yukoさん
レビュアー:
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1961年、ミネソタ州ニューブレーメンでの最後の夏の日、悲しい出来事が次々と起こり、僕は大人への敷居を早めにまたいだ・・・。13歳の少年を大人に否応なくさせてしまった、悲しく切ないひと夏の物語。
フランク・ドラムは13歳の少年。
父はネイサン。
もともと大学卒業後は弁護士になるつもりであったのに、戦争によって劇的に変貌し、帰還したときにはもう法廷で戦う意欲は失せ、ネイサンは牧師になりました。
大学時代音楽と演劇を専攻していた美しい母ルースは、夫ネイサンが、法曹界での前途洋々の将来を棒に振り、メソジスト派の牧師になってしまったことを今でも不満に思っています。
18歳の姉のアリエルは、母に似て音楽の才能があり、この秋からジュリアード音楽院に通うことが決まっています。
そして二歳年下の弟、ジェイクはひどい吃音に苦しみ、周りからからかわれて、友達は兄のフランクだけという孤独で、そしてとても利発な少年でした。
1961年の夏、はじまりは一人の少年の事故死でした。
そのあとも続くたくさんの死。
母ルースの元婚約者で、ミネソタで最高の盲目の音楽家であり、姉のアリエルを指導している上流階級のブラント一族のエミール。
彼の妹で一族の厄介者、生まれつき耳の聞こえない癇癪持ちのリーゼ。
同じく一族の、エミールの甥であり、アリエルのボーイフレンドであるカール。
インディアンであるフランクの友人、ダニーとその大叔父、ウォレン・レッドストーン。
父ネイサンは戦争中になんらかの事件があって牧師になろうと思ったようで、その真相を知っている戦争仲間のガス。
フランクを取り巻く人々が、この短い夏に次々と起こる悲しい出来事の数々の中で、
それぞれが深い悲しみにとらわれつつも、
なくならずに残ったものを、皆それぞれいっそう愛おしく思い、心ふるわせるのです・・・
前半は、語り手であるフランク少年の家族や、その周りの人間関係を延々と描いているので、正直なかなか読み進められなかったのですが、物語中盤で、姉のアリエルの失踪事件が起こってからはもう一気に読むのが止められませんでした。
とにかく、
ミネソタ州の美しい自然についての描写が大変素晴らしく、読んでいる間ずっと映像が頭の中に次々と浮んできて・・・
様々な事件現場となった、川に架かった長い構脚橋、その路床のきわに茂る野生のライ麦やブラックベリーやアザミ。
フランクたちが泳ぎに出かける石切り場。
ガスが乗馬に連れ出してくれた時の、雪のようにアルファルファの畑の上を飛び交う蝶々など、
ミネソタの美しい自然が本当に目に浮かぶようで、たくさんの「死」が登場するにも関わらず、うっとりとしてしまいます。
フランクは、
上流階級ほどではないにせよ、食べるものにも困らず不自由ない日々の暮らしや、
皆に尊敬される牧師である父、音楽の才能豊かな美しい母、
ユーモアにあふれ、常に兄弟の味方してくれる姉に囲まれ、
この暮らしが、この家族関係が、ずっとずっと続くとなんとなく思っていたのです。
母の聖歌隊の女性が夫に殴られて、その女性宅を訪れて励ましに行った時、
フランクは友人である、彼女の息子のピーターも殴られて痣があるのを見て、
家族としての彼らの様子を気の毒に思い、同情し、
そして心のどこかで、自分の家庭は違うということに、ちゃんとした家族であることに、彼らよりもずっと幸せであると、心のどこかでなんとなく優越感を感じます。
そしてこの優越感は揺るがないものだと思っていたのです。
それが物語終盤に逆転してしまいます。
ピーターが、フランク一家を気の毒に思い、同情し、心配してくれる・・・
その時、フランクは自分が以前は反対の立場にいたことを、
意識しなかったにせよ、
自分の家族のほうが幸せで、なんとなく特別だと感じていたことや、
自分たちの家族の立場は不動だと思っていたことに、
立場が逆転してフランクは気づくのです・・・
「ありふれた」幸せな家庭は、次々と起こる悲しい出来事で崩れ去ってしまった。
けれど、まだ、違う形での「ありふれた」幸せは自分の周りにあるのだと。
他人からは気の毒に思われ、同情されている状態でも、
自分には、まだ「ありふれた」幸せが、周りにまだまだたくさんあるのだと。
物語の最後のありふれた祈りが、家族を救います。
その美しいこと。
ありふれた、記憶に残るような言葉は何もない祈りだったけれど、父も母も、フランクもその祈りに救われます。
このありふれた祈りが、とてもあたたかくて、この場面、号泣してしまいました。
愛する人を亡くした後、遺された者はどうすればいいのか。
弟のジェイクにフランクはこう言います。
吃音に苦しみ、いじめられ、友達もいない弟のジェイクは、死について、兄にこう言います。
自分であることから逃げるには、「死」しかないのではと思っている、まだ11歳の少年なのに・・・
ミステリとしても、謎解き部分もとても面白かったですが、
ミネソタの美しい自然、ネイティブアメリカンに対する差別など、1960年代の描写も素晴らしく、
そして何よりも、
少年たちが傷つき、もがきながら、悲しい出来事を自分なりに受け止め、
なくなったものが元通りになるわけではないけれど、
なくならずに残ったものに対して愛おしさを感じ、大切にして生きていこうと悟る。
本当に素晴らしい成長物語でもありました。
新年早々、こんなにも素晴らしい本に巡り合えて、本当に幸せです・・・・
父はネイサン。
もともと大学卒業後は弁護士になるつもりであったのに、戦争によって劇的に変貌し、帰還したときにはもう法廷で戦う意欲は失せ、ネイサンは牧師になりました。
大学時代音楽と演劇を専攻していた美しい母ルースは、夫ネイサンが、法曹界での前途洋々の将来を棒に振り、メソジスト派の牧師になってしまったことを今でも不満に思っています。
18歳の姉のアリエルは、母に似て音楽の才能があり、この秋からジュリアード音楽院に通うことが決まっています。
そして二歳年下の弟、ジェイクはひどい吃音に苦しみ、周りからからかわれて、友達は兄のフランクだけという孤独で、そしてとても利発な少年でした。
1961年の夏、はじまりは一人の少年の事故死でした。
そのあとも続くたくさんの死。
母ルースの元婚約者で、ミネソタで最高の盲目の音楽家であり、姉のアリエルを指導している上流階級のブラント一族のエミール。
彼の妹で一族の厄介者、生まれつき耳の聞こえない癇癪持ちのリーゼ。
同じく一族の、エミールの甥であり、アリエルのボーイフレンドであるカール。
インディアンであるフランクの友人、ダニーとその大叔父、ウォレン・レッドストーン。
父ネイサンは戦争中になんらかの事件があって牧師になろうと思ったようで、その真相を知っている戦争仲間のガス。
フランクを取り巻く人々が、この短い夏に次々と起こる悲しい出来事の数々の中で、
それぞれが深い悲しみにとらわれつつも、
なくならずに残ったものを、皆それぞれいっそう愛おしく思い、心ふるわせるのです・・・
前半は、語り手であるフランク少年の家族や、その周りの人間関係を延々と描いているので、正直なかなか読み進められなかったのですが、物語中盤で、姉のアリエルの失踪事件が起こってからはもう一気に読むのが止められませんでした。
とにかく、
ミネソタ州の美しい自然についての描写が大変素晴らしく、読んでいる間ずっと映像が頭の中に次々と浮んできて・・・
様々な事件現場となった、川に架かった長い構脚橋、その路床のきわに茂る野生のライ麦やブラックベリーやアザミ。
フランクたちが泳ぎに出かける石切り場。
ガスが乗馬に連れ出してくれた時の、雪のようにアルファルファの畑の上を飛び交う蝶々など、
ミネソタの美しい自然が本当に目に浮かぶようで、たくさんの「死」が登場するにも関わらず、うっとりとしてしまいます。
フランクは、
上流階級ほどではないにせよ、食べるものにも困らず不自由ない日々の暮らしや、
皆に尊敬される牧師である父、音楽の才能豊かな美しい母、
ユーモアにあふれ、常に兄弟の味方してくれる姉に囲まれ、
この暮らしが、この家族関係が、ずっとずっと続くとなんとなく思っていたのです。
母の聖歌隊の女性が夫に殴られて、その女性宅を訪れて励ましに行った時、
フランクは友人である、彼女の息子のピーターも殴られて痣があるのを見て、
家族としての彼らの様子を気の毒に思い、同情し、
そして心のどこかで、自分の家庭は違うということに、ちゃんとした家族であることに、彼らよりもずっと幸せであると、心のどこかでなんとなく優越感を感じます。
そしてこの優越感は揺るがないものだと思っていたのです。
それが物語終盤に逆転してしまいます。
ピーターが、フランク一家を気の毒に思い、同情し、心配してくれる・・・
その時、フランクは自分が以前は反対の立場にいたことを、
意識しなかったにせよ、
自分の家族のほうが幸せで、なんとなく特別だと感じていたことや、
自分たちの家族の立場は不動だと思っていたことに、
立場が逆転してフランクは気づくのです・・・
「ありふれた」幸せな家庭は、次々と起こる悲しい出来事で崩れ去ってしまった。
けれど、まだ、違う形での「ありふれた」幸せは自分の周りにあるのだと。
他人からは気の毒に思われ、同情されている状態でも、
自分には、まだ「ありふれた」幸せが、周りにまだまだたくさんあるのだと。
物語の最後のありふれた祈りが、家族を救います。
その美しいこと。
ありふれた、記憶に残るような言葉は何もない祈りだったけれど、父も母も、フランクもその祈りに救われます。
このありふれた祈りが、とてもあたたかくて、この場面、号泣してしまいました。
愛する人を亡くした後、遺された者はどうすればいいのか。
弟のジェイクにフランクはこう言います。
「進みつづけるんだ。いつもしてることをしつづけるんだ。そうすればいつかまた正しいと感じるようになれる」
吃音に苦しみ、いじめられ、友達もいない弟のジェイクは、死について、兄にこう言います。
「自分であること。それからは逃げられない。なにもかも捨てることはできても、自分であることは捨てられない」
自分であることから逃げるには、「死」しかないのではと思っている、まだ11歳の少年なのに・・・
ミステリとしても、謎解き部分もとても面白かったですが、
ミネソタの美しい自然、ネイティブアメリカンに対する差別など、1960年代の描写も素晴らしく、
そして何よりも、
少年たちが傷つき、もがきながら、悲しい出来事を自分なりに受け止め、
なくなったものが元通りになるわけではないけれど、
なくならずに残ったものに対して愛おしさを感じ、大切にして生きていこうと悟る。
本当に素晴らしい成長物語でもありました。
新年早々、こんなにも素晴らしい本に巡り合えて、本当に幸せです・・・・
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仕事のことで鬱状態が続いており全く本が読めなかったのですが、ぼちぼち読めるようになってきました!
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この書評へのコメント
- タカラ~ム2017-01-22 05:58
yukoさん
唐突なコメントですいません。
いま、掲示板企画「古今東西、名探偵を読もう!」を開催しています。
レビュアーのefさんから、
「yukoさんをお誘いしてみては?」
とご推薦いただいたので、お誘いにまいりました!
「ホンノワ」テーマ:古今東西、名探偵を読もう!
⇒http://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no271/index.html?latest=20
ご興味ありました覗きに来てください!
書き込みも大歓迎です!クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- ページ数:400
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