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Wings to fly
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書画骨董の目利きに帳簿の穴埋め。菅原道真、大宰府での流人生活は、趣味と特技でかなり充実。
平安前期の大秀才、教養あり文才あり。菅原道真は右大臣にまで出世するが、能力の高さを左大臣藤原時平に妬まれて失脚し、大宰府に流された。道真が大宰府に没した後、清涼殿に雷が落ちて死人が出るわ、左大臣は早死にするわ、都では「道真の祟りじゃ~!」と大騒ぎ。怨霊で雷神(で学問の神)、ということになってしまった道真だけど、いつまでも怒り狂ったり悲嘆にくれたりしたままの人間はいない。本書は、大宰府に流された後の道真を描いた物語である。

到着直後は憤怒に燃え、ヒステリックな引きこもり男と化した道真。「うたたね殿」こと保積は、上役から“無聊をお慰めせよ(おとなしくさせとけよ)”と命令されるが、手に負えない。そんなある日、大宰府庁の大弐(長官)小野葛弦の姪・恬子(しずこ)が偶然屋敷を訪れた。恬子の手の中のある物を見た時、道真の目は突然ギラリと光る。
「そ、そなたこの墨をどこで手に入れたのじゃ!」

都で珍重される文物が、ここでは容易く手に入る。お忍びで出かけた博多津の店で、書画でも骨董でも真贋をすぐに見分ける道真。その確かな鑑識眼に目をつけた店の主人は、彼を雇って大儲けしようとたくらむ。
さて一方、大宰府庁では公金横領事件が発生していた。発覚したら伯父上がお咎めを受けると、長官の甥小野葛根は蒼くなる。やがて事件は道真の知るところとなり、内密に処理しようとやっきになる面々に、大胆な帳簿の穴埋め方策を提案する。

趣味と特技を生かして第二の人生を歩んでゆく道真。庶民の苦しみを知らずに政治を行っていた自分に気付き、大宰府の地で何人もの人生を変えてゆく。書画骨董の由来など細かな部分に作者の知識が光り、雷神伝説誕生を暗示する終幕が爽快だ。献策が受け入れられず身投げして死んだ楚の屈原との比較などに、人生で大事なことは何だろうと考えさせられる。軽快なテンポとユーモラスな味付け、でも中味は濃い作品だと思う。

ところで墨を持ってきた恬子さん、「この人はあの人か!」と途中でわかるのが楽しい。有名歌人で美女の誉れ高い、小野さんです。


☆『若冲』が直木賞候補となった澤田瞳子さん。初めて読んだ時に作品水準の高さに驚き、大ファンになりました。澤田作品の書評はこちら。

『満つる月の如し 仏師・定朝』(平安時代)
『ふたり女房 京都鷹ヶ峰御薬園日録』』(江戸時代)
『日輪の賦』(飛鳥時代)



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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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