かもめ通信さん
レビュアー:
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私よりひと世代前の母娘のことだし、自分の思い出と重なるところはほとんどないのに、それでもなぜかとても懐かしい。時代が変わっても親子の間に流れるものは、そうそう変わらないものなのかもしれないな。
住井すゑの名前を聞いてまず思い浮かべるのはなんといっても『橋のない川』だ。
白髪の小柄なかくしゃくとしたおばあちゃんが、“天皇制”うんぬんとはっきりキッパリ言い切って、右翼の街宣車に押しかけられたとかなんだとか、昭和の時代にそんな話を耳にした記憶もある。
そんなわけで、この本を読むまで、私がこの作家に持っていたイメージは、メッセージ性の高い小説を書く強くたくましい女性、病弱で稼ぐあての全くないまま小作農解放運動に没頭する夫と4人の子どもを抱えて筆一本で一家を支え続けた小柄な肝っ玉母さん……といったものだった。
けれども、この本で娘が語る母の姿は、私の想像とは全く違っていた。
3番目の子(著者)を産み落としてまもなく、母は猛然と机に向かう。
その時書いた作品で読売新聞の懸賞小説で一等をとって、当座の生活費を稼いだという。
幼いころから中央の雑誌に投稿していた母(住井すゑ)は、編集者の意図をくむセンスやカンを身につけていたのだろうとかつて自分も編集者だった娘(著者)はいう。
住井は人々が求めているものはなにか、世間の関心やニーズはどこにあるのかをとらえるアンテナを持っていた。
だから、懸賞小説をあてるのが得意だったし、戦前から戦中戦後を通して一家を支える収入を得続けることが出来たのだろう。
そこがひたすら良心の信じるままに突き進む夫との大きな違いで、だからこそ、幼い娘の脳裏に焼き付いた両親の深刻な対立の場面や、一人の時間を求めて目的地までひたすら歩いていた母の姿が生まれたのだろう。
両親共に信念にのみしたがって生きていたら、生活は立ちゆかなかっただろうと回想する娘の言葉には、それとはっきり名言はされていないが、戦中の大政翼賛的な母の作品への複雑な思いが見えかくれもする。
もっともこの本全体から見れば、そういう問題は一つのエッセンスに過ぎず、エッセイの主眼は、母との思い出の数々にある。
牛久沼のほとりに一家で移り住んだときのこと。
手先が器用だった母が着物や洋服や女学校の制服まで仕立ててくれたこと。
年に数回、姉や弟と共に往復4時間もかけて母と一緒にでかけた隣町への買い物の想い出。
父の好物、母の好物、台所に立つ母の姿。
近所の人々からも慕われる“東京のカアチャン”。
私が育った時とは時代も環境も全く違うにもかかわらず、語られる一つ一つの想い出に、なぜか懐かしさを感じてしまうエピソードの数々。
そしてなにより、女性として、妻として、母として、作家として、人として、けなげで、一生懸命で、精力的で、生き生きと、魅力に溢れた亡き母を誇りに思う娘の気持ちが愛おしい。
白髪の小柄なかくしゃくとしたおばあちゃんが、“天皇制”うんぬんとはっきりキッパリ言い切って、右翼の街宣車に押しかけられたとかなんだとか、昭和の時代にそんな話を耳にした記憶もある。
そんなわけで、この本を読むまで、私がこの作家に持っていたイメージは、メッセージ性の高い小説を書く強くたくましい女性、病弱で稼ぐあての全くないまま小作農解放運動に没頭する夫と4人の子どもを抱えて筆一本で一家を支え続けた小柄な肝っ玉母さん……といったものだった。
けれども、この本で娘が語る母の姿は、私の想像とは全く違っていた。
3番目の子(著者)を産み落としてまもなく、母は猛然と机に向かう。
その時書いた作品で読売新聞の懸賞小説で一等をとって、当座の生活費を稼いだという。
幼いころから中央の雑誌に投稿していた母(住井すゑ)は、編集者の意図をくむセンスやカンを身につけていたのだろうとかつて自分も編集者だった娘(著者)はいう。
住井は人々が求めているものはなにか、世間の関心やニーズはどこにあるのかをとらえるアンテナを持っていた。
だから、懸賞小説をあてるのが得意だったし、戦前から戦中戦後を通して一家を支える収入を得続けることが出来たのだろう。
そこがひたすら良心の信じるままに突き進む夫との大きな違いで、だからこそ、幼い娘の脳裏に焼き付いた両親の深刻な対立の場面や、一人の時間を求めて目的地までひたすら歩いていた母の姿が生まれたのだろう。
両親共に信念にのみしたがって生きていたら、生活は立ちゆかなかっただろうと回想する娘の言葉には、それとはっきり名言はされていないが、戦中の大政翼賛的な母の作品への複雑な思いが見えかくれもする。
もっともこの本全体から見れば、そういう問題は一つのエッセンスに過ぎず、エッセイの主眼は、母との思い出の数々にある。
牛久沼のほとりに一家で移り住んだときのこと。
手先が器用だった母が着物や洋服や女学校の制服まで仕立ててくれたこと。
年に数回、姉や弟と共に往復4時間もかけて母と一緒にでかけた隣町への買い物の想い出。
父の好物、母の好物、台所に立つ母の姿。
近所の人々からも慕われる“東京のカアチャン”。
私が育った時とは時代も環境も全く違うにもかかわらず、語られる一つ一つの想い出に、なぜか懐かしさを感じてしまうエピソードの数々。
そしてなにより、女性として、妻として、母として、作家として、人として、けなげで、一生懸命で、精力的で、生き生きと、魅力に溢れた亡き母を誇りに思う娘の気持ちが愛おしい。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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この書評へのコメント
- かもめ通信2014-11-30 07:11
実家本棚からの譲り受け品レビューの第一弾?!
図書館で見かけてもおそらく手に取らなかったと思うので、そういう意味では“運命”の出会いだったかも。
この本を読んだら前作から20年ぶりに書き下ろされたという1994年刊の『橋のない川』の第7部を読んでいないことに気がついたけれど、それを読むには既読刊を再読しなければならない気もしてきて………もしかしてこれも“運命”なの?!(汗)
ちなみに実家には『橋のない川』の単行本(!)も並んでいたのだけれど、あまりに古く保存状態が良いとはいえなかったので、引き取ってこなかったのよねえ。。。。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- 出版社:海竜社
- ページ数:238
- ISBN:9784759305357
- 発売日:1998年01月01日
- 価格:1620円
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