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三太郎さん
三太郎
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昆虫に関するあらゆる話題が満載の一冊です。
丸山さんは先日レビューした「昆虫学者、奇跡の図鑑を作る」の著者で、こちらの方が先に書いた本らしい。新書にしてはよく売れたようで、2014年に出されたから約1年で10刷まで行っている。僕の持っているのは2015年の本だがカバーには11万部突破と書いてあった。

でもこの本がそんなに沢山の読者に読まれたというのはちょっと意外。様々な昆虫の生活を網羅的に取り上げた本で、書き方もごく真面目だったからだ。ファーブル先生の本を読んでいたから、初めて聞く話でびっくり、という話題もあまりなかったと思うが、日本の読者は虫の話が好きなんだなあとつくづく思う。

ファーブル先生の本は自分の研究成果だったから臨場感があったが、この本にはそのような驚きはない。でもファーブル先生はまだ知らなかった遺伝と進化論の知見が盛り込まれている。それでも、狩蜂が獲物を麻酔で生かしたまま子供の餌にする話とか、雌の蛾がフェロモンで雄をおびき寄せる話とか、ツチハンミョウの幼虫の寄生生活の話を読むと、ファーブル昆虫記をまざまざと思い出す。ファーブルの本には発見の驚きが詰まっていた。

この本で初めて知ったこともある。この本には昆虫の生殖について、雄の陰茎(ペニス)がよく出てくる。僕は子供の頃、雌雄のカブトムシを飼っていて、交尾の瞬間を見ていたから、雄がペニスをもっていることは知っていたのだけれど、そのカブトムシのペニスは我々のそれとは違って硬い外骨格で出来ていると知って驚いた。

カブトムシの交尾は見た目には鳥や哺乳類の交尾と同じように見えるのだが、雄のそれは我々のと違って初めから形が一定で大きさにもほぼ個体差がないという。

外骨格のカブトムシと内骨格(というのかな?)の我々とでは体の構造は全く異なるはずなのに、生殖に関しては似たような器官を発達させたというのは進化論の驚くべき摂理だ。

化学兵器を内蔵したような昆虫がいる。ミイデラゴミムシは危険を感じると強烈なオナラを放出するが、これは体内に貯蔵されたヒドロキノン(還元剤)と過酸化水素(酸化剤)を混合して、触媒の作用で一瞬にして有毒なベンゾキノンと水を爆発的に生成し、オナラとして放出する。放出されるオナラの温度は100℃だというから凄まじい。この反応熱と刺激臭で敵を退散させるらしい。

生物は海で生まれ、陸で進化した後に海に戻った動物も多いのに、意外にも海に生きる昆虫は少ないとか。外洋の海面に住むウミアメンボはわずかな例外だという。

後半はアリやシロアリなど社会性の昆虫について。

社会性と言っても昆虫の場合は群れは血縁関係にあり、人間の社会性とは意味が違う。アリは遺伝子でつながった社会性だが、人間は文化でつながった社会性ということかもしれない。

異なる群れのアリの縄張り争いは威嚇する程度から凄惨な殺し合いまで様々だが、種の異なるアリ同士の縄張りの近くに餌がある場合、一方のアリが他方のアリの巣穴に小石を投げ込んで出られなくして、その間に餌を独占しようとする場合があるとか。

サムライアリはクロヤマアリの巣を襲って、蛹や幼虫を奪い、巣に連れ帰って奴隷として働かせる。しかしこの場合、最初はサムライアリの女王が単身クロヤマアリの巣に乗り込んで、クロヤマアリの女王を殺して巣を乗っ取るところから始まるので、成功率はあまり高くない。だからクロヤマアリが滅んでしまうこともない。奴隷狩りは一種の寄生であるが、寄生される側がいなくなると寄生する側も滅んでしまうので、バランスが必要らしい。

欧州にいるオンブアリの女王はシワアリの女王の背中に乗っかって生活している。オンブアリの幼虫はシワアリの働きアリが世話をする。オンブアリ自身は働きアリを生まないで羽蟻を生む。そのためシワアリの巣は働き手が減って衰退していく。これは行き過ぎた寄生の例で、その結果オンブアリは希少なアリとなっている。

寄生するアリは脳神経が退化してるとか。楽な暮らしで脳が要らなくなったのか。

最後の話題は人間に病気を移す吸血性の様々な昆虫について。ブユ、アブ、カ、ツツガムシにマダニなど血を吸う昆虫は何らかの病気の原因になり得る。僕は山歩きをするからツツガムシ、マダニによるリケッチア病が怖い。ペストはネズミに付くノミが媒介するとは知らなかった。人に着くシラミはアタマジラミとコロモジラミに分化したが、コロモジラミは人間が衣服を着始めてから現れたのだから昆虫の進化の速度は意外に速い。

自然界に昆虫がいなかったら、例えばシロアリがもしいなかったら、生態系が崩壊してしまい人間の住める場所もなくなりかねないのに、僕らは普段は昆虫に関心が薄い。

似ているような似ていないようなアリの社会生活を考えるのもたまには役に立つと思う。兎に角昆虫に関するあらゆる話題が満載の一冊です。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:830 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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