うちの2頭目となった子犬はちょっと怖がりだけれど、周囲に興味を持ち始めた。あちこちの匂いを嗅ぎ、ボールを追いかけ、影に向かってジャンピング!
あんなこんなの仕草を見ていると楽しい。
一方で、犬を見ているとあれこれ疑問もわく。
1頭目の犬は片足をちょっとだけあげておしっこするけど、2頭目は腰を下げてする。どちらも雌犬だ。それって何か意味がある・・・? ずっと青いままだった2頭目の眼は、ようやく黒っぽくなってきた。子犬は眼が青いものらしいけれど、青い眼が黒くなるのってなぜ・・・?
そんな風に日々「犬って不思議」と思っている、犬のオーナーさんにはもちろん、そうでない動物好きな人にも楽しく読めそうなのが、こちらの1冊。
著者は心理学者・動物行動学者でもあり、犬のトレーナーでもある。
認知心理学の著書も多いが、犬に関する著書もまた多い。
本書では、犬に関して人が日頃感じがちな疑問71を大まかに6つの章に分け、それぞれ短いコラムとしてまとめている。
日本語の副題はキャッチーな話題を特に選っているようで、いささかキワモノのなのかと思ったが、中味は常識的で読みやすく、犬についての現時点での研究成果がよくまとめられている。これもまた、「犬学」の一端と言えそうだ(参考:『犬が私たちをパートナーに選んだわけ』)。
71がそれぞれ短く完結しているのもよい。自分の知りたい項目だけ拾い読みするのも楽しいし、細切れ時間に読むにもよい。
犬を飼っていて生じるあれこれの「困った」に対して、即効性はないけれども、その原因を探る一助ともなりそうだ。
何より、著者の犬に対する愛や、犬との暮らしを楽しんでいる様子が感じられて温かい。
いくつか項目を挙げてみる。
・犬は本当にうつ病になるか?
・犬が遠吠えするのは、誰かの死が近い、という意味か?
・犬は鏡に映った自分がわかるか?
・犬の性格は遺伝的に決まるのか?
・犬はなぜ吠えるのか? やめさせることはできるのか?
・他の動物と比較して、犬はどのくらい賢いか?
・犬は汗をかくか?
・なぜ子犬の目は初めは青いのか?
(順不同)
「うつ病」に関しては、ヒトと似た症状を示す犬はいるようである。そして実際、ヒト用の抗うつ剤を投与してみたところ、症状の緩和が見られた例はあるようだ(ここで、抗うつ剤を犬にも使ってしまうところがアメリカ的な発想と思うが)。そうなるとこれは「うつ」と呼んでもよいのかも知れない。現代の犬もなかなか大変である。
遠吠えと不吉な予言の話は世界各地の民俗学的伝承にも触れていてなかなか興味深い。このあたり、複数分野にわたるバックグラウンドを持つ著者の広い視点を感じさせる。
犬はなぜ吠えるかについて。野生のイヌというのはほとんど吠えないのだそうである。ヒトは犬と共存するにあたって、番犬として利用するために、よく吠えるものを選び出してきた。だから犬が吠えるのは、ある意味、当然のことなのだ。この項だけでなく、他の項でも、経験に裏付けられた、トレーニングに関する助言もためになる。
さて、子犬の眼はなぜ青いのか。
その答えは冒頭のひと言の通り、「空の色」と同じ原理である。
子犬は誕生時、成熟しきっているわけではない。
眼には虹彩(瞳)と呼ばれる部分がある。光の量を調節する、「絞り」に当たる部分である。中央の瞳孔の大きさを変えて、目に届く光の量を加減するのが虹彩の役割だが、瞳孔以外のところから光が入るのを遮断するため、虹彩には色素がある。だがこの色素が発達するには時間が掛かる。
そこで生じるのが、子犬の眼の「青」である。これは色素によるものではない。「レイリー散乱」と呼ばれる物理的現象だ。光線が光を反射するものにぶつかった際、短い波長の光(=青く見える)の方がより激しく分散し、散り散りになって、全体が青く見えるのである。空が青いのも同じ原理だ。色素が発展するにつれて、多くの子犬の瞳の色は変わっていく。
巻末には参考文献が添えられ、索引もある。国際畜犬連盟に公認された犬種名も収録。
資料としても読み物としても優れた1冊。
*いや、実を言うと、本書で一番驚いたのは、犬種名のところで、柴を初めとする日本犬が「アジア原産スピッツ」と分類されていたことでしょうか(--;)。そうか、キミたちゃスピッツなのかい・・・。




分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)、ひよこ(ニワトリ化しつつある)4匹を飼っています。
*能はまったくの素人なのですが、「対訳でたのしむ」シリーズ(檜書店)で主な演目について学習してきました。既刊分は終了したので、続巻が出たらまた読もうと思います。それとは別に、もう少し能関連の本も読んでみたいと思っています。
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参考になる: | 16票 |
この書評へのコメント
- Wings to fly2014-11-05 17:43
鬱病かどうかはわかりませんが、ノイローゼ気味の犬に出会ったことあります。保育園の先生の飼い主さんと一緒に出勤していたら、子どもに触られまくられて極度な怖がりになってしまったそうです。うちの犬が幼犬の頃お世話になったトレーナーさんがリハビリしてました。すごく可愛いトイプードルなんですよ。でも可哀想なくらいビクビクしてるの。子どもの予想のつかない動きって、犬はストレスのもとなんでしょうかね〜。
クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - ぽんきち2014-11-05 21:28
Wings to flyさん
そうですか、かわいそう・・・。
トレーナーさんというのは、人で言ったらカウンセラーとか臨床心理士(?)みたいなこともされるんですね。
小さい子は悪気がなくても、ときに予想を超えた破壊的(^^;)なパワーがあることがありますねぇ。に加えて、トイプードルちゃんは少し、感じやすい繊細なわんちゃんだったのかもしれませんね。
いろんな仕事をする犬もいますが、犬種によって向き不向きはあるようで、概して温和で人と触れ合うのに向いている犬種、麻薬のようなものを熱心に探すことができる犬種とさまざまなようです。
また、同じ犬種でも性格の違いはありますね(はい、うちの2頭を見ていると、つくづくそう思います(^^;))。
ある環境が非常にストレスになるかどうかはその犬の持つ性質にもよるのでしょうね。
トイプードルちゃんの心の傷が癒えるとよいですねぇ・・・。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
- 出版社:築地書館
- ページ数:274
- ISBN:9784806714774
- 発売日:2014年05月30日
- 価格:2376円
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