はるほんさん
レビュアー:
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年の瀬だというのに、今年のマイベスト本ノミネートだ!
戦国の三梟雄、といわれる武将がある。
斉藤道三、松永久秀、そして本書に描かれる宇喜多直家だ。
物語にヒーローは必須だが、悪役も不可欠だ。
ヒーローはあくまで勝敗の結果生み出された是であり、
悪役もおなじく是であり、歴史の一点だ。
しかも歴史書が数多あるが故にふり幅の少ない前者と違い、
後者には葬られたが故の深みがある。
本書はまさに、その利を存分に放った作品だ。
何がイイって、構成が素晴らしくキマっている。
宇喜多直家とは言わずと知れた、中国地方の大名だ。
毛利・尼子の有力大名以下、どんぐりの背比べ的勢力図とくれば
耽々と情勢を見、機を逃さぬようにせねば生き抜けない。
手を結ぶにしても、裏切るにしても──だ。
直家は嫁がせた娘たちの家を、すべて滅ぼした。
無論、娘たちの結末は言わずもがなだ。
故に世間では「捨て嫁」などと囁かれる。
直家の四女は姉たちを亡くし、己も嫁がされることになり
ただただ父を憎いと思った。
父は──、直家は病臥にある。
全身膿に爛れ、腐臭を漂わせながら生きている。
寝床から世界を見、命を下し、娘に恨まれていることも知りつつ
ただ生きている。
冒頭の章では、直家の人物像は全く見えない。
その子供時代が、次章で紡がれる。
史実では宇喜多家は、祖父の代で居城を追われている。
同じ主に使える島村に裏切られたと言われる。
父は諍いを避け、一時は牛飼いにまで身を落としたと言われるが、
本書ではひたすら暗愚として扱っている。
またその敵役・島村をちょっとハードボイルドに仕立て、
主人を狡猾な人物としている。
実のトコロ、島村は然程エピソードのある武将ではないし、
主人に至っては、この時代では凡将であると言える。
だがこういう解釈ができるのも、「葬られた歴史」こそだろう。
だから悪役は面白いのだ。
ともあれ、この素晴らしい脇役に固められた直家譚は
梟雄とは思えぬナイスガイストーリーに変じる。
ジャンプでいえばNARUTOのイタチのような、
スタウォでいえばアナキンの若き日のような
苦悩と葛藤の果てに生まれたダークヒーローと化す。
そんなネタバレ視点で読んでて面白いのかと言われそうだが、
イヤもうめっちゃ面白い。
正史が知りたければ、史書だけ読めばいい。
こういう逆視点や改編、知られざるモブに光をあてられたりするから
歴史小説はやめられんのである。
全く直家の人物像が見えなかった冒頭は、終章に繋がる。
直家を知った読者は、頭をがきんと殴られる。
直家は善人だったとか、そんな話ではない。
ただ戦乱という無常の中に、
彼は在るべくして在ったのだという寂寞が胸を差す。
もうとにかく、歴史という制限枠と敗者故の空想幅が絶妙。
本書の直家には「必殺技」があるのだが
コレまた現実と少年漫画ギリのとこにあってナイス。
婆までついてて、ロウジンスキー点加算。
年の瀬だというのに、今年のマイベスト本ノミネートである。
自分は斉藤道三にもオチた過去があり、
戦国逆ときめきメモリアルとしては
あとはもう松永さんにオチるのみ!(なにが?)
梟雄ハーレムエンド目指して、松永久秀の良き本募集中!!
斉藤道三、松永久秀、そして本書に描かれる宇喜多直家だ。
物語にヒーローは必須だが、悪役も不可欠だ。
ヒーローはあくまで勝敗の結果生み出された是であり、
悪役もおなじく是であり、歴史の一点だ。
しかも歴史書が数多あるが故にふり幅の少ない前者と違い、
後者には葬られたが故の深みがある。
本書はまさに、その利を存分に放った作品だ。
何がイイって、構成が素晴らしくキマっている。
宇喜多直家とは言わずと知れた、中国地方の大名だ。
毛利・尼子の有力大名以下、どんぐりの背比べ的勢力図とくれば
耽々と情勢を見、機を逃さぬようにせねば生き抜けない。
手を結ぶにしても、裏切るにしても──だ。
直家は嫁がせた娘たちの家を、すべて滅ぼした。
無論、娘たちの結末は言わずもがなだ。
故に世間では「捨て嫁」などと囁かれる。
直家の四女は姉たちを亡くし、己も嫁がされることになり
ただただ父を憎いと思った。
父は──、直家は病臥にある。
全身膿に爛れ、腐臭を漂わせながら生きている。
寝床から世界を見、命を下し、娘に恨まれていることも知りつつ
ただ生きている。
冒頭の章では、直家の人物像は全く見えない。
その子供時代が、次章で紡がれる。
史実では宇喜多家は、祖父の代で居城を追われている。
同じ主に使える島村に裏切られたと言われる。
父は諍いを避け、一時は牛飼いにまで身を落としたと言われるが、
本書ではひたすら暗愚として扱っている。
またその敵役・島村をちょっとハードボイルドに仕立て、
主人を狡猾な人物としている。
実のトコロ、島村は然程エピソードのある武将ではないし、
主人に至っては、この時代では凡将であると言える。
だがこういう解釈ができるのも、「葬られた歴史」こそだろう。
だから悪役は面白いのだ。
ともあれ、この素晴らしい脇役に固められた直家譚は
梟雄とは思えぬナイスガイストーリーに変じる。
ジャンプでいえばNARUTOのイタチのような、
スタウォでいえばアナキンの若き日のような
苦悩と葛藤の果てに生まれたダークヒーローと化す。
そんなネタバレ視点で読んでて面白いのかと言われそうだが、
イヤもうめっちゃ面白い。
正史が知りたければ、史書だけ読めばいい。
こういう逆視点や改編、知られざるモブに光をあてられたりするから
歴史小説はやめられんのである。
全く直家の人物像が見えなかった冒頭は、終章に繋がる。
直家を知った読者は、頭をがきんと殴られる。
直家は善人だったとか、そんな話ではない。
ただ戦乱という無常の中に、
彼は在るべくして在ったのだという寂寞が胸を差す。
もうとにかく、歴史という制限枠と敗者故の空想幅が絶妙。
本書の直家には「必殺技」があるのだが
コレまた現実と少年漫画ギリのとこにあってナイス。
婆までついてて、ロウジンスキー点加算。
年の瀬だというのに、今年のマイベスト本ノミネートである。
自分は斉藤道三にもオチた過去があり、
戦国逆ときめきメモリアルとしては
あとはもう松永さんにオチるのみ!(なにが?)
梟雄ハーレムエンド目指して、松永久秀の良き本募集中!!
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歴史・時代物・文学に傾きがちな読書層。
読んだ本を掘り下げている内に妙な場所に着地する評が多いですが
おおむね本人は真面目に書いてマス。
年中歴史・文豪・宗教ブーム。滋賀偏愛。
現在クマー、谷崎、怨霊、老人もブーム中
徳川家茂・平安時代・暗号・辞書編纂物語・電車旅行記等の本も探し中。
秋口に無職になる予定で、就活中。
なかなかこちらに来る時間が取れないっす…。
2018.8.21
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:349
- ISBN:9784163901503
- 発売日:2014年10月27日
- 価格:1836円
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