レビュアー:
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文学史上屈指の愛の告白「く、ろ、かあ、みい、の・・・。」にゾクッときた。この愛は絶対に実ることはないと暗示する会話のズレ加減が絶妙。
「復活!課題図書倶楽部・2015」の課題図書の一冊『雪国』、トンネルを抜けて来た東京の男島村と、雪国の芸者駒子の話なのよ。
ふたりの馴れ初めの時、駒子はまだ一人前の芸者じゃなかったのに、身を投げだしちゃうのね。駒子は島村の東京の匂いや教養に惹かれたんだわ。彼女、日記や読書記録(題名と作者と登場人物だけの)をつけてるの。「この女の小説の話は、日常使われる文学という言葉とは縁がないもののよう」だとか、そのあこがれを「無慾な乞食に似た哀れな響き」とか言う島村、ひどくない?自分だって洋書を頼りに、見たこともない“西洋舞踏”の紹介記事を書いているのにさ。裕福だから、仕事といっても手慰みよ。駒子の無心な夢が「不思議な哀れとも見えた」のは、きっと自分と駒子のしていることがそう変わらないって、感じたからね。それにしても読書ノートが「徒労だね」「そうですわ」…え?駒子よ、そこは否定すべきでは?
駒子は16歳で東京にお酌に出た(つまり売られた)んだけど、旅立つときに見送りに来てくれたのは、お師匠さんの息子の行男だけ。古い日記の一番初めには、そのことが書いてあるって駒子は言うの。初恋よね。お師匠さんもふたりが結ばれることを望んではいたけれど、そうならなかった。だって今、病気の行男を看護しているのは葉子だもん。それでも、療養費を払うために駒子はまた芸者になり、お金でこの雪国に縛りつけられている。駒子って強くて優しいピュアな人だと思う。だから行男が死んでからの、この会話は悲しいわね。
「あすこへ行ってみようか。君のいひなずけの墓が見える。」
「あんた私を馬鹿にしてんのね。」「あれだって、私には真面目なことだったんだわ。」
人の純粋さを茶化すんじゃねーよ、島村。過去の自分を知ってもらうために、あんたに日記を見せてもいいって言う駒子なのに。この無神経さはどうよ。
中盤で、駒子が地唄を披露する場面があるのよ。何曲か歌い終わってから、膝を崩して幼げにつぶやくの。
「く、ろ、かあ、みい、の・・・。」
「黒髪を最初に習ったの?」
「ううん。」駒子はかぶりを振る。
ああ島村よ、踊りに詳しいお前ならわかるだろうに。”くろかみい、の”に込めた思いが。
黒髪の むすぼれたる思ひをば とけてねた夜の 枕こそ ひとり寝る夜の 仇枕(中略)ゆうべのゆめのけささめて ゆかし懐かし やるせなや 積もるとしらで つもる白雪
駒子が歌わなかった部分が、書かれなかった歌詞が立ち上るのよ、この場面。すごいわねー、川端康成。
通じたようで通じない会話に、時々イラっとしちゃったわ。でも、それがこの関係の象徴みたいに思えてきたの。最後まで、本当に気持ちがつながることはなかったふたりなのよ。人間関係って、こんなに虚しいものなのかしら。時代背景が戦争直前ってことも、インテリ島村の虚無感と関係あるかもね。たった三回の逢瀬、去ってゆくとわかっている男をひたすら愛した駒子、あなたはとても美しかったわ。
・・・ゆかし懐かし やるせなや 積もるとしらで つもる白雪
ふたりの馴れ初めの時、駒子はまだ一人前の芸者じゃなかったのに、身を投げだしちゃうのね。駒子は島村の東京の匂いや教養に惹かれたんだわ。彼女、日記や読書記録(題名と作者と登場人物だけの)をつけてるの。「この女の小説の話は、日常使われる文学という言葉とは縁がないもののよう」だとか、そのあこがれを「無慾な乞食に似た哀れな響き」とか言う島村、ひどくない?自分だって洋書を頼りに、見たこともない“西洋舞踏”の紹介記事を書いているのにさ。裕福だから、仕事といっても手慰みよ。駒子の無心な夢が「不思議な哀れとも見えた」のは、きっと自分と駒子のしていることがそう変わらないって、感じたからね。それにしても読書ノートが「徒労だね」「そうですわ」…え?駒子よ、そこは否定すべきでは?
駒子は16歳で東京にお酌に出た(つまり売られた)んだけど、旅立つときに見送りに来てくれたのは、お師匠さんの息子の行男だけ。古い日記の一番初めには、そのことが書いてあるって駒子は言うの。初恋よね。お師匠さんもふたりが結ばれることを望んではいたけれど、そうならなかった。だって今、病気の行男を看護しているのは葉子だもん。それでも、療養費を払うために駒子はまた芸者になり、お金でこの雪国に縛りつけられている。駒子って強くて優しいピュアな人だと思う。だから行男が死んでからの、この会話は悲しいわね。
「あすこへ行ってみようか。君のいひなずけの墓が見える。」
「あんた私を馬鹿にしてんのね。」「あれだって、私には真面目なことだったんだわ。」
人の純粋さを茶化すんじゃねーよ、島村。過去の自分を知ってもらうために、あんたに日記を見せてもいいって言う駒子なのに。この無神経さはどうよ。
中盤で、駒子が地唄を披露する場面があるのよ。何曲か歌い終わってから、膝を崩して幼げにつぶやくの。
「く、ろ、かあ、みい、の・・・。」
「黒髪を最初に習ったの?」
「ううん。」駒子はかぶりを振る。
ああ島村よ、踊りに詳しいお前ならわかるだろうに。”くろかみい、の”に込めた思いが。
黒髪の むすぼれたる思ひをば とけてねた夜の 枕こそ ひとり寝る夜の 仇枕(中略)ゆうべのゆめのけささめて ゆかし懐かし やるせなや 積もるとしらで つもる白雪
駒子が歌わなかった部分が、書かれなかった歌詞が立ち上るのよ、この場面。すごいわねー、川端康成。
通じたようで通じない会話に、時々イラっとしちゃったわ。でも、それがこの関係の象徴みたいに思えてきたの。最後まで、本当に気持ちがつながることはなかったふたりなのよ。人間関係って、こんなに虚しいものなのかしら。時代背景が戦争直前ってことも、インテリ島村の虚無感と関係あるかもね。たった三回の逢瀬、去ってゆくとわかっている男をひたすら愛した駒子、あなたはとても美しかったわ。
・・・ゆかし懐かし やるせなや 積もるとしらで つもる白雪
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「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。
この書評へのコメント
- Wings to fly2015-03-01 09:57
あ!コメント欄にも「チーム風竜胆」さんがみんなで来てくれた~~♪
>一般の人にはアブナイこと
あーダメダメ、駒子をこれ以上いじめないで~~!!でもどんなことなのかちょっと知りたい(^^)クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
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- 出版社:KADOKAWA
- ページ数:110
- ISBN:B00DHX5OAS
- 発売日:2013年06月25日
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