思惑。
やり手の諜報部員にユダヤの大富豪、
オスマントルコ帝国スルタンに地中海に名をはせる海賊、
美しい娼婦に誇り高い侍女、はかなげな奥方にスルタンの寵姫、
キプロスの籠城戦に、艦隊の並ぶ海戦。

これぞエンターテイメント!という豪華絢爛ぶり。
総制作費をたっぷりかけてハリウッドで映画化するという話が
既にあったとしても驚かないし、
もしどこかの旅行会社が物語の舞台を巡るツアーなんていうものを企画したら
ほいほいついて行ってしまいそうなぐらい、
本のページから立ち上る視覚的なあれこれにもワクワクしながら楽しんだ。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2229 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

読んで楽しい:11票
参考になる:24票
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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2015-03-06 21:32

    本の中のうんちくその1
    「ヴェネツィアの象徴有翼の獅子は、平時には開いた本を掲げ、戦時には閉じた本に足をのせている」のだそう。
    ちなみにこの写真は↓数年前に撮ったもの。開いていますね!

  2. かもめ通信2015-03-06 21:36

    本の中のうんちくその2
    ドゥブロヴニクという名前は対岸にある「悪しきヴェネツィア」と区別するためにスラブ名をもじって「ドブロ・ベネディック(良きヴェネツィア)」と呼んだのがはじまりとか!
    この説、本当なのかしら??(ネットで検索した限りではわからなかったのだけれど)

  3. ef2015-03-06 22:42

    かもめさんも当たったのですか?! efは今、読書ちぅ。そうそう、おっしゃるとおり。しかも、かもめさん、ヴェネツィアに行ったこともあるのですか?時代が違うとは言え、何某かのかけらが残っていたりするのでしょうか? あぁ「義務」なのでいつか書きますが、これはとっても書きにくくなってしまったなぁ……(言い訳)。

  4. かもめ通信2015-03-07 06:22

    わあ!efさんも当たったんですね。レビューが楽しみ♪
    これ、とっても面白かったのですが、いろんなところに興味深いあれこれが散らばっていてあちこち寄り道してしまってなかなかスピードには乗れませんでした。
    読み終えた後は思わず創世記&出エジプトを読み返してしまったし、昔読んだ塩野七生さんの『レパントの海戦』も読み返したいと本棚を探索したりとか(結局見つかりませんでしたが^^;)
    ヴェネツィア、数年前に行きました!
    かれこれ20年ぐらい前ですがイスタンブールにも行ったのでその時の写真も探してきたかったのですが、みつけてもまだフィルムの時代だということに気づきました。(スキャナを使えばアップできないこともないのですが)
    そして今はめちゃくちゃドゥブロヴニクに行きたいです!!
    はあ~お金と休みが欲しい!ww

  5. ef2015-03-07 06:50

    いや。プレッシャーかけないでくださいよぉ。かもめさんと同じ本のレビューを書かなければならないと分かった瞬間のこの、「どうしようか?」感。あぁ、どうしよう……。

  6. かもめ通信2015-03-07 08:02

    いやいやプレッシャーなんてそんな。。。でも,わかります,献本の場合,同じ時期に同じ本の書評が並びますからね。
    ちなみに私は,献本に限っては,自分のレビューを書き上げるまで他の方の書評は読まないようにしています。
    これもプレッシャー対策?w

  7. ef2015-03-07 08:47

    献本、頂けてホントに有り難いと思っていて、ちゃんと読もうって、思って(いや、どの本だってちゃんと読んでいるつもりなのですが、この場合はちょと構えてしまいます)。
    いやいや、確かに沢山の方が書かれていますし、どれも参考になるのですけれど、今回は、「御大」かもめさんですからねぇ。

  8. かもめ通信2015-03-07 14:58

    あらやだefさん!うら若き乙女を捕まえてそんな年寄り臭い…(°O゜)☆\(^^;)
    冗談はさておき、
    この本、中東問題やジェンダー観や作者を巡る謎などとからめれば、あと2,3本は異なる雰囲気の長文レビューが書けそうな気がするのですが、今回はこれから読まれる方も多いと思ったので、とりあえず初読のわくわく感が伝わればな~と勢いで書きました。

    というわけで、efさんはもちろんのこと、読みたいと仰っていたあの方、この方のレビューも楽しみにしています!w

  9. No Image

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